2007年 11月 06日
Eastern Promises |
病院で助産婦として働くアンナは、ある日救急車で運ばれてきた少女のお産に立ち会う。赤ん坊は無事に産まれたが母親は死に、ハンドバッグに唯一入っていたのはロシア語で書かれた日記帳だった。日記に挟まれていたカードのロシア・レストランを訪ね、死んだ少女の身元を訊ねたことからアンナは想像もしたことのないようなロンドンの暗部に足を踏み入れることになる・・・。
ヴィゴが「ヒストリー・オブ・バイオレンス」に続き、再びデヴィッド・クローネンバーグ映画に出演。このふたりはなんだかえらく気が合ってしまったようです。クローネンバーグにはいまだにインディペンデント系映画の監督っぽいところが残っているけれど、こんなふうに同じ俳優を立て続けに使うというのもインディっぽいと思ってしまいました。
映画通に人気のあるクローネンバーグ監督作品で、おまけにロンドンが舞台とあって宣伝にはかなり力が入っていたようで、新聞、雑誌、地下鉄駅、二階建バス、あらゆるところに広告が出ていました。映画館に置いてあるパンフでも一押しの扱い。ロンドン映画祭の主催元であるBFI(British Film Institute)発行の Sight & Sound 誌でも取り上げていました。
今回も暴力の話ですが、前回がのぺらーと広い印象のアメリカ中西部が舞台だったのに対して、こちらはロンドンのイーストエンドが舞台。しかもロシアンマフィアの世界です。当然ながら画面の色調は常に暗く、ビロードやブロケードのカーテンやソファが使われた室内を蝋燭の灯りで撮ったような赤っぽい画面はちょっとドゥ・ラトゥールの絵を思い出させました。
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」はヴィゴの演技やヴィジュアル面での可愛さ、それに映画としての完成度は認めるものの、生理的にどうしても受け入れられない映画でした。それとは逆にこちらは見たあとの後味は悪くありません。クローネンバーグの作品の中ではかなりハッピーエンド寄りでわかりやすい話だと思いました。ただ、それを逆に見ると深みがないような気も・・・。「ヒストリー・オブ・バイオレンス」は見たあとでいつまでも色々なことを考えさせられたのですが、今回は見ている間はぐぐっと映画の中に引き込まれているものの、終わったあとはすっきり、という感じ。まあ普通の娯楽映画というものはそれが当たり前なんですが。
マフィアを描いた映画と言えば「ゴッドファーザー」で、あれと比べてしまうと小粒というか、どろどろした重くて暗くて熱いものが感じられないんですよね。まあイタリアマフィアとロシアマフィアの温度差なのかもしれません。とはいえ相変わらずツボをおさえたカメラワークと無駄のない展開はクローネンバーグならではの職人芸です。
ロシアマフィアのドンを演じたアーミン・ミューラー=スタールがとてもいい俳優さんでした。やさしくて料理上手なお爺ちゃんの顔がするっと一気に冷酷なマフィアの顔になるところが怖い。ダメダメ息子のヴァンサン・カッセルもちょっと大袈裟な演技(そういう演出だったんでしょうね)でしたがいいキャラでした。どこよりもマッチョな世界で偉い父親の跡を継ぐことを期待されているのだけれど、それほどの器ではなく、しかも実はホモ。その辛さから酒に溺れることとニコライに依存することで逃げようとしている。
キリルの謎めいた運転手ニコライを演じたヴィゴの演技は新聞・雑誌などのレビューでは絶賛されているのですが、私の目からはどうもいまいち。どの表情も仕草も過去の演技の焼き直しに見えちゃって。でもこれってファンならではの問題なのかもしれません。出演作品を片っ端から、中には同じものを何度も見てると何を見ても新鮮に感じられなくなっちゃうのかもね。
あと、クローネンバーグという人が妙なユーモア感覚の持ち主で、普通の人がシリアスになるはずのところで笑いをとりたがることが多い。ヴィゴもまたそういうのが好きだから、受けを狙ってクサく見える大袈裟な演技を取り入れたというのもあるかも。最初のほうで凍った死体の指や歯を除くシーンで手品師のように気取った手つきをする後姿には思わず笑ってしまいました。
メディアでいちばんの話題となった場面はヴィゴが全裸で着衣の男ふたりと争うシーンなんですが、これがもう見ていて「痛っ!」と叫んでしまいそうなリアルさ。ふたりの男たちの武器は絨毯を切るための先が斧みたいになったナイフで、これで裸の体を刺したり切ったりするんですよ。インタビューで監督が拳銃で撃つよりナイフで刺すほうが被害者をより近く(intimately)感じることができると言っていましたが、切られる痛さというのは誰にでも生で想像できるだけに恐ろしいです。それもこれ以上ないくらいに無防備な裸なわけですから。ああいうところの演出は巧いですよねえ。1回目に見たときには途中何度か目をつぶってしまいました。
ネタバレを避けていたにも関わらず、うっかり目にしてしまった写真や記事のタイトルから大体のあらすじは想像がついていたので、見てびっくりというシーンはなかったのですが、この裸乱闘シーンは想像以上のインパクトでした。
音楽は長年コンビを組んでいるハワード・ショアで、ロシア民謡をとり入れたセンチメンタルだけどきれいな曲です。夜のシーンに流れる音がとても美しくて画面と音の相乗効果を上げていました。「ヒストリー・オブ・バイオレンス」のときは「ロード・オブ・ザ・リング」っぽいのが気になったんですが、もうふっきれたようです。
ところで、ナオミ・ワッツの母親を演じたシニード・キューザックはジェレミー・アイアンズの奥さんだと知ってびっくり。
原題:Eastern Promises(2007)
上映時間:100 分
製作国:イギリス/カナダ/アメリカ
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、ナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセル、アーミン・ミューラー=スタール、シニード・キューザック、イエジー・スコリモフスキー、Mina E. Minaほか。
ヴィゴが「ヒストリー・オブ・バイオレンス」に続き、再びデヴィッド・クローネンバーグ映画に出演。このふたりはなんだかえらく気が合ってしまったようです。クローネンバーグにはいまだにインディペンデント系映画の監督っぽいところが残っているけれど、こんなふうに同じ俳優を立て続けに使うというのもインディっぽいと思ってしまいました。
映画通に人気のあるクローネンバーグ監督作品で、おまけにロンドンが舞台とあって宣伝にはかなり力が入っていたようで、新聞、雑誌、地下鉄駅、二階建バス、あらゆるところに広告が出ていました。映画館に置いてあるパンフでも一押しの扱い。ロンドン映画祭の主催元であるBFI(British Film Institute)発行の Sight & Sound 誌でも取り上げていました。
今回も暴力の話ですが、前回がのぺらーと広い印象のアメリカ中西部が舞台だったのに対して、こちらはロンドンのイーストエンドが舞台。しかもロシアンマフィアの世界です。当然ながら画面の色調は常に暗く、ビロードやブロケードのカーテンやソファが使われた室内を蝋燭の灯りで撮ったような赤っぽい画面はちょっとドゥ・ラトゥールの絵を思い出させました。
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」はヴィゴの演技やヴィジュアル面での可愛さ、それに映画としての完成度は認めるものの、生理的にどうしても受け入れられない映画でした。それとは逆にこちらは見たあとの後味は悪くありません。クローネンバーグの作品の中ではかなりハッピーエンド寄りでわかりやすい話だと思いました。ただ、それを逆に見ると深みがないような気も・・・。「ヒストリー・オブ・バイオレンス」は見たあとでいつまでも色々なことを考えさせられたのですが、今回は見ている間はぐぐっと映画の中に引き込まれているものの、終わったあとはすっきり、という感じ。まあ普通の娯楽映画というものはそれが当たり前なんですが。
マフィアを描いた映画と言えば「ゴッドファーザー」で、あれと比べてしまうと小粒というか、どろどろした重くて暗くて熱いものが感じられないんですよね。まあイタリアマフィアとロシアマフィアの温度差なのかもしれません。とはいえ相変わらずツボをおさえたカメラワークと無駄のない展開はクローネンバーグならではの職人芸です。
ロシアマフィアのドンを演じたアーミン・ミューラー=スタールがとてもいい俳優さんでした。やさしくて料理上手なお爺ちゃんの顔がするっと一気に冷酷なマフィアの顔になるところが怖い。ダメダメ息子のヴァンサン・カッセルもちょっと大袈裟な演技(そういう演出だったんでしょうね)でしたがいいキャラでした。どこよりもマッチョな世界で偉い父親の跡を継ぐことを期待されているのだけれど、それほどの器ではなく、しかも実はホモ。その辛さから酒に溺れることとニコライに依存することで逃げようとしている。
キリルの謎めいた運転手ニコライを演じたヴィゴの演技は新聞・雑誌などのレビューでは絶賛されているのですが、私の目からはどうもいまいち。どの表情も仕草も過去の演技の焼き直しに見えちゃって。でもこれってファンならではの問題なのかもしれません。出演作品を片っ端から、中には同じものを何度も見てると何を見ても新鮮に感じられなくなっちゃうのかもね。
あと、クローネンバーグという人が妙なユーモア感覚の持ち主で、普通の人がシリアスになるはずのところで笑いをとりたがることが多い。ヴィゴもまたそういうのが好きだから、受けを狙ってクサく見える大袈裟な演技を取り入れたというのもあるかも。最初のほうで凍った死体の指や歯を除くシーンで手品師のように気取った手つきをする後姿には思わず笑ってしまいました。
メディアでいちばんの話題となった場面はヴィゴが全裸で着衣の男ふたりと争うシーンなんですが、これがもう見ていて「痛っ!」と叫んでしまいそうなリアルさ。ふたりの男たちの武器は絨毯を切るための先が斧みたいになったナイフで、これで裸の体を刺したり切ったりするんですよ。インタビューで監督が拳銃で撃つよりナイフで刺すほうが被害者をより近く(intimately)感じることができると言っていましたが、切られる痛さというのは誰にでも生で想像できるだけに恐ろしいです。それもこれ以上ないくらいに無防備な裸なわけですから。ああいうところの演出は巧いですよねえ。1回目に見たときには途中何度か目をつぶってしまいました。
ネタバレを避けていたにも関わらず、うっかり目にしてしまった写真や記事のタイトルから大体のあらすじは想像がついていたので、見てびっくりというシーンはなかったのですが、この裸乱闘シーンは想像以上のインパクトでした。
音楽は長年コンビを組んでいるハワード・ショアで、ロシア民謡をとり入れたセンチメンタルだけどきれいな曲です。夜のシーンに流れる音がとても美しくて画面と音の相乗効果を上げていました。「ヒストリー・オブ・バイオレンス」のときは「ロード・オブ・ザ・リング」っぽいのが気になったんですが、もうふっきれたようです。
ところで、ナオミ・ワッツの母親を演じたシニード・キューザックはジェレミー・アイアンズの奥さんだと知ってびっくり。
原題:Eastern Promises(2007)
上映時間:100 分
製作国:イギリス/カナダ/アメリカ
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、ナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセル、アーミン・ミューラー=スタール、シニード・キューザック、イエジー・スコリモフスキー、Mina E. Minaほか。
by timeturner
| 2007-11-06 13:54
| 映画
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