2018年 01月 28日
remote |
英国怪奇小説を翻訳する会の新しい課題はロバート・エイクマンの「The Same Dog」。きのうが第一回だったんですが、最初のほうにこんな一文があります。
コウビルドを見ると「Remote areas are far away from cities and places where most people live, and are therefore difficult to get to.」とありますし、ランダムハウス、リーダーズ、ジーニアスといった辞書でも「遠方の、遠隔の、辺鄙な、片田舎の、僻地、人里離れた、都会から離れた」とありますから、まあ、間違ってはいないと思いました。
が、けさ目がさめたとき、ふいにこんな考えが浮かんだ。
サリー州はロンドンのすぐ南西で、裕福な人たちが住む地域というイメージ(ジョン・レノンも住んでたことがある)がありますが、要は成功した人たちが、カントリーサイドに憧れるイギリス人らしく、都会の雑踏を逃れて郊外へ郊外へと移っていったときに開発された地域で、ロンドンに近ければ近いほど安手の新興住宅地です。
つまりエイクマンは、この物語の主人公一家はそうした新興住宅地に住むような中流ミドルクラスじゃないよ、もともとこのサリー州に地盤をもつ旧家だよ、と言いたかったのではないか。だからこそ、一家の家から徒歩で行けるところに、金や地位のある家の子供が行く学費の高い私立学校があるのではないか。
となると、日本人にはマイナスイメージが強い「辺鄙」「僻地」「片田舎」といった訳語は読者に誤った印象を与えてしまうのではないか。
とりあえず「サリー州の奥まった地域に住んでいた」に変えようかと思っているのですが、もっとふさわしい言葉はないかなあ。
【後記】 その後、ここを読んだクラスメイトのひとりと話をする機会があり、翻訳を読むのは日本人だから、さらっと「郊外」くらいで流していいんじゃないかということになりました。(その場合、書き方が難しいんですけどね。札幌郊外とは言っても北海道郊外とは言わないから、サリー州郊外とは書けない)
が、けさまた起きたときにこう思った。主人公の少年の家には母親も姉妹もおらず、親戚も男の子ばかりだったので、4歳か5歳になって幼稚園のようなところに行くまで女の子を見たことがなかったんです。このことが話の筋におおいに関係している。作者は、ご近所もいない設定にしたかったのではないか。だから、suburbanやcountrysideではなくremoterを使ったんじゃないか。地理的なことだけでなく人口集中度についても言いたかったんじゃないか。主人公の少年を男だけの世界に隔離するために。
となると、「サリー州でも人家のまばらなところ」とか「サリー州の人家も稀なところ」あたりのほうがいいのかな。
The family lived in the remoter part of Surrey.私はこれを、「(一家は)サリー州の辺鄙な地方に住んでいた。」と訳しました。先生は「田舎のほう」、クラスメイトも「離れた郊外」「外れ」「辺鄙な地域」「遠く離れたところ」「片田舎」といった感じです。
コウビルドを見ると「Remote areas are far away from cities and places where most people live, and are therefore difficult to get to.」とありますし、ランダムハウス、リーダーズ、ジーニアスといった辞書でも「遠方の、遠隔の、辺鄙な、片田舎の、僻地、人里離れた、都会から離れた」とありますから、まあ、間違ってはいないと思いました。
が、けさ目がさめたとき、ふいにこんな考えが浮かんだ。
日本では「辺鄙な場所」「僻地」と聞くと、不便で、文化的にも経済的にも貧しい地域という印象をもつけど、イギリスでは違うじゃないか。カントリーハウス、マナーハウスと呼ばれるような大邸宅は、都会から離れ、駅からも遠くて、アクセスが悪い場所にあるのが当たり前です。駅から徒歩で行けるカントリーハウスなんてめったにありません。極論すれば、イギリスでは辺鄙であればあるほど由緒正しく立派な家なわけ。
サリー州はロンドンのすぐ南西で、裕福な人たちが住む地域というイメージ(ジョン・レノンも住んでたことがある)がありますが、要は成功した人たちが、カントリーサイドに憧れるイギリス人らしく、都会の雑踏を逃れて郊外へ郊外へと移っていったときに開発された地域で、ロンドンに近ければ近いほど安手の新興住宅地です。
つまりエイクマンは、この物語の主人公一家はそうした新興住宅地に住むような中流ミドルクラスじゃないよ、もともとこのサリー州に地盤をもつ旧家だよ、と言いたかったのではないか。だからこそ、一家の家から徒歩で行けるところに、金や地位のある家の子供が行く学費の高い私立学校があるのではないか。
となると、日本人にはマイナスイメージが強い「辺鄙」「僻地」「片田舎」といった訳語は読者に誤った印象を与えてしまうのではないか。
とりあえず「サリー州の奥まった地域に住んでいた」に変えようかと思っているのですが、もっとふさわしい言葉はないかなあ。
【後記】 その後、ここを読んだクラスメイトのひとりと話をする機会があり、翻訳を読むのは日本人だから、さらっと「郊外」くらいで流していいんじゃないかということになりました。(その場合、書き方が難しいんですけどね。札幌郊外とは言っても北海道郊外とは言わないから、サリー州郊外とは書けない)
が、けさまた起きたときにこう思った。主人公の少年の家には母親も姉妹もおらず、親戚も男の子ばかりだったので、4歳か5歳になって幼稚園のようなところに行くまで女の子を見たことがなかったんです。このことが話の筋におおいに関係している。作者は、ご近所もいない設定にしたかったのではないか。だから、suburbanやcountrysideではなくremoterを使ったんじゃないか。地理的なことだけでなく人口集中度についても言いたかったんじゃないか。主人公の少年を男だけの世界に隔離するために。
となると、「サリー州でも人家のまばらなところ」とか「サリー州の人家も稀なところ」あたりのほうがいいのかな。
by timeturner
| 2018-01-28 13:41
| 学習
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