2019年 01月 22日
あいつらにはジャズって呼ばせておけ |
ドミニカ生まれの白人女性作家ジーン・リースの短編集。日本で初めての刊行。18作中15作が初訳。たっぷりの解説と書誌つき。1890年生まれ。1979年、90歳まで3か月ちょっとで没。
うーん、なるほどねえ。
異国の地になじめないということもあったんだろうけど、この人は人間関係においても生き方においても不器用で、こんなふうにしか生きられなかったんだろうな。どんな目に遭ってもドミニカに帰ろうとしないのは、帰っても受け入れてもらえないからでしょう。正直言って、被害者意識が強いとさえ思えてしまうこの人の感覚はちょっとうっとおしい。
心霊信奉者/笹原桃子 訳
フランスの刑務所にて/沢山英里子 訳
マヌカン/西崎憲 訳
飢え/西崎憲 訳
アリヴェ通りにて/小平慧 訳
母であることを学ぶ/笹原桃子 訳
灰色の日/沢山英里子 訳
シディ/樫尾千穂 訳
金色荘にて/獅子麻衣子 訳
ではまた九月に、ペトロネラ/小平慧 訳
あの人たちが本を焼いた日/加藤靖 訳
あいつらにはジャズって呼ばせておけ/西崎憲 訳
虎のほうが見た目はまし/吉見浩一 訳
機械の外側で/磯田沙円子 訳
ロータス/樫尾千穂 訳
堅固な家/獅子麻衣子 訳
よそ者を探る/安藤しを 訳
タン・ペルディ/中島朋子 訳
全身に「苛立ちの棘」をはやして生きるつらさが行間からにじみ出るようで、読んでいるとこちらまで心がヒリヒリしてきます。そういうのを読むのは好きじゃないんだけど、でも、表現力が鮮やかではっとさせる文章がたくさん出てくるので、それにつられてどんどん読んでしまいました。
息苦しいくらいの感情とそっけない文体とのバランスが絶妙。特に表題作と「機械の外側で」はそのへんの魅力を満喫できます。ふつうのイギリスの作家は書きたがらない戦時中の外国人排斥を描いた「よそ者を探る」は、リースだからこそ書けた作だと思う。
複数の訳者で翻訳を分担しているので、やや統一感に欠ける気がすることは否めない。アンソロジーならいいけど、ひとりの作家の短編集はやっぱりひとりの訳者が手掛けてほしいなあ。
ひとつ気になったのは「堅固な家」に出てくる「漆塗りのお盆」。これって対応する英語はJapanned trayじゃない? 登場する場面からしても、高級な木製の漆塗りではなく、金属に絵をつけてラッカー塗装した大量生産品のような気がするんだけど。
あいつらにはジャズって呼ばせておけ ジーン・リース短篇集
作者:ジーン・リース
編纂:西崎憲
訳者:西崎憲ほか
出版社:惑星と口笛ブックス
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2019-01-22 19:00
| 和書
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