2021年 05月 04日
敗者たちの季節 |
夏の甲子園地方大会、決勝戦でサヨナラ負けした海藤高校の投手・小城直登は、試合後も立ち直れずにいた。そんなところに、思わぬ報せが届く。優勝した東祥学園が出場を辞退したというのだ。繰り上がり甲子園出場が決まり、一度はあきらめた道をたどり始める選手たちだが・・・。
ふつうだったら類型的で「まあ、こんなもんよね」というふうになりそうなものだけど、そうなっていないのはさすが。
初めての挫折をなかなか受け入れられない直登、チームメートのせいで甲子園に行けなくなった球児たちの思い、教育者であり指導者である自分の気持ちを問い直す監督、実力が足りずベンチにとどまる主将のガールフレンド、自らのエラーで甲子園で敗退した苦い過去をもつ記者――章ごとに異なる視点から描いて、野球とは、甲子園に挑む意味とは、と読者にも考えさせる。
それにしても、野球にも高校野球にも関心のない私が、こんなにわくわくしながら読めるのってすごいよね。甲子園の初戦で、ワンアウト満塁で直登がバッターボックスに立った場面では、どきどきして読み進められず、しばらく間を開けてしまった。
高校野球の選手宣誓の内容を宣誓する選手が考えるのだとは知らなかった。てっきり定型文があって、それを暗記するだけだと。主将の尾上(私のお気に入り)が考えた宣誓文は心に響く。ひょっとしてこれを真似する現実の高校球児とか出ないかな。
宣誓。我々は高校球児として今日ここに集える喜び、甲子園でプレイできる歓びを噛み締め、自分たちの背負ったたくさんの思い、悩み、焦燥や迷いとともに、かけがえのない一日一日を生きて、かけがえのない一試合一試合を戦いぬくことを誓います。
敗者たちの季節 (角川文庫)
作者:あさのあつこ
出版社:KADOKAWA
ISBN:978-4041054796
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by timeturner
| 2021-05-04 19:00
| 和書
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