2021年 06月 03日
Answer in the Negative |
フリート・ストリートにある写真エージェンシーの資料保管室で働くフランク・モーニングサイドは、偏屈でもったいぶった性格で人気はなかったが、画像に関する超人的な記憶力で一目置かれていた。そのモーニングサイドが中傷の手紙の被害にあいノイローゼ寸前。どうやら中傷しているのは社内の人間らしいので密かに探ってほしいという依頼がジョニーとサリーのヘルダー夫妻に持ち込まれた。書店主のジョニーはアマチュア探偵としても名が知られている。だが、調べ初めて間もなく、モーニングサイドが殺された・・・。
ジョニーとサリーのコンビを主人公にしたシリーズの4作目ですが、これがいちばん出来がいいという評判も聞いていたので、まずはこれから読んでみました。
ジョニーは元特殊部隊員でフィジカルな能力と推理力をあわせもち、自営業だから時間を自由に使えるし、サリーは3人の子供の母親で専業主婦だけど、住み込みの乳母を雇っているので時間の自由がききます。
ふたりとも子供との時間は大切にするし、職業探偵がやりそうな無茶なことは極力避け、できるだけ頭を使った推理で解決しようとします。1920年生まれの人が書いただけに、ジョニーはサリーに対して保護者的な態度をとり、危険な仕事はさせようとしないし、なりゆきでしてしまったときには叱ります。サリーも夫の言うことには黙って従います。でもまあ、読んでいて不愉快になるほどではなかった。
地下鉄やバスをフルに使ってロンドンを歩き回るのですが、地下鉄の路線も町筋も(多分)ほとんど変わっていないので、自分も一緒に歩いているような気持ちになってきます。駅の建物や通りにある店は、私が思い描くのとこの作品の時代(1950年代)ではかなり違うでしょうけどね。
フリート・ストリートというのは新聞社が集まった地域で、ジャーナリストが行き交う地域なのですが、それを皮肉った描写がたまに出てくるのも面白い。
any rules there might be about dog not eating dog were not considered to apply here.でも、ミステリーとしての構成はちょっと物足りないかなあ。容疑者をひとりひとりクリアしていく過程が単調だし、いかにも犯人らしい人物がふたりの頭から完全にすっぽ抜けていると言う不自然さが納得いかない。
まあ、あえて読者をじらしているのかもしれませんね。ほかの作品も読んでみないとそういった作者の癖はわからない。
作者のヘンリエッタ・ハミルトンは本名Hester Denne Shepherd、1920年にダンディーで生まれ、オックスフォードのセント・ヒューズ・カレッジを卒業、戦後はロンドンの書店で働いて古書の知識を身に着けたそうです。ジョニーとサリーの設定はそのあたりから生まれたのでしょうし、この作品に登場するセリーナ・マーヴェルがオックスフォード卆でちょっと屈折しているのは、作者自身を投影しているのかもしれません。
英語の使い回しで面白かったのはhorse-and-buggy。自動車が出現する前の馬車時代=旧式なという意味です。今だったら「ネット以前」みたいな感じかな。
驚いたのはnon-Uという表現が使われていること。1950年代にはもう使われていたんですね。調べてみたら1954年にバーミンガム大学の言語学教授Alan S. C. Rossが最初にこの言い方を使い、1950年代のイギリスでかなり注目を集めたらしい。
Answer in the Negative (The Sally and Johnny Heldar Mysteries Book 5)
作者:Henrietta Hamilton
出版社:Agora Books
ISBN:Kindle版
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by timeturner
| 2021-06-03 19:00
| 洋書
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