2018年 04月 27日
イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ |
19世紀ロシアの一裁判官が、「死」と向かい合う過程で味わう心理的葛藤を描く「イワン・イリイチの死」、社会的地位のある地主貴族が、嫉妬がもとで不仲の妻を刺し殺す「クロイツェル・ソナタ」の2編を収録。
BOOKMARK 11で紹介されていた本。「クロイツェル・ソナタ」のほうね。
音楽小説だと思って読み始めたら、なんとびっくり、男と女と性についてのお話でした。お話というよりトルストイの考えを熱く語っているというか、なんだか学生運動華やかなりし頃のアジ演説を聞いている気分になりました。
これを書いているときのトルストイってもう60歳を越えてるんだけど、それでまだ性をこんなに熱く語れるってすごいね。それが文豪というものなのかしら。
ただ、彼の場合は性に対する執着ではなく、性を排除したい気持ちとそれができない人間という生き物への不満、さらにはそのダメ人間には自分も含まれるという(だって悪妻と言われる妻との間に9人も子供つくってるのよ)アンビバレンツな気持ちがごっちゃになっていて、書かれている内容にも時々「え?」と思うところがありますが、でもとにかく、困ってたということはわかった。
そして、おそらく、人間というものは、いつまでたってもそんなふうに困るしかないのだと思う。
ただ、この話の中にも出てくる『家庭訓』信奉者の老人みたいな連中が権力を握らないでくれることだけは、お願いしますよ。(だれに?)
イギリス人に対する軽蔑の念みたいなものも出てきて、なるほどロシア人というのはイギリス人をこんなふうに見ていたのかと笑ったりして。
そういう取り繕いがすっかり板についてしまい、果てはイギリス人みたいに、自分たちは道徳的な人間であり、道徳的世界に暮らしているのだと、本気で思い込むようになるのですよ。
「イワン・イリイチの死」のほうは、初めのうちは風刺の効いた滑稽な場面が連続するので笑っていられたのだけれど、主人公が病に冒されてからは、凄絶な心身の苦しみに伴われて怒涛の勢いで死に向かって収束するさまに息をのんだ。いやあ、さすがだね。
新訳は、トルストイの文体が持つ「音とリズム」を日本語に移しかえたのだそうで、確かに読んでいてある種のリズムを常に感じました。
イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)
作者:トルストイ
訳者:望月哲男
出版社:光文社
ISBN:Kindle版
BOOKMARK 11で紹介されていた本。「クロイツェル・ソナタ」のほうね。
音楽小説だと思って読み始めたら、なんとびっくり、男と女と性についてのお話でした。お話というよりトルストイの考えを熱く語っているというか、なんだか学生運動華やかなりし頃のアジ演説を聞いている気分になりました。
これを書いているときのトルストイってもう60歳を越えてるんだけど、それでまだ性をこんなに熱く語れるってすごいね。それが文豪というものなのかしら。
ただ、彼の場合は性に対する執着ではなく、性を排除したい気持ちとそれができない人間という生き物への不満、さらにはそのダメ人間には自分も含まれるという(だって悪妻と言われる妻との間に9人も子供つくってるのよ)アンビバレンツな気持ちがごっちゃになっていて、書かれている内容にも時々「え?」と思うところがありますが、でもとにかく、困ってたということはわかった。
そして、おそらく、人間というものは、いつまでたってもそんなふうに困るしかないのだと思う。
ただ、この話の中にも出てくる『家庭訓』信奉者の老人みたいな連中が権力を握らないでくれることだけは、お願いしますよ。(だれに?)
イギリス人に対する軽蔑の念みたいなものも出てきて、なるほどロシア人というのはイギリス人をこんなふうに見ていたのかと笑ったりして。
そういう取り繕いがすっかり板についてしまい、果てはイギリス人みたいに、自分たちは道徳的な人間であり、道徳的世界に暮らしているのだと、本気で思い込むようになるのですよ。
「イワン・イリイチの死」のほうは、初めのうちは風刺の効いた滑稽な場面が連続するので笑っていられたのだけれど、主人公が病に冒されてからは、凄絶な心身の苦しみに伴われて怒涛の勢いで死に向かって収束するさまに息をのんだ。いやあ、さすがだね。
新訳は、トルストイの文体が持つ「音とリズム」を日本語に移しかえたのだそうで、確かに読んでいてある種のリズムを常に感じました。
イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)
作者:トルストイ
訳者:望月哲男
出版社:光文社
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2018-04-27 19:00
| 和書
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