2021年 10月 23日
だから死ぬ気で旅に出た |
子どもの頃から周囲になじめず、母親とも相性最悪、依存していた恋人にも去られた恭子は幻聴を聞くようになった。精神病院に入院するしかないと思ったとき、ツインタワーの爆破テロが起こり、明日どうなるかなんて誰にでもわからないと悟った恭子はひとりで旅に出た・・・。実在の女性の半生と旅の記録をコミック化したもの。臨床心理士・信田さよ子氏との対談を巻末に収録。
スペインとグアテマラに留学して身に着けたスペイン語でアルゼンチン、ボリビア、ペルー、ベネズエラ、コロンビア、フィリピンと仕事やプライベートで旅をし、行く先々で死ぬか生きるかの目に遭い、そのたびになんとか切り抜けてきた恭子さん。
アンデスで遭難しかけたり、謎のフルーツにあたって死にかけたり、軍に拘束されたり、大金を盗まれたり、サンティアゴ巡礼路を歩いたり・・・どこに行っても何かしら起こるが、恭子さんは冷静さを失わない。かといって自分の強運をあてにして無策でいるわけではない。
無知は悪だ。不運ではなく無知だから、トラブルに遭うしだまされる。知識があれば「一を聞いて十を知る」の言葉どおりに物事の解像度が上がる。柔軟性こそが賢さ。強いものではなく、適応したものが生き残る。ただし、波風を立てずに流されていくことは柔軟性ではない。世界を旅してさまざまな国のさまざまな人たちと出会ってきた恭子さんは、自分にとって大切なことをしっかり考え、選びとってきたようだ。作中で、あるいはコラムで語られる言葉にそれが反映されていて素敵だなあと思う。
万人にあてはまる形をした幸せなど、実はこの世のどこにもない。臆病者のわたしからすると凄すぎて「うわあ」という言葉しか出てこないけど、ここまでふっきることができたら生きやすいのかな。でも、こうなるには本当に死ぬ気にならないとだめだろうし、生き残るためには強靭な生命力が必要なんだろう。いずれもわたしにはないものだ。
自分のペースでひたすら歩き、しっかり食べてぐっすり眠る。毎日ただそれを繰り返すことのありがたさよ。生きるということはただそれだけで十分なのだ。本当はどこまでも自分の足で歩いていける。非力ではあるが決して無力ではないことに気づかされる道だ。
最後のほうに2020年2月以降、ハンドキャリアーの仕事はなくなったと書いてあった。そりゃそうだよね。まだしばらくは仕事がなくて大変なんじゃないかなあ。それ以上に日本に閉じ込められるのがつらいだろうな。そろそろ出ていっちゃうんじゃないかな。
国籍、人種、言語、宗教、文化を同じくする弱者を切り捨てる同胞と、コロナ禍に日本で軟禁される居心地の悪さよ。世界は広く、人生は短い。
だから死ぬ気で旅に出た (comicタント)
作者:片岡恭子
作画:小沢カオル
出版社:ぶんか社
ISDN:Kindle版
by timeturner
| 2021-10-23 19:00
| 和書
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