2018年 01月 22日
ポンド氏の逆説/The Paradoxes of Mr. Pond |
政府の役人であるポンド氏は小柄で温厚な紳士で、たいていの場合はごくまともで形式ばった物言いをする御仁だ。ところがこのポンド氏、たまに相手の度肝を抜くようなわけのわからない発言を挟みこむ癖があった。上官の命令に絶対服従した部下がひとりならよかったが二人だったために命令が阻止された、二人の意見が完全に一致したために片方がもう一人を殺した、背が高すぎるために目立たない……などなど。
初めのうちは何を辻褄の合わないことを言っているんだと思うのですが、急がず進むポンド氏の説明を辛抱強く聞いているうちに思ってもみなかったような真相に到達します。なるほど、こういう形のミステリーもありか。
黙示録の三人の騎者
ガヘガン大尉の罪
博士の意見が一致する時
ポンドのパンタルーン
名前を出せぬ男
恋人たちの指輪
恐ろしき色男
高すぎる話
推理小説のようでもあれば、ひねくれた詭弁を弄する論敵を相手に戦うディベート大会のようでもある。最後にはそれなりに納得するものの「完全にすっきり」とはならないのは、途中でなにかごまかされたような気がするからかな。
けっこうユニークなキャラクター設定だと思うのですが、そのわりにポンド氏の影が薄いというか、いまひとつくっきり見えてこない。相棒であるガヘガン大尉や、ときどき常識人の見解を代表するウォットンも、いろいろ情報を与えられるわりにはリアリティがない。まあ、キャラが立っていなくてはいけないという考えそのものが、いまどきの悪しき風潮なのかもしれません。
ところで、この本は1936年、チェスタトンが死んだすぐ後に刊行されたCassell版を元にしているというクレジットがあります。おそらく、掲載順も同じなんだと思う。オーストラリアのGutenbergに載っているテキストも同じ順番でした。
でも、それがなんか解せないんですよね。西崎憲さんによる解説にそれぞれの短編が雑誌に掲載された年と月号が書いてあるんですが、その発表順に並べるとこうなるはず。
名前を出せぬ男(1935年4月号)
黙示録の三人の騎者(1935年6月号)
博士の意見が一致する時(1935年11月号)
恋人たちの指輪(1935年12月号)
高すぎる話(1936年2月号)
ガヘガン大尉の罪(1936年6月号)
恐ろしき色男(1936年8月号)
ポンドのパンタルーン(1936年9月号)
描き下ろしじゃないんだから、どういう順に並べてもいいと言えばいいんですが、なんとなくこれ、書いているうちにチェスタトンが少しずつ設定を練り上げていったような気がするんですよね。それに「ガヘガン大尉の罪」にはアメリカ人女性記者がハギス事件についてポンド氏に取材しにきたと書いてあるのに、そのハギス事件は翻訳本では次に出てくる「博士の意見が一致する時」で語られているんです。もともとの発表順ならなんの矛盾もないのに、どうしてこれを入れ替える必要があったんだろう?
まあ確かに、冒頭にきている「黙示録の三人の騎者」(『アポロンの眼』にも収録)は緊迫感のある作品で読者をがしっとつかむのに最適なのに対して「名前を出せぬ男」は世紀末風のロマンチシズムが漂う佳作ながら印象が弱いので、これを最初に持ってくるのはちょっとと躊躇う気持ちもわかるんですけどね。それでもせめて「ガヘガン大尉の罪」は「博士の意見が一致する時」よりあとにしてほしかったなあ。
そんなこともあり、キャラクターの性格がいまいちつかみにくかったので、原文と交互に読んでみましたが、チェスタトンにしては読みやすい英文でした。
【誤植メモ】 p.11 10行目 空に姿を現す⇒空中に姿を現す?(原文はshow itself to the sky) p.276 後ろから2行目 顕在である⇒顕在する? 健在である?
ポンド氏の逆説【新訳版】 (創元推理文庫)
原題:The Paradoxes of Mr.Pond
作者:G・K・チェスタトン
訳者:南條竹則
出版社:東京創元社
ISBN:4488110185
The Paradoxes of Mr. Pond
邦題:ポンド氏の逆説
作者:G. K. Chesterton
出版社:UMash Marketing Ltd
ISBN:Kindle版
初めのうちは何を辻褄の合わないことを言っているんだと思うのですが、急がず進むポンド氏の説明を辛抱強く聞いているうちに思ってもみなかったような真相に到達します。なるほど、こういう形のミステリーもありか。
黙示録の三人の騎者
ガヘガン大尉の罪
博士の意見が一致する時
ポンドのパンタルーン
名前を出せぬ男
恋人たちの指輪
恐ろしき色男
高すぎる話
推理小説のようでもあれば、ひねくれた詭弁を弄する論敵を相手に戦うディベート大会のようでもある。最後にはそれなりに納得するものの「完全にすっきり」とはならないのは、途中でなにかごまかされたような気がするからかな。
けっこうユニークなキャラクター設定だと思うのですが、そのわりにポンド氏の影が薄いというか、いまひとつくっきり見えてこない。相棒であるガヘガン大尉や、ときどき常識人の見解を代表するウォットンも、いろいろ情報を与えられるわりにはリアリティがない。まあ、キャラが立っていなくてはいけないという考えそのものが、いまどきの悪しき風潮なのかもしれません。
ところで、この本は1936年、チェスタトンが死んだすぐ後に刊行されたCassell版を元にしているというクレジットがあります。おそらく、掲載順も同じなんだと思う。オーストラリアのGutenbergに載っているテキストも同じ順番でした。
でも、それがなんか解せないんですよね。西崎憲さんによる解説にそれぞれの短編が雑誌に掲載された年と月号が書いてあるんですが、その発表順に並べるとこうなるはず。
名前を出せぬ男(1935年4月号)
黙示録の三人の騎者(1935年6月号)
博士の意見が一致する時(1935年11月号)
恋人たちの指輪(1935年12月号)
高すぎる話(1936年2月号)
ガヘガン大尉の罪(1936年6月号)
恐ろしき色男(1936年8月号)
ポンドのパンタルーン(1936年9月号)
描き下ろしじゃないんだから、どういう順に並べてもいいと言えばいいんですが、なんとなくこれ、書いているうちにチェスタトンが少しずつ設定を練り上げていったような気がするんですよね。それに「ガヘガン大尉の罪」にはアメリカ人女性記者がハギス事件についてポンド氏に取材しにきたと書いてあるのに、そのハギス事件は翻訳本では次に出てくる「博士の意見が一致する時」で語られているんです。もともとの発表順ならなんの矛盾もないのに、どうしてこれを入れ替える必要があったんだろう?
まあ確かに、冒頭にきている「黙示録の三人の騎者」(『アポロンの眼』にも収録)は緊迫感のある作品で読者をがしっとつかむのに最適なのに対して「名前を出せぬ男」は世紀末風のロマンチシズムが漂う佳作ながら印象が弱いので、これを最初に持ってくるのはちょっとと躊躇う気持ちもわかるんですけどね。それでもせめて「ガヘガン大尉の罪」は「博士の意見が一致する時」よりあとにしてほしかったなあ。
そんなこともあり、キャラクターの性格がいまいちつかみにくかったので、原文と交互に読んでみましたが、チェスタトンにしては読みやすい英文でした。
【誤植メモ】 p.11 10行目 空に姿を現す⇒空中に姿を現す?(原文はshow itself to the sky) p.276 後ろから2行目 顕在である⇒顕在する? 健在である?
ポンド氏の逆説【新訳版】 (創元推理文庫)
原題:The Paradoxes of Mr.Pond
作者:G・K・チェスタトン
訳者:南條竹則
出版社:東京創元社
ISBN:4488110185
The Paradoxes of Mr. Pond
邦題:ポンド氏の逆説
作者:G. K. Chesterton
出版社:UMash Marketing Ltd
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2018-01-22 19:00
| 洋書
|
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