2018年 12月 17日
フォマルハウトの三つの燭台 |
知能家電管理士の「ぼく」は、ある一軒家の離れの一画を家電付きで借りていたが、自分で買ったトースターを使い始めたときから家庭内に不穏な空気が流れるようになり、やがてトースターが自殺してしまう・・・。
火を灯すと真実を映し出し、三つ全部に火を灯すと世界が終わるというフォマルハウトの燭台を中心に話は展開する。燭台の眷属だという兎角(鹿のような角を生やした兎)=ジャカロップや、人間の意識を移植された超高性能アンドロイドなんてものが登場して、SFなんだかファンタジーなんだかわからない内容。でも、不思議な引力があって飽きずに最後まで読んでしまった。
読み終えても結局なにがなんだかよくわからないけど、ぜんぜん気にならない。途中の経過がそのときどきで納得がいくよう説明されているからかな。
それに、喋る家電同士の間で不和が起こるなんていう状況、今みたいにいろんな機器が「喋る」ようになってくると、もうすぐ実現しそうじゃない。そういう《リアルさ》がほかの要素についてもたっぷりあるのが面白さの秘密なのかな。経産省の陰謀とかもありそう。
いちばん気に入ったのは、「猫(の意識)が自分の役に立つように召使い用のヒトを作る」というアイディア。世間の愛猫家のようすを見ているとすごく納得できる。あちこちに散りばめられている猫とのやりとりからして、作者はどうやら相当の猫好きらしい。
ところで、この本、とても装幀が凝っている。扉は黒地にゴールドの印刷だし、紙もワンランク上のもの、きわめつけに小口にはFore-Edge Painting(日本語でなんて言うのかな、小口絵?)が施されている。お金かかっただろうなあ。本が売れて元がとれるといいんだけど。
【誤植メモ】 p.289 5行目 林蔵くんもはただではすまない⇒林蔵くんもただではすまない
フォマルハウトの三つの燭台〈倭篇〉
作者:神林長平
出版社:講談社
ISBN:4062205750
by timeturner
| 2018-12-17 19:00
| 和書
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