2015年 09月 30日
角野栄子さんと子どもの本の話をしよう |

面白いなあと思ったのは、あらかじめ到達点を決めてそれに向かって話を進めていく、この手の会にありがちな方式ではなく、すべてがその場のノリで自由に進んでいくようにしたこと。これは、高楼さんが発言していましたが、苦手な人には本当にドキドキものだと思います。「あらかじめ」用意していても心臓がバクバクしてしまうたちの私などは、そんなところに引っ張り出されたら頭が真っ白になって何もしゃべれないんじゃないかなあ。
でも、角野さんは大学を卒業してすぐに、目的もなく言葉もできないのに船に二か月乗ってブラジルに行き、そこで暮らしちゃったというエピソードの持ち主だけに、「あらかじめ」定められた路線を歩くのが大嫌い。そういう人が核となっての鼎談なので、苦手だ苦手だと言いながら高楼さんも面白い話をいっぱいしているし、もともと自由形のあべさんなんかはどこまでも突っ走っちゃうしで、結果的には正解だったみたいです。
一応、ゲストの仕事に合わせてテーマは決まっていますが、話の内容も自由にあちこち飛びまくるので、どの会でもそれほどテーマにこだわることなく面白い話がいっぱい聞けます。こういう形で話し合っていると、それぞれの方たちの性格というか特質がすごくよく見えてきますね。まあ、それぞれに才能ある人たちばかりだから、それが際立っているということもありますが。
1幼年童話──物語がうまれるとき(角野、高楼、富安)
2絵本・翻訳──世界に通じる言葉のリズム(角野、荒井、金原)
3児童文学──会話文のおもしろさ(角野、田中、令丈)
4街や自然、動物からうまれる物語(角野、あべ、穂村)
話の内容という点では、大好きな児童文学作家ふたりがゲストになっている1が断トツ。日々の暮らしの中から自然に物語が生まれてくるという角野・富安組に対して、書くと決めてから熟慮に熟慮を重ねて書くという高楼さんとのコントラストは、それぞれの作風と比べると実に納得がいきました。とはいえ、三人とも子どもの頃のことを実によく覚えている点は、児童文学作家になるための試金石のひとつかもしれないと、中学より前の記憶がほとんどない私は思いました。
2でいちばん感じたのはクリエイターと翻訳者の違い。金原さんは大学で教えたり、翻訳講座で教えたりと話すことに慣れている人だけれど、個性の強いクリエイター二人に挟まれると、とたんに翻訳者に徹してしまうんですね。自分の話をするよりも、二人の話をわかりやすく言いかえたり、さらに話を引きだしたりというインタビュアーの位置についてしまう。これって面白いです。
3は日本の児童文学をあまりたくさん読んでいないので「ああ、あれか」と思いあたる例が少なかったのですが、視点人称の違いや方言の話は翻訳のときにもぶつかる問題と重なっていて興味深かった。
4は、なんといってもあべ弘士さん! 本当にユニークな人ですねえ。4回の鼎談のそれぞれ最初に参加者3人が自己紹介がわりに自分の話を3つずつするというのがあって、そのうちのひとつだけが本当のことというルールなんですよね。なにしろふだんお話を書いている人たちだから、それぞれにとてもユニークで楽しいウソがたくさん出てくるのですが、そんな中で燦然と輝いていたのがあべ弘士さんでした。もう、ウソもホントもすべて面白い。あの穂村さんが感動していましたけど、ずーっといつまでも聞いていたいと思わせる内容、語り口なんです。なにしろ想像力に加えて長い動物園勤務で蓄積した厖大な知識がありますからねえ。
角野栄子さんと子どもの本の話をしよう
作者:角野栄子/高楼方子/富安陽子/荒井良二/金原瑞人/ひこ・田中/令丈ヒロ子/あべ弘士/穂村弘
出版社:講談社
ISBN:4062194287
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by timeturner
| 2015-09-30 21:13
| 和書
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