2019年 10月 08日
休日はコーヒーショップで謎解きを |
銃を持って押し入ってきた男は、なぜ人質に「憎み合う三人の男たち」の物語を話すのか?(二人の男、一挺の銃)、腕利きの殺し屋に次々と降りかかる予測不可能な出来事(残酷)、常連が殺されたコーヒーショップで、ツケをチャラにするため犯人捜しをはじめる詩人(赤い封筒)など、バラエティ豊かな短編9編を収録。
わたし的に気に入ったのは「二人の男、一挺の銃」「宇宙の中心」かな。作者が社会的な問題に向ける視点がよくわかる「列車の通り道」「消防士を撃つ」もいい。
ローズヴィルのピザショップ クローネンバーグの「ヒストリー・オブ・バイオレンス」みたいだったらやだなと思いながら読んだけど、もっといい話だった。でも、ピザ屋より妻のほうが英雄じゃない?
残酷 思いがけない展開があざやか。主人公と読者は疲れたけど作者は楽しかっただろうなあ。
列車の通り道 なんと孤児列車がテーマになっている。ちょっとオセンチだけど、このテーマでバッドエンドだったら作者を許せないから無問題。
共犯 刑務所の囚人と親しくなる人の話はよく聞くけど(カポーティだってそうだよね)、こういう使い方もあったのか。
クロウの教訓 居住地ではない(つまり税金を払っていない)地区の公立学校に通っている子供をみつけだそうと学校長が探偵を雇う話。日本だと違法に越境入学させるようなケース? 日本の制度では無理だろうな。サスペンス部分は悪くないけど少女の行動は予測がつく。もう少し工夫できたんじゃないかという気がしてしまう。
消防士を撃つ 「長く暑い夏」と呼ばれた1967年の暴動の年に起こった黒人を対象にした冤罪事件とその結末。作者の実体験もある程度使われているようで、登場人物の混乱や罪悪感がリアルに伝わってくる。「いま自分たちにわかってる以上のことを知ろうとしない」人たちは今のアメリカにも日本にもたくさんいて、そのマジョリティが世の中を悪い方向に押し流そうとしている。
二人の男、一挺の銃 物書きであるブリテルの事務所に銃を持った男が入ってきて、ブリテルに手錠をかけると警察に通報した。警察がビルを包囲するまで3人の男の話をするからそれを書けという――。いやあ、巧いね、これは。作者本人も言ってるけど、いきなり緊迫した場面で初めてがっちりつかみ、巧みな話術でひっぱっていって、最後に「おお! そうか!」という発見と満足を読者にも与えてくれる。
宇宙の中心 浮浪者のピーティはある晩、若い女性が2人の男に殺されるのを目撃した。2人がつけているのを知りながらどうして止めなかったと責めるフォックスとストラボと話しながら町をうろつくうちに、あの2人に遭遇し――。ああ、これも巧いな。最後の最後まで気づかなかったよ。病んだアメリカの悲しみが行間からにじみでるような話。
赤い封筒 これだけが長めの中編で、1950年代の半ばから60年代の半ば、ビートニクと呼ばれる若者たちが生きた時代のニューヨーク、グリニッチ・ヴィレッジのカフェを舞台にした話。探偵役がビート詩人、ワトソン役がカフェの店主で、現代のミステリーに比べるとのんびりとした雰囲気が漂っている。はっきり言って謎解きそのものにピリっとしたところは感じられないけれど、グリニッチ・ヴィレッジに棲息していたアーティストたちの生態や、戦後しばらくたった頃のアメリカの政治状況が描かれていて興味深い。
原題:The Red Envelope and Other Stories
作者:ロバート・ロプレスティ
訳者:高山真由美
出版社:東京創元社
ISBN:4488287050
by timeturner
| 2019-10-08 19:00
| 和書
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