2018年 01月 16日
アメリカン・ゴッズ (上・下) |
三年の服役を終え、あと四十八時間にまで迫ったとき、所長室に呼ばれたシャドウは信じられないようなことを告げられた。妻のローラが自動車事故で死んだというのだ。呆然とするシャドウの前にウェンズデイと名乗る奇妙な男が現れ、彼の運転手兼用心棒にならないかともちかけた・・・。
上巻が進む間ずっと、読者はシャドウと同様、何がなんだかわからないままウェンズデイに引っ張り回され、ウェンズデイの敵たちから痛い目にあわされます。(あ、読者はさすがに痛い思いはしませんが)
かろうじてわかるのは、どうやらこれは、かつてアメリカに渡ってきた世界各地の民が連れてきた古い神々と、近代以降のテクノロジーによって生み出された新しい神々との戦争らしいということ。かなり広範な神話の知識が要求されます。知らなくても読めるけど、知っていれば数十倍面白くなると思う。これから読む人は、最初に下巻の巻末にある《本書に登場する神・妖精など》を一読しておくといいです。読んでる途中でそのつど参照するのでもいいけど、先に読んで知識として頭に入れておくと、出てきたときに「あ、あれだ!」という快感が得られます。
人間であるシャドウがどうして神々の戦いに巻きこまれなければならないのかも、どんな戦いになるのかもわからないまま読み続けると、死んだはずのローラがゾンビのように(ただし美しいまま)甦ってきたり、シャドウの夢の中にアメリカ先住民に関係ありそうな出来事が出てきたりします。
ネタバレになるので結末は書けませんが、えっ、そんな?!という、唖然+納得+安堵が複雑に混じり合ったエンディングです。なるほど、だから『壊れやすいもの』に入ってた後日譚が書けたんだな。
神々の戦いという大きな流れの中に、挟み込まれるいろいろな民族のエピソードも印象的です。特にアフリカから連れてこられて奴隷になった兄妹の悲惨すぎる生涯は胸をぐさぐさ刺されるような痛みがいっぱいで、これだけで真面目な短編小説1編として成立するクオリティ。ゲイマンさんて、こういうふうにも書けるんだなあと思いました。
大きな流れの下でちょろちょろと細く最後まで併走していたミステリーの小川が、あっと驚く解決を見せてくれるのも読者にはうれしい余禄。
死に損ないのローラは、最初のうちオルフェウスやイザナギ・イザナミみたいな話になるのかなと思っていたら、こちらの予想を超えたハードボイルドな活躍も見せてくれて、これ、映画にするならぜひシャーリーズ・セロンで!と思いましたが、アメリカではTVドラマ化されてるのね。キャスト表を見たけど知らない人ばかりでした。
面白いと思ったのは、人々に忘れ去られ、落ちぶれた神様たちが身すぎ世すぎのためにしている仕事がチンケで、情けないところ。これも、それぞれの神の特性をよく知っていればさらに面白くなりそう。
謝辞を読んで、ゲイマンって人づきあいがいいんだなあと感心したのですが、その中でちょっと気になったところが二カ所。
アメリカン・ゴッズ 上
アメリカン・ゴッズ 下
原題:American Gods
作者:ニール・ゲイマン
訳者:金原瑞人、野沢佳織
出版社:角川グループパブリッシング
ISBN:4047916080、4047916099
上巻が進む間ずっと、読者はシャドウと同様、何がなんだかわからないままウェンズデイに引っ張り回され、ウェンズデイの敵たちから痛い目にあわされます。(あ、読者はさすがに痛い思いはしませんが)
かろうじてわかるのは、どうやらこれは、かつてアメリカに渡ってきた世界各地の民が連れてきた古い神々と、近代以降のテクノロジーによって生み出された新しい神々との戦争らしいということ。かなり広範な神話の知識が要求されます。知らなくても読めるけど、知っていれば数十倍面白くなると思う。これから読む人は、最初に下巻の巻末にある《本書に登場する神・妖精など》を一読しておくといいです。読んでる途中でそのつど参照するのでもいいけど、先に読んで知識として頭に入れておくと、出てきたときに「あ、あれだ!」という快感が得られます。
人間であるシャドウがどうして神々の戦いに巻きこまれなければならないのかも、どんな戦いになるのかもわからないまま読み続けると、死んだはずのローラがゾンビのように(ただし美しいまま)甦ってきたり、シャドウの夢の中にアメリカ先住民に関係ありそうな出来事が出てきたりします。
ネタバレになるので結末は書けませんが、えっ、そんな?!という、唖然+納得+安堵が複雑に混じり合ったエンディングです。なるほど、だから『壊れやすいもの』に入ってた後日譚が書けたんだな。
神々の戦いという大きな流れの中に、挟み込まれるいろいろな民族のエピソードも印象的です。特にアフリカから連れてこられて奴隷になった兄妹の悲惨すぎる生涯は胸をぐさぐさ刺されるような痛みがいっぱいで、これだけで真面目な短編小説1編として成立するクオリティ。ゲイマンさんて、こういうふうにも書けるんだなあと思いました。
大きな流れの下でちょろちょろと細く最後まで併走していたミステリーの小川が、あっと驚く解決を見せてくれるのも読者にはうれしい余禄。
死に損ないのローラは、最初のうちオルフェウスやイザナギ・イザナミみたいな話になるのかなと思っていたら、こちらの予想を超えたハードボイルドな活躍も見せてくれて、これ、映画にするならぜひシャーリーズ・セロンで!と思いましたが、アメリカではTVドラマ化されてるのね。キャスト表を見たけど知らない人ばかりでした。
面白いと思ったのは、人々に忘れ去られ、落ちぶれた神様たちが身すぎ世すぎのためにしている仕事がチンケで、情けないところ。これも、それぞれの神の特性をよく知っていればさらに面白くなりそう。
謝辞を読んで、ゲイマンって人づきあいがいいんだなあと感心したのですが、その中でちょっと気になったところが二カ所。
ジーン・ウルフからは最高の会話を拝借し、エピローグで使わせてもらった。実はこの本、ペーパーバックを持っていたんですが、文字が細かくて読む気になれず、ずっとほっぽってありました。ついにあきらめて翻訳書で読んだわけだけど、そうして本当によかった。知らない神々やらアメリカの歴史やらがいっぱい出てくるので、英語で読んだら大変だったと思う。紙の本じゃ辞書ひくのも面倒だし。
比類なき作家であるハーラン・エリスンからも、『死の島』という作品集のなかで同じテーマを扱っている。この作品は、作者がまだ書物から決定的な影響を受ける年頃だったときに、しっかりと脳裏に焼きつけられた。
アメリカン・ゴッズ 上
アメリカン・ゴッズ 下
原題:American Gods
作者:ニール・ゲイマン
訳者:金原瑞人、野沢佳織
出版社:角川グループパブリッシング
ISBN:4047916080、4047916099
by timeturner
| 2018-01-16 19:00
| 和書
|
Comments(0)