2019年 03月 21日
The Water Ghost, and Others |
1894年に刊行されたアメリカ人作家による怪奇短編小説集。
怖くはなくて、軽妙なユーモアが身上の作風です。イギリスの怪奇小説の手法を踏襲しているのですが、「ハロビー館の水幽霊」と「The Spectre Cook of Bangletop」を除けば、物語の舞台はアメリカで、ニューヨークやボストン、ハドソン川といった地名が出てくるたびに一瞬虚をつかれるのも面白い。ヴィクトリア朝のアメリカ中・上流の人々の考え方や暮らしぶりも興味深いです。
「The Litterary Remains of Thomas Bragdon」は『Three Men in A Boat』(1889年刊)を彷彿とさせる。友人同士がボートで旅をするという設定だけでなく、トムが滔々と語る幻のヴェニスの描写が、三人男が酔ったように夢想する過去の情景描写と重なるんですよね。おそらく作者もあの作品を頭に置いて書いたんじゃないかな。
The Spectre Cook of Bangletop 古くから続くバングルトップ男爵の館は、ある時からコックが居つかなくなり、居住不能となる。借り手もつかず長い間空き家になっていたが、アメリカの成金一家が住むことになった。貴族の館に住むこと、イギリスの上流階級と交際できることで宣伝効果があると見込んだのだ。だが、この一家の前にも幽霊が現れる。この幽霊、かつて男爵家に使われていたが給料不払いのまま解雇されたことから、死後に館に憑りついたのだ。死後の世界で死んだ男爵に請求しようとしたが身分が違うので面会もできないという。そこで成金が思いついた妙案とは・・・。
The Speck on the Lens 眼科医のキャリーは、ある夏、ハドソン川沿いの家を借りて休暇を過ごしていた。りんごの木の下のハンモックでのんびりしていると、奇妙な老人が突然現れ、老人の右目とキャリーの左目が世界でただ二つの目だと言い、彼の発明品を見せた。それはどこまでも遠くまで見える望遠鏡で、地球をぐるっと回って自分の後頭部まで見えるというものだった・・・。
A Midnight Visitor クラブの交歓会の幹事を任されたものの良い案を思いつかずに悩んでいたハイラムの前に、ある晩、マジシャンだと自称する不気味な男が現れ、技を見せたが、それは手品の域を越え、魔法とも呼べるものだった・・・。
A Quicksilver Cassandra 意中の人マリアンにプロポーズしようと相手の家を訪ねたジングルベリーは、客間の鏡の中に自分と娘の姿を見て驚愕する・・・。
The Ghost Club 刑務所で服役中の囚人から聞いた話。イギリスの富裕な一族の出で、アメリカ旅行中に土産物屋でスプーンを10本盗んだかどでつかまり、無実を訴えたが、幽霊のしわざだという抗弁が受け入れてもらえず、やむなく服役しているという。
A Psychical Prank ウィリスは乗合馬車の中で思いを寄せるミス・ホリスターと出会った。だが彼女はウィリスに一顧だにくれず下りていってしまい、やがて別の男と結婚してしまった。一年後、ようやく失恋の傷が癒えたウィリスは、友人の家で今はミセス・バロウズとなった彼女と会い、驚くべき真相を知らされる・・・。
The Litterary Remains of Thomas Bragdon 親友であるトムの突然死を知ったフィリップは衝撃を受けた。二人はもう何年もユニークな旅を共にしてきた仲なのだ。その旅とは、どこか遠く離れた地を目的地に定め、その土地に関する本を読みふけって知識を得、夏になるとふたりでスクーナー船で近場の海や川をクルーズしながら、まるで実際にその土地に行ったかのように印象を語り合うという《魂の旅》だった・・・。
The Water Ghost, and Others
作者:John Kendrick Bangs
出版社:Project Gutenberg
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2019-03-21 19:00
| 洋書
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