2006年 12月 01日
麦の穂をゆらす風 |
アイルランド南部の小さな町コーク。ロンドンでの病院勤務を目前にしていた青年医師デミアンは、約束されていた将来を捨て、兄テディのいるIRA(アイルランド共和国軍)に加わる。アイルランド独立のための激しい戦いの末、1921年に講和条約が締結されるが、それは完全な独立からは程遠い内容でアイルランド人の間に賛成派と反対派の対立が生まれ内戦へと発展する…。
時代背景は知っていたし、必ず泣く映画だというような宣伝もされていたので、元気なときじゃないと見に行く気が起きませんでした。あちこちで見かける映画評がやたらといいので、混んでるだろうなあと思ったし。
なのでモチベーションが高まる(^^;)1000円デー(有楽町シネカノンは女性だけでなく男性も水曜は1000円)に行ってみました。意外なことに始まる間際でも前のほう2~3列は空いていた。まあこの手の映画は見る人の数が限られているから、ある程度の日にちが過ぎると空くものなのかもしれません。
確かに見ていて辛い場面もありましたが、娯楽としての映画だけでなく、こういう映画-ふだん忘れてしまっていることを思い出させ、考えさせる映画-も見なきゃ駄目ですね。アイルランドの自然がとても美しく描かれているので映画館のスクリーンで見るほうがいいと思う。
以下はネタバレです。
前半の英国軍が暴虐の限りをつくす様子を描いた部分では正視に耐えないシーンがたくさんありました。私は人が痛い目に遭わされるのを見るのが苦手なので、いつもは目をつぶってしまうんですが、どういうわけかこの映画では「目をつぶらずしっかり見届けなくちゃ駄目だ」という気になり、ほんの2~3秒を除いてしっかり全部見ました。
同様に泣いてしまうシーンでも、涙をハンカチで拭うときに視界がさえぎられて見えなくなるのがいやで、目の下にハンカチを当てて、涙で視界が曇らないように目をぐわっと見開いていました。はたから見たらおそろしく不気味な姿だったと思う(^^;)。
ただ、後から考えると拷問されたり暴力をふるわれたりしている人たちの悲鳴がそれほどすさまじくはなかったような気がします。実際にあんなことをされたら、おそらく人間とは思えない音を出しそう。ひょっとしたらそのあたりを抑えめにしてレーティングを下げ、なるべく幅広い観客に見てもらおうという心積もりがあったのかもしれない。(根拠のない想像)
舞台はコークですが、私が訪れたときに見たそれなりに発達した地方都市の印象はかけらもなく(そりゃあ80年も前の話ですから)、画面に出てくるのも郊外の電気も水道もないような農村がほとんどです。手つかずの美しい自然の中で人間たちだけが争い、血を流しているのがものすごく異常に見えました。
前半の英国軍の鬼畜ぶりは聞きしに勝るものがありますが、こういうの、現代の英国人はどういう思いで見るのでしょう。現代のドイツ人がナチスをテーマにした映画を見るときと似てるのかな。でも、どんな国にも(太平洋の孤島は別かもしれませんが)他国や他民族を迫害したり差別したりした歴史というものはありますよね。日本だって同じ。だから、ケン・ローチ監督へのインタビューでインタビュアーが「イギリス人であるあなたがこの映画を作ったというのは贖罪の意味がこめられているのですか」と聞いているのを読んだときは???と思いました。
後半の内戦状態になってからのアイルランド人同士の殺し合いはさらに悲惨。どちらの言い分にも頷ける部分があるだけになおさら辛いです。今もまだ解決していないということがなおさらに。さらに人間を救うものであるはずの宗教(ここではキリスト教)がこの場合には人間同士を引き裂くものになっているのも怖いと思いました。
出演俳優はキリアン(コーク出身)を初めほとんどがアイルランド人で、言葉はアイルランド訛りの英語とゲール語。聞いた話ではイギリスで上映するときに英語字幕がついたそうです。主演のキリアンはインテリの設定なのでわりあいわかりやすいのですが、農民たちや老人は何を言ってるのか全くわかりませんでした。アクセントの場所とか発音の違いなんて生易しいものではなくて、言葉がまるっきり違います。
デミアンが故郷に残る決心をするきっかけのひとつになったのが友人ミホールの死ですが、ミホールというのはイギリス英語だとマイケル。英国軍に「名前は?」と聞かれたときにマイケルと答えることを拒んだために惨殺されてしまうんです。
キリアン・マーフィのルックスは私の好きなタイプじゃないんですが、映画を見るたびにその役にぴったりハマっていて納得させられてしまいます。最後のシーンで目を伏せていた彼が最後に上を向いてあの強烈な瞳を見せたときには、胸がズキンと痛みました。
キリアン以外は知らない俳優さんばかりでしたが、デミアンが慕う古強者の闘士ダン(リーアム・カニンガム)がかっこよかった。
公式サイトはこちら。
原題:The Wind That Shakes The Barley(2006)
上映時間: 126 分
製作国: イギリス/アイルランド/ドイツ/イタリア/スペイン
監督:ケン・ローチ
出演:キリアン・マーフィ、ポードリック・ディレーニー、リーアム・カニンガム、オーラ・フィッツジェラルド、メアリー・オリオーダン、メアリー・マーフィ、ローレンス・バリー、ダミアン・カーニー、マイルス・ホーガン、マーティン・ルーシー、ジェラルド・カーニー、ロジャー・アラム、ウィリアム・ルアンほか。
時代背景は知っていたし、必ず泣く映画だというような宣伝もされていたので、元気なときじゃないと見に行く気が起きませんでした。あちこちで見かける映画評がやたらといいので、混んでるだろうなあと思ったし。
なのでモチベーションが高まる(^^;)1000円デー(有楽町シネカノンは女性だけでなく男性も水曜は1000円)に行ってみました。意外なことに始まる間際でも前のほう2~3列は空いていた。まあこの手の映画は見る人の数が限られているから、ある程度の日にちが過ぎると空くものなのかもしれません。
確かに見ていて辛い場面もありましたが、娯楽としての映画だけでなく、こういう映画-ふだん忘れてしまっていることを思い出させ、考えさせる映画-も見なきゃ駄目ですね。アイルランドの自然がとても美しく描かれているので映画館のスクリーンで見るほうがいいと思う。
以下はネタバレです。
前半の英国軍が暴虐の限りをつくす様子を描いた部分では正視に耐えないシーンがたくさんありました。私は人が痛い目に遭わされるのを見るのが苦手なので、いつもは目をつぶってしまうんですが、どういうわけかこの映画では「目をつぶらずしっかり見届けなくちゃ駄目だ」という気になり、ほんの2~3秒を除いてしっかり全部見ました。
同様に泣いてしまうシーンでも、涙をハンカチで拭うときに視界がさえぎられて見えなくなるのがいやで、目の下にハンカチを当てて、涙で視界が曇らないように目をぐわっと見開いていました。はたから見たらおそろしく不気味な姿だったと思う(^^;)。
ただ、後から考えると拷問されたり暴力をふるわれたりしている人たちの悲鳴がそれほどすさまじくはなかったような気がします。実際にあんなことをされたら、おそらく人間とは思えない音を出しそう。ひょっとしたらそのあたりを抑えめにしてレーティングを下げ、なるべく幅広い観客に見てもらおうという心積もりがあったのかもしれない。(根拠のない想像)
舞台はコークですが、私が訪れたときに見たそれなりに発達した地方都市の印象はかけらもなく(そりゃあ80年も前の話ですから)、画面に出てくるのも郊外の電気も水道もないような農村がほとんどです。手つかずの美しい自然の中で人間たちだけが争い、血を流しているのがものすごく異常に見えました。
前半の英国軍の鬼畜ぶりは聞きしに勝るものがありますが、こういうの、現代の英国人はどういう思いで見るのでしょう。現代のドイツ人がナチスをテーマにした映画を見るときと似てるのかな。でも、どんな国にも(太平洋の孤島は別かもしれませんが)他国や他民族を迫害したり差別したりした歴史というものはありますよね。日本だって同じ。だから、ケン・ローチ監督へのインタビューでインタビュアーが「イギリス人であるあなたがこの映画を作ったというのは贖罪の意味がこめられているのですか」と聞いているのを読んだときは???と思いました。
後半の内戦状態になってからのアイルランド人同士の殺し合いはさらに悲惨。どちらの言い分にも頷ける部分があるだけになおさら辛いです。今もまだ解決していないということがなおさらに。さらに人間を救うものであるはずの宗教(ここではキリスト教)がこの場合には人間同士を引き裂くものになっているのも怖いと思いました。
出演俳優はキリアン(コーク出身)を初めほとんどがアイルランド人で、言葉はアイルランド訛りの英語とゲール語。聞いた話ではイギリスで上映するときに英語字幕がついたそうです。主演のキリアンはインテリの設定なのでわりあいわかりやすいのですが、農民たちや老人は何を言ってるのか全くわかりませんでした。アクセントの場所とか発音の違いなんて生易しいものではなくて、言葉がまるっきり違います。
デミアンが故郷に残る決心をするきっかけのひとつになったのが友人ミホールの死ですが、ミホールというのはイギリス英語だとマイケル。英国軍に「名前は?」と聞かれたときにマイケルと答えることを拒んだために惨殺されてしまうんです。
キリアン・マーフィのルックスは私の好きなタイプじゃないんですが、映画を見るたびにその役にぴったりハマっていて納得させられてしまいます。最後のシーンで目を伏せていた彼が最後に上を向いてあの強烈な瞳を見せたときには、胸がズキンと痛みました。
キリアン以外は知らない俳優さんばかりでしたが、デミアンが慕う古強者の闘士ダン(リーアム・カニンガム)がかっこよかった。
公式サイトはこちら。
原題:The Wind That Shakes The Barley(2006)
上映時間: 126 分
製作国: イギリス/アイルランド/ドイツ/イタリア/スペイン
監督:ケン・ローチ
出演:キリアン・マーフィ、ポードリック・ディレーニー、リーアム・カニンガム、オーラ・フィッツジェラルド、メアリー・オリオーダン、メアリー・マーフィ、ローレンス・バリー、ダミアン・カーニー、マイルス・ホーガン、マーティン・ルーシー、ジェラルド・カーニー、ロジャー・アラム、ウィリアム・ルアンほか。
by timeturner
| 2006-12-01 20:12
| 映画
|
Comments(2)
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by
atsuko
at 2006-12-02 23:10
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マイケルは、オランダ語読みでは、ミヒールになるんです。イギリス英語より、アイルランド語(なまり?)のほうがオランダ語にちかいってことですかね?公式サイトの歌詞を読んで泣きそうになりました。
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by
timeturner at 2006-12-03 14:29
あの歌は映画の中でも効果的に使われていて、私も泣きました。字幕でなく耳から聞こえる歌詞だけで全部理解できたらもっと泣いたかもしれません。