2019年 05月 31日
ロイスと歌うパン種 |
サンフランシスコのロボットアーム会社でプログラマとして働くロイスは、高額の給料に比例する激務で疲れ果てていた。そんな彼女を支えていた近所の宅配レストランがイギリスに引っ越してしまい、途方にくれたが、別れに際してもらったパン種で試しにパンを焼いたことから思いがけない方向に人生が開けていく・・・。
マズグと呼ばれる謎の一族、光ったり歌ったりする不思議なパン種、ロボットアームを使ってのパン作り、冥界のような地下ファーマーズ・マーケットなどなど、例によって魅力的なアイディアがたくさん散りばめられていて、読んでいる間ずっとわくわくしっぱなしでした。
ノスタルジックなものと最新鋭の技術をドッキングさせるのが得意な作者ですが、今回も大昔から伝わるパン種と最新式のロボットやバイオテクノロジーとを組み合わせて、摩訶不思議な世界を作り上げています。
椅子に座ったきりで頭と目と手だけを働かせ続けるプログラマが、無心でパン生地をこねる作業に惹きつけられるというのはとてもよくわかります。完全栄養食品であるスラーリーで生きていくことはできても心の健康は得られないというのにも共感。
現代のテクノロジーを採りれて新時代のフード産業を模索する地下マーケットに対して、自然栽培の素材を手作りすることにこだわるバークレイの《カフェ・カンディード》とその創立者であるシャーロット・クリングストンは、《シェ・パニース》とアリス・ウォータースがモデルかなと思いました。
ロイスという名前の女性が地域ごとに集まるグループがあるというのも面白かった。実際にそういう例があるのかな。ありふれた名前じゃだめだろうけど、ふだん出会う機会が少ない名前だったらありそうですね。学友とか同僚とかママ友といった環境に左右された関係ではなく、名前という共通項だけで集まる会ってすごく楽しそう。
ロイスと歌うパン種
原題:Sour Dough
作者:ロビン・スローン
訳者:島村浩子
出版社:東京創元社
ISBN:4488010881
by timeturner
| 2019-05-31 19:00
| 和書
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