秋田⇒男鹿⇒(
男鹿南線)⇒門前⇒(徒歩)⇒五社堂⇒(徒歩)⇒門前⇒(男鹿南線)⇒男鹿⇒(ホテルの送迎バス)⇒ホテル
男鹿半島の地図は
こちらのものがわかりやすい。私達が泊まった
男鹿桜島リゾートホテルきららかは加茂青砂と書いてあるあたりの海に突き出した崖の上で、男鹿国定公園桜島園地の中にある。だからなのか周囲に目障りな建物がない。
男鹿に行く人はたいてい半島の北側にある男鹿温泉郷に泊まるけれど、帰りに車の中から見た限りでは風情のないビルが並んだ温泉地で、内陸部なので眺めもよくない。温泉につかって土産物店に寄って帰るだけならいいけど、男鹿半島らしい絶景を楽しむなら南側がお勧め。初めの計画ではこの地図にある遊覧船に乗る予定だったのに何度電話しても誰も出ないので観光案内所に電話をして聞いたら5月になってからだって。サイトには「運航期間:4月第4土曜日~10月31日」って書いてあるのに。地元の人の話では県の補助が打ち切られたので継続が難しくなっているらしい。今回の旅行で感じたのだけれど、不便な土地はどんどん切り捨てられているみたいだね。
秋田駅のコンビニでお弁当用のおにぎりを確保し、各駅停車の男鹿線に乗車。北国らしく車両のドアは乗降客が自分で開け閉めするタイプ。駅によっては先頭車両しか開かないところもあるので、車内アナウンスに注意しておかなくてはならない。学生が乗る時間帯ではなかったためか、乗車率はかなり低め。


男鹿駅にはコインロッカーがないので男鹿駅前観光案内所に荷物を預かってもらい(前に東京から電話で訊いたとき、必ずその日のうちに引取りに来るなら預かってもいいと言ってくれた)、ローカルバスの乗り場に。日射しが強くて暑いくらい。

私たちと同じ電車で来たシニアのグループが案内所で「乗合タクシーサービスを使いたい」と訊いていた。前日予約を知らなかったんだろうな。まあ、5人くらいいたからメータータクシー(駅前に2台止まってた)でも男鹿温泉郷までひとり1000円くらいで行けるか。
男鹿南線のバスに乗り込んだのは10人くらい。こっちは車社会だから(というか公共交通がほとんどないから自家用車を使うしかない)、バスを使うのは未成年者とお年寄りだけだ。大荷物を抱えている人が多い。家の近くには店がないから男鹿駅まで来なくちゃならないんだろう。
バスは男鹿の町の中を中学校から高校、小学校、病院と回ってからようやく海岸沿いの道路に出る。このあたりは鵜ノ崎海岸といって、遠浅なんだけど、太平洋側のそれのように砂浜がなめらかに続くのではなく、ごつごつした岩肌が一面に顔を出している。パンフによると「干潮時に海底の岩肌が露出するくらいの浅瀬が200mくらい続いていて磯遊びの絶好のポイント」らしい。日本の渚100選にも選ばれているんだって。でも、裸足では遊べない。

途中でみんな降りてしまい、終点の門前まで乗っていたのは私たちと旅行者風の中年男性ひとりだけだった。人気のない駐車場で巨大ななまはげ像が出迎えてくれた。いや、あの手つきは「あっち行け!」って言ってるのかな。

運転手さんに赤神神社五社堂への道を教えてもらう。運転手さんもその日の朝登ったけどきつかったと言うのを聞いて、前途滅々。おまけに歩き出したら雨がぽつぽつ降ってきた。石段が草ぼうぼうなところからして登る人少ないんだろうなあと思わせるよね。でも、あとからわかったんだけど、マイカーで来た人たちはもう少し上にある駐車場で車を降り、そこから登るので、この入口を使う人はほとんどいないらしい。


春の花が咲き乱れる石段を登り始めたときにはまだ日も出ていて天気雨のようだったのが、長楽寺の屋根つきの門のところまで来る頃にはそれなりの小雨になっていた。とりあえずそこで雨宿りをしながら立ったままおにぎりを食べ、小降りになったのでまた登り始め、車で来た人たち用の駐車場・トイレ・屋根付き休憩所があるあたりまで行く。雨で石段の石が少しずつ色を変えていく。




休憩所に置いてある竹の杖を借り、先の見えない旅に出発。私はゆっくりとしか登れないので、友人には先に行ってもらった。どうしても登れなくなったら石段に坐って友人が降りてくるのを待つつもりだったのだけれど、何しろ雨がどんどん強くなってくるので坐ってなんかいられない。雨宿りができるような屋根付きの休憩所があるところまで行こうと歯をくいしばって登ったけど、そんなところ、ないのよねえ。


もうこうなったらさっきの休憩所まで戻ろうかと思ったときに、上から下りてくるカップルがいて、その人たちが「もう半分以上来てますよ。あそこに見える鳥居まで行けばらくになりますから」と教えてくれたので、またそれを頼りにぜえぜえ登る。
確かに、鳥居まで来ると石段の高さが低くなめらかになり、登りやすくなった。とはいえ、すでに疲労が蓄積されているので「最後まで一気に」とはいかない。強くなった雨脚に押されるるようにして、なんとか社務所が見えるところまでたどり着いたときには脚ががくがくよろよろ。完全に老婆。

友人が着いたときにはさっきのカップルのほかに登山コースを歩いている外国人グループがいたそうだけど、私が合流した頃には誰もいなくなり、森閑とした中をひとつひとつの社を見て歩いた。



五社堂は江戸時代中期の建造と言われ、屋根や柱の工法に特徴があるのだとか。素人目には何がどうなのかよくわからないけど、すべてが木で造られた建造物には素朴な美しさがある。先ほど苦労して登った石段は鬼が築いたんだって。いや、それ、どう考えても日本昔話の世界だから。999段と言っても実際には石が割れてごろごろになってるから数えられない。


澄みきった空気の中に立つ五社堂は神秘的で、苦労したけど来てよかった。とはいえ、社務所は無人だし、ベンチはあるけど屋根はないから、雨に濡れずに座ってゆっくりできる場所がない。仕方がないので戻ることに。帰りのバスまで待ち時間がけっこうあるから、ここでゆっくりしたかったんだけどなあ。

下りは呼吸器にはらくだったけど、登りで酷使した脚にはきつかった。おまけに雨で濡れた石は滑りやすく、苔のはえたところなんて、見た目は安全そうなくせに足を置いたとたんにつるっとくる。石段の脇の枯葉が厚く積もっているところがいちばん安全だけど、土が濡れて崩れやすくなっている個所もあるので油断できない。
雨の日にころんで酷い目に遭ったトラウマがまだ残っているので必要以上にびくついてしまい、えらく時間がかかってしまった。登るときには花の咲いた草を見て「きれいだなあ」と写真を撮ったりしていたのに、下りでは草が生えたところのほうが安心なので踏んで歩く始末。鬼だ! ごめんよ、タンポポ、カタクリ、イチリンソウ、ヒメオドリコソウ。
門前には車での旅行者用に駐車場と立派なトイレがある。遊覧船の発着所になっているので観光シーズンには賑わうようだけど、今は閑散としている。人の姿がなく、海鳥だけが大きな顔をしている。曇り空だからよけいに寂れた港町という印象になる。



何軒かある旅館は休業状態で、一軒だけ予約をすれば昼食ができるという旅館はあったけれど、喫茶はできない雰囲気。とにかく何もない。仕方がないのでバス待合所(屋根と扉がついたプレハブ小屋にベンチが並べてある)で帰りのバスを待った。すっかり冷え切ってしまい、暖房のきいたバスに乗れたときには天国かと思った。
16:13に男鹿駅に着くと、ホテルきららかのロゴがボディに描かれたミニバスが止まってた。運転席の窓ガラスを叩くと、16:27着の電車で来ると思っていた運転手さんはびっくり。
ほかに送迎バスを利用する人はいないのですぐに出発。ローカルバスで今日すでに二回通った道を走り出す。でも、海岸沿いを走る道路は眺めがいいので何度でも楽しめたし、運転手さんが教えてくれたおかげで、門前の手前にあるゴジラ岩も見ることができた。これ、言われなければ絶対にわからない。パンフやポスターにある写真では本物のゴジラみたいに大きく写っているけど、実際にはそのあたりにゴロゴロしている岩と同じくらい(高さは4メートルあるらしい)にしか見えないんだもの。世界三大ガッカリに入れてもいいくらいだ。
さっきも通った鵜ノ崎海岸、潮干狩りはできるのかと運転手さんに訊いたら、子供たちは貝ではなく蟹をとって遊ぶんだって。岩牡蠣もとれるらしい。
でも、男鹿半島の海岸線の素晴らしさはここからだった。道路がどんどん登りになっているなと思っているうちに、自分たちが断崖絶壁を覗きこむような位置にいることに気づく。浅瀬に平らな岩が顔を出している海は消え、深い色の海に巨大な岩がギザギザとくいこんでいるような荒々しい風景に変わっている。地図からはわからないけど道は意外にくねくねとカーブが多く、曲がるたびに新たな絶景が現れるという感じ。このあたりは「おが潮風街道」というらしい。あと一週間あとだったらこの海を遊覧船で行けたはずだったのよねえ。くやしい。

などなど話しているうちにホテルに到着。煉瓦色の細長い建物が崖を覗きこむように建っている。地下1階から3階まであって、大浴場、露天風呂は地下1階で海を眺められるようになっている。私たちの部屋がある3階は内風呂がついた客室が5室だけ。私たちの「嶺山居」はその中でいちばん小さい部屋。でも、お風呂に入って寝るだけだからこれで充分。下の写真だとベッドの足側と浴室のドアの間は蟹歩きしないと通れないみたいだけど、実際には普通に歩けるだけのスペースがある。

ベッドルームが狭いのは洗面所とお風呂のスペースが同じくらいあるからかも。でも、海に面した畳敷きの小上がりには、テーブル、座椅子のほかに、掘りごたつ式のカウンターテーブルがあり、腰掛けて海を眺めながら書き物をしたりネットをしたりできるので気分がいい。
部屋に案内され、お茶を飲んで一休みしているうちに食事の時間に。夕食は6時からと6時半からを選べたけれど、この日の日没は6時28分だったので6時からのにした。もっとも雨で空は灰色なので夕陽は期待できなかったけど。わずかに雲の隙間からもれる光でこんな感じ。

温泉付きのホテルだから食事も畳敷きの大広間だろうと思っていたらうれしい誤算で、海が見えるレストランという雰囲気でサービスも様式だった。海の幸をふんだんに使ったコースがタイミングよく運ばれてきて、とてもリラックスして食事ができる。お酒は田沢湖ビールのケルシュとアルトを小グラスで。
前菜 鰰(はたはた)寿司 ぎばさ 鯨甘酢和え 金目鯛と北寄芥子和え さつま芋レモン煮 ミニトマトライチシロップ漬け 雲丹椎茸と梅なめたけ
椀盛 澄まし汁(筍 蛤 岩海苔 三つ葉)
造り 鮪 鱧 間八 南蛮海老
小鍋 海鮮しゃぶしゃぶ(天然若布 桜鯛 野菜)
油物 真鯛兜揚げ 油淋鶏ソース
温物 桜海老あおさ饅頭 サザエのブルゴーニュ風
食事 男鹿天然真鯛の炊き込みご飯
香物 浅漬け(キャベツ ズッキーニ 人参)
水菓子 黒蜜きな粉プリン ミニケーキ 季に熟す実



兜揚げが食べにくかったのとサザエは塩焼きで食べたいと思ったほかは、どれも大満足のおいしさ。特に前菜は良い素材をうまく調理していて感激した。私は刺身が苦手なので、お造りをしゃぶしゃぶにして食べたらこれまたおいしくて。黒蜜きな粉プリンもおいしかった。スプーンがカレー用くらい大きかったのには笑ったけど。
送迎バスに乗ってきたのが私たち二人だけだったのでお客がいなくてガラガラなのかと思いきや、レストランでは10組くらいが食事をしていた。みんなマイカーで来るんだわね。シーズンになれば団体客が来るだろうけど、そういう人たちは2階の宴会場で食事するのかも。

お腹いっぱいになって部屋に戻り、友人は地下の大浴場へ(女湯の外で工事をしているので眺めが悪くなっているとチェックインの際に謝罪された)、私は内風呂に温泉の湯をためて入浴。海のそばだから当たり前だけどお湯がしょっぱい(飲んだわけではなく洗顔のときに唇についた)。
浴槽はヒバ材で縦横の長さも深さもたっぷり。お湯は水道水を沸かしたものと温泉とどちらでも選べるようになっている。お風呂に置いてあったお茶の洗顔フォームとピーリングジェルは本当にお茶の匂いがしてびっくり。使い心地もいい。シャンプーとリンスは馬油だった。これ、販売元は大阪の会社だけど製造元は男鹿のユゼという会社。地元の製品を置いているんだね。あとで売店に行ったらこうしたものも売っていたのでお茶の洗顔フォームを買って帰った。洗面所に置いてあった化粧品はコーセーの雪肌精。

大浴場から戻ってきた友人と冷蔵庫にあった田沢湖ビールを飲みながらTVを見ているうちに疲れが出てきたので、まだ9時台だったけどベッドに入ってバタンキュー。夜中に雷の音で何度か目が覚めた。窓に近いほうのベッドで寝ていた友人は稲光も見えたという。