2019年 04月 17日
牧野義雄のロンドン |
霧の画家・牧野義雄が描いた100年前のロンドンと現在の姿を比較しながら、当時のロンドンにおける日本人たちの交流関係にもふれています。
そんな人が牧野義雄にもはまったら当然ながらこういう本ができるだろうと思います。あとがきに書かれていたベティ・シェパードの兄との出会いは、まさに恒松さんの熱意が呼び寄せたとしか思えません。この本に掲載されている絵の所蔵元を見たら、数点が恒松さんだったのにも驚きました。
牧野が描いた風景と同じ場所を同じアングルで撮った現在の写真、さらにはどこかから掘り出してきた20世紀初頭のロンドンの写真(これまたできるだけ絵と同じアングルで撮ったもの)まで並べて見せてくれるので、読者としてはただただ感心して眺めいるばかり。
『牧野義雄画集』を見たときに感じたように、ロンドンの風景はほとんど変わっていませんね。
写真だと老朽化した建物の醜い部分もはっきり見えてそれほど素敵だと思えない景色が、牧野の筆にかかると夢のように美しい世界に変化するのは魔法のようです。霧のせいもあるんでしょうが、ひょっとしたら牧野の目には実際にこう見えていたのかなあ、芸術家というのは現実を自然に変化させて見てしまうのかしら、などとしばらく考えてしまいました。
決して醜いものをよく見せようとして描いているわけではないのですよね。見て、美しいと思ったから描こうと思ったわけですから。そして、その場面がいちばん美しく見える構図を選びとって描いているのも、きっと自動的にそうなるんでしょう。素人カメラマンがするように、あっちに行ったりこっちに行ったり、立ったりしゃがんだり斜めに見たりして決めたわけではないだろうと思えるのです。
牧野がロンドンで交友関係をもった人たちの話も興味深い。たくさんの人がいろいろ力を貸してくれたところを見ると、彼には人をひきつける魅力が備わっていたんだろうと思います。外交官の重光葵が日本に帰国後もずっと牧野の面倒を見たという話にも驚きました。
豊田市美術館に牧野の絵があるのは知っていましたが、かなりの数があるようで、やはりこれは一度行ってみなくてはと決意を新たにしました。
ところで、カバーにも本文にもビッグ・ベンの写真が掲載されているのですが、最近面白い記事を読みました。この時計の針と盤面はもともとの1859年にはプルシャンブルーで塗られていたのだけれど、大気汚染と老朽化で1930年代から黒くなっていったため、1980年代には黒く塗られてしまった。それを最近の修復作業でオリジナルの色に戻したというんです。面白いなあ。金とブルーの取り合わせは確かにきれいだけれど、黒に慣れてしまっているせいか、ちょっと威厳に欠けるような気もしてしまうのは不思議です。
作者:恒松郁生
出版社:雄山閣
ISBN:4639020112
by timeturner
| 2019-04-17 19:00
| 和書
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