2019年 08月 21日
ウィリアムが来た時 |
1900年代前半のイギリス。ミューレー・ヨービルが外国で病いに倒れ、療養生活を送っている間に、短期間の戦争を経てドイツ帝国がイギリスを征服、ドイツによる支配が始まってた。ようやく戻ったロンドンは独英二ヶ国語の文字が並び、ドイツ風の名前の料理店やカフェが軒を連ね、バッキンガム宮殿にはドイツ帝国の旗がはためいていた。社交界の人間たちも、ドイツを嫌って旧植民地へ移っていった人たちのあとに、体制に迎合する者がのしあがっていた。ヨービルの妻シシリーは、新勢力を上手く利用して華麗に自らの地位を高めようとしていた・・・。
第一次世界大戦がはじまる前に書かれた。当時のヨーロッパの緊張状態から将来を予感して書いたのかな。そして、こうなってはたまらないと思ったから、サキは一兵卒として戦争に参加し、イギリスを守ろうとしたのだろうか。
ドイツ帝国の支配下にあるイギリスは、第二次世界大戦後のアメリカの占領下にある日本を思い出させるし、ここに描かれている、支配者に迎合するイギリス人、抵抗する気力も意志もない無気力なイギリス人たちは、今の日本を写しだしているようだ。ドイツ帝国を安倍・トランプ連合に読みかえると気がふさいでくる。
現政権に満足している若者が読めば軍備拡張・徴兵制推進へと導くプロパガンダになりそうなのも腹立たしい。
そういえばサキが書いたエッセイの中にも、かなり愛国主義的なものがあって、ちょっと引いたことがあったっけ。まだノブレス・オブリージュを信じていた世代だからね。作中のヨービルがドイツ軍人を対等な相手と認めるくだりでは『日の名残り』のスティーヴンスがかつて仕えた貴族を思い出した。
英国のボーイスカウトたちがドイツ皇帝の前に現れないことで抵抗の意志を示すという終わり方は、現代の若者たちを考えるとお伽噺にしか見えない。
サキだって、自分の死後の歴史や今の時代を知ればこの作品が陽の目を見ることは望まないんじゃないかな。
【誤植メモ】 p.49 6行目 多くものが⇒多くのものが p.127 8行目 関の山でな⇒関の山では p.161 12行目 アレクサンドラ女王⇒アレクサンドラ王妃 p.186 後ろから4行目 遮られた⇒遮られていた p.203 7行目 素晴らしく魅力的な人に偉大な芸術家はこれまでいなかった⇒no great artist was ever a great lover(偉大な芸術家が素晴らしい恋人にはなれたためしはない) p.246 3行目 仕方ないですよ⇒仕方ないんですよ p.247 後ろから4行目 ありがならも⇒ありながらも p.290 後ろから5行目 半生半死⇒半死半生 p.291 3行目 はからずとも⇒はからずも p.293 後ろから6行目 国旗に掲げる⇒国旗を掲げる
ウィリアムが来た時 ホーエンツォレルン家に支配されたロンドンの物語
原題:When William Came
作者:サキ
訳者:深町悟
出版社:国書刊行会
ISBN:4336063567
by timeturner
| 2019-08-21 19:00
| 和書
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