2019年 01月 31日
その魔球に、まだ名はない |
10歳の少女ケイティは野球が大好き。剛腕の持ち主で誰にも打てない魔球も投げられる。近所の男の子たちはそんなケイティの力を認め、学校でも草野球でも仲間として扱っていた。ある日、リトルリーグのスカウトに認められたケイティはトライアウトを受け、見事合格したのだが、女の子であることがばれて失格にされてしまう。怒り心頭に達したケイティは理解ある母親や友人の助けを借り、世間の思いこみをくつがえすためのプロジェクトにとりかかる・・・。
作者が時代設定をあえてずらしたのは、女性が野球をできなかった時代であるとともに、リトルロック高校での黒人差別やスプートニク打ち上げをきっかけにした米ソの緊張関係、さらにまだ記憶に生々しく残っているレッドパージについても語れる状況だったからだと思う。もちろん現代にだって現代なりの問題は山ほどあるんだけど、すぐ目の前の状況って客観的には見にくいものだからね。この方法は賢いと思う。
そういえば、ケイティの親友でキャッチャーのピーウィーは日系人で、母親がマンザナの収容所に入っていたなんて話も出てきた。
ケイティが過去に活躍した女性野球選手のことを調べることで学校内の空気を変えたように、この作者もこういう小説を子どもたちに読ませることで社会を少しずつ変えようとしているのよね。問題は男の子がこれを読むかどうかだけど。
内容と関係なく気になったのは近頃の児童文学で見かける「噛みくだき」(私が勝手にそう呼んでるだけです)。日本の小学生にはわからないだろうと思える言葉に註をつけるのではなく、やさしく噛み砕いて訳すこと。註がつくと読んでいる流れが止まってしまい集中力が途切れるから、大人向けの翻訳でもたまにやっている。
この本でそれじゃないかと思ったのは「子ども向けの探偵小説」と「アルファベットを入れ替えて単語を作るゲーム」。たぶん前者は「ナンシー・ドルー・ミステリー」で後者は「スクラブル」じゃないかな。
この作品のテーマから言って作者が少女探偵の本を登場人物に読ませたのはあえてではないだろうか。だったら簡単な註をつけて原題をいかしたほうがよかったのでは?
子供の頃は大人になった今よりもっと集中力があったから、註がついていてもぜんぜん気にならなかったし、それを読んで「へえ、そんな本があるのか。今度読んでみよう」とわくわくしたはず。「スクラブル」も同様。そうやって外国の珍しい風習や事物を知っていったんだよね。もっと子供の力を信じてあげてもいいんじゃないのかな。
なーんて、あて推量で書いているけど、もともと作者がそう書いているのかもしれない。だとしたらごめんなさい。
【誤植メモ】 p.39 7行目 よくやく⇒ようやく p.181 1-2行目 アクシデント見まわれた⇒アクシデントに見まわれた
その魔球に、まだ名はない
原題:Out of left field
作者:エレン・クレイジス
訳者:橋本恵
出版社:あすなろ書房
ISBN:475152934X
by timeturner
| 2019-01-31 19:00
| 和書
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