2020年 11月 29日
お楽しみが一杯! |
ミステリー作家の著者が人生の哀歓をさりげなく綴った短編傑作集。「いつでもどこでも楽しめる」を主眼に書かれた17の物語。
《セーラ・ケリング》シリーズの主人公セーラの恋人マックスの知られざる本業の実態を面白おかしく描いている「帰り途」や、ピーター・シャンディ教授がそのヒネクレ振りを発揮する「にぎやかな眠り」など、マクラウドが長編小説で活躍させた人物たちもたくさん登場しています。
帰り途
モニク
にぎやかな眠り
五十エーカーの最上の海草
遺憾きわまる物語
ベアード・ウィニントン飛行船の不思議な事件
時間誘拐
クリーンな石板
マイルズ・ピーボディの凶悪な求婚
執念
猫のほうが大事
バタレイ夫人の恋人
レディ・Gの旅
父はなんでも知っている
任務:結婚
マーティンのように
悪党ヴォードビリアンの卑劣なディレンマ
「にぎやかな眠り」は同名の長編ミステリーの元になった短編で、これが最初はボツになったなんてびっくりですが、アメリカでこんなふうにクリスマスを茶化すことが平気になったのは最近のことなのかも。ピーター・シャンディ教授とクリスマスの話って前に読んだ気がするけどこれじゃない、変だなあと思って調べてみたら、マクラウドが編集したアンソロジー『サンタクロースにご用心』に収録されていた「贋札造りのクリスマス」だった。
「五十エーカーの最上の海草」と「時間誘拐」には天才科学者ジェイムズ・カーター=ハリソンが登場しますが、後者はタイムマシンが出てくるなんちゃってSFです。結末は想像がつくけれどユーモラスで気軽に読める。
「遺憾きわまる物語」は『消えた鱈』の元ネタ、「ベアード・ウィニントン飛行船の不思議な事件」は戯曲『アルコール科学者事件』になりというふうに、転んでもただでは起きない作家魂がよくわかります。
「執念」はミステリーではなく怪談ですが、なんと最初から最後まで実際に夢に見たものを書きとめたのだそう。作家ってすごいなあ。
「猫のほうが大事」は短いけれどピリッとした結末に満足。黒猫の名前がトミーというのだけがなんとなく不満。
「バタレイ夫人の恋人」はタイトルから想像がつくように『チャタレイ夫人の恋人』のパロディ。個人的にはこっちのほうが本編より好ましい。
「レディ・Gの旅」は没落した名家の末裔が先祖伝来の絵を売って食いつなぐ話なんだけど、みじめったらしさはなくて楽しいエンディング。
「父はなんでも知っている」と「任務:結婚」は、男が支配する社会で虐げられながら生きる女と抵抗する女、正反対のヒロインが登場するけれど、どちらも結末は女性作家ならではの爽快感があって好き。
「マーティンのように」はいかにも居そうな仕切り屋の姉をもつ不幸がリアルに描かれている。原題はMore Like Martineで、本来はマルティーヌだと思うんだけど、英語圏ではマーティンって発音するのかな? それとも男勝りで社会的成功をおさめている女性なので、男のようにマーティンと呼ばせているという設定なのかな。
「悪党ヴォードビリアンの卑劣なディレンマ」は、探偵フォックスがヴォードビルの舞台の上で殺人犯を暴き出すという派手な趣向。
お楽しみが一杯! (創元推理文庫)
原題:Grab Bag
作者:シャーロット・マクラウド
訳者:高田恵子、浅羽莢子
出版社: 東京創元社
ISBN:978-4488246150
by timeturner
| 2020-11-29 19:00
| 和書
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