2018年 07月 13日
スウィングしなけりゃ意味がない |

久々にぶっとんだ。なにこれ? ほんとに日本の小説? 読んでる途中何度も「うわあ、この表現いいな、原文はどうなってるんだろう?」と思ってしまったほど翻訳文学らしくて、それでいて読みやすさ、ストレスのなさは日本の小説クオリティ。
戦争文学というと判で押したように悲惨さ、残虐さ、無常観をまきちらすのはもう古いんだと悟った。こんなふうに軽々と楽しく描くこともできるんだから。それでいて、決して戦争を軽々しく扱っているわけではない。ゲシュタポにひっぱられて酷い目に遭わされる場面もあるし、収容所から連れてこられた人たちが人間以下の扱いをされる場面も、爆撃でぼろぼろになった街の姿も、たくさんの死者も描かれる。
でも、エディの視点を通すことで、考え方ががらっと変わる。戦争なんてSSなんて狂ってるし馬鹿っぽいよ、まともに相手することないよ、手玉にとっちゃって自由な未来を掴みとろうぜ、とジャズに生きる若者たちの逞しさ、瑞々しさ。戦争文学の概念ががらっと変わります。
「シンドラーのリスト」はいかにもアメリカらしいヒロイズムに酔った映画だったけれど(悪いと言ってるわけじゃない)、こちらは良いことをする人間に特有の含羞を感じさせる点で私的にはより好ましい。しっかり儲けて、その金をドルに換えて埋めるしたたかさも気分がいい。
ジャズを良く知らないので、それぞれの章題にもってきた有名なナンバーにもあまりぴんとこなかったのが残念。ジャズ好きな人だったら頭の中に浮かぶ音を聴きながら読めるんだろうなあと羨ましくなった。
それにしても佐藤亜紀さんて、ものすごく体力のある作家だと思う。ドイツ人が書いてるんじゃないかと思わせるくらいに戦時下のハンブルクを描きだすためには、すごい量の資料を読みこなし、自分のものにする必要があったはず。巻末にあげられた参考文献にはドイツ語や英語の本もあった。
スウィングしなけりゃ意味がない
作者:佐藤亜紀
出版社:KADOKAWA
ISBN:4041050766
by timeturner
| 2018-07-13 19:00
| 和書
|
Comments(0)