2018年 04月 26日
青い月夜の特別なこと/月なき夜の幸せなこと |
探偵・双一郎と助手の京子がそろそろ事務所を閉めようとしたところへ訪ねてきた男は、富豪のバルトシュ・クスティーモル卿の屋敷にすぐ来てくれ。《最上級の依頼》だと告げた。双一郎は京子、親友のマグザブを伴い、男の馬車で屋敷を訪れる・・・。
Prime Readingのリストに入っていて、サンプルを読んでみたら好きな設定ぽかったので読んでみました。
すごく不思議な読み心地。癖になりそう。
時代も国も不明な異世界での話で、雰囲気としてはヴィクトリア朝のイギリスのようです。ただし、現実世界のヴィクトリア朝ではなく、石や鉄や石油や電気の代わりに「虫」を唯一の資源として成立する異世界。
灯りは獣油ならぬ虫油でとっているし、刃物類は虫を鍛えて作るし、薬も虫から作る。通信手段は《伝言虫》。ちょっと『西瓜糖の日々』に似ていなくもない。あんな自然共同体風の思想はいっさいないけれどね。吸血鬼物ではないけれどアン・ライス的な雰囲気もある。
探偵が出てくるし、ヴィクトリア朝風だしで、ホームズ物のパスティーシュみたいなものかなと思うと、これがそうでもない。語り手である京子は妙に虚弱で謎めいていて、とてもワトソン役にはなれなそうだし、親友のマグザブは優秀な虫薬剤師だけれど双一郎を敬愛するというよりはおちょくってる時のほうが多く、これまたワトソン的ではない。第一、双一郎自身が、推理力は鋭いもののかなりの臆病者で、とてもバリツの名手とは言えない。
貴族の屋敷を訪れて直面するのは連続殺人事件や密室殺人など、いかにも本格ミステリーのように見えるけれど、解決法も判明した結果も「なにそれ?!」というトンデモ設定なんだけど、最終的には初めから不穏な感じで背後に潜んでいた最大の謎が解き明かされ、なるほどそこを狙っていたのかと満足の溜息をついて読み終えることができた。
背景が背景なのでダークでホラーな雰囲気にもできるところを、作者のキャラなのか時々ぐふふと笑ってしまうような箇所をはさんで、かなり軽妙なタッチにおさめてあるのも私好みだった。
というわけで、続編だという『月なき夜の幸せなこと」も購入(たったの99円)してみた。『青い月夜の特別なこと』から数年後の話。
前作の最後で京子があんなことを言っていたので、人間関係がはっきり変わっているかと思いきや、前作からそのままつながっている感じ。まあ、読者としてもすぐに続けて読む場合はこのほうが自然だわね。
驚いたのは、始まっていきなり語り手が男(俺)になってたこと。双一郎だろうか、マグザブだろうか、どちらとも違う気がすると悩んでいたら、全くの別人だった。そして、章ごとに京子の語りと交替する。なるほど、こうすれば両陣営の様子が読者にもわかるものね。
語り手をふたりにすることで、「静」の前作から「動」の本作へのギアチェンジもスムーズにいったのだと思う。そう来たか!と唸らせたラストも見事。
作者あとがきでは続きはないけれど外伝は書くかもしれない、実際、2018年3月現在、リーラとティティアが出る話を書いているとあったので、そちらも楽しみです。
【誤植メモ】『月なき夜の幸せなこと』位置No.1,392 硝子は使われおらず⇒硝子は使われておらず 位置No.1,392 相手が逃げない⇒相手は逃げない 位置No.1,565 無表示⇒無表情 位置No.1,949 散らかっている本当にそんな理由のためかはわからないが⇒? 位置No.2,306 探偵家業⇒探偵稼業
青い月夜の特別なこと
作者:赤井五郎
出版社:Amazon Services International
ISBN:Kindle版
月なき夜の幸せなこと
作者:赤井五郎
出版社:Amazon Services International
ISBN:Kindle版
Prime Readingのリストに入っていて、サンプルを読んでみたら好きな設定ぽかったので読んでみました。
すごく不思議な読み心地。癖になりそう。
時代も国も不明な異世界での話で、雰囲気としてはヴィクトリア朝のイギリスのようです。ただし、現実世界のヴィクトリア朝ではなく、石や鉄や石油や電気の代わりに「虫」を唯一の資源として成立する異世界。
灯りは獣油ならぬ虫油でとっているし、刃物類は虫を鍛えて作るし、薬も虫から作る。通信手段は《伝言虫》。ちょっと『西瓜糖の日々』に似ていなくもない。あんな自然共同体風の思想はいっさいないけれどね。吸血鬼物ではないけれどアン・ライス的な雰囲気もある。
探偵が出てくるし、ヴィクトリア朝風だしで、ホームズ物のパスティーシュみたいなものかなと思うと、これがそうでもない。語り手である京子は妙に虚弱で謎めいていて、とてもワトソン役にはなれなそうだし、親友のマグザブは優秀な虫薬剤師だけれど双一郎を敬愛するというよりはおちょくってる時のほうが多く、これまたワトソン的ではない。第一、双一郎自身が、推理力は鋭いもののかなりの臆病者で、とてもバリツの名手とは言えない。
貴族の屋敷を訪れて直面するのは連続殺人事件や密室殺人など、いかにも本格ミステリーのように見えるけれど、解決法も判明した結果も「なにそれ?!」というトンデモ設定なんだけど、最終的には初めから不穏な感じで背後に潜んでいた最大の謎が解き明かされ、なるほどそこを狙っていたのかと満足の溜息をついて読み終えることができた。
背景が背景なのでダークでホラーな雰囲気にもできるところを、作者のキャラなのか時々ぐふふと笑ってしまうような箇所をはさんで、かなり軽妙なタッチにおさめてあるのも私好みだった。
というわけで、続編だという『月なき夜の幸せなこと」も購入(たったの99円)してみた。『青い月夜の特別なこと』から数年後の話。
前作の最後で京子があんなことを言っていたので、人間関係がはっきり変わっているかと思いきや、前作からそのままつながっている感じ。まあ、読者としてもすぐに続けて読む場合はこのほうが自然だわね。
驚いたのは、始まっていきなり語り手が男(俺)になってたこと。双一郎だろうか、マグザブだろうか、どちらとも違う気がすると悩んでいたら、全くの別人だった。そして、章ごとに京子の語りと交替する。なるほど、こうすれば両陣営の様子が読者にもわかるものね。
語り手をふたりにすることで、「静」の前作から「動」の本作へのギアチェンジもスムーズにいったのだと思う。そう来たか!と唸らせたラストも見事。
作者あとがきでは続きはないけれど外伝は書くかもしれない、実際、2018年3月現在、リーラとティティアが出る話を書いているとあったので、そちらも楽しみです。
【誤植メモ】『月なき夜の幸せなこと』位置No.1,392 硝子は使われおらず⇒硝子は使われておらず 位置No.1,392 相手が逃げない⇒相手は逃げない 位置No.1,565 無表示⇒無表情 位置No.1,949 散らかっている本当にそんな理由のためかはわからないが⇒? 位置No.2,306 探偵家業⇒探偵稼業
青い月夜の特別なこと
作者:赤井五郎
出版社:Amazon Services International
ISBN:Kindle版
月なき夜の幸せなこと
作者:赤井五郎
出版社:Amazon Services International
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2018-04-26 19:00
| 和書
|
Comments(0)