2005年 10月 05日
Dramatic Reading"Voices of a People's History of the United States" |
開演30分くらい前に着くと、中庭には大勢の人がいてビールやコーヒー(スタンドが設置され売られている)を飲みながら歓談したり、中央にぐるっと設けられた各種団体のブース(といっても机だけですが)で印刷物やパンフレットを見たり、意見の交換をしたりしています。ヴィゴの出版社Perceval Pressのスペースもあって、ジン氏が前書きを書いている『Twilight of Empire』とヴィゴとバケットヘッドの新作CD「Intelligence Failure」が売られていました。本日の会の主役である『Voices of a People's History of the United States』も売られていて、買うと「イヴェントのあとここでサイン会がありますよ」と教えてくれました。
予約していたチケットを受け取りに行くと一緒に当日のプログラム(2枚の両面コピーした紙)を渡され、それに誰が何を読むかが書かれていたのでひと安心。どうやらひとりが2編ずつ読むようです。
内部は扇状に椅子が設置されたこじんまりした(880名収容)会場で、アメリカ全土に2つしかない緞帳のうちのひとつがあることが自慢なんだそうですが、残念ながらこの日は最初からステージは開いていたので緞帳の姿は拝めませんでした。
会場に入っていくと崇拝者とおぼしき若者たち20人くらいに囲まれて談笑するジン氏がいました。平日の夜だっただけに人の集まりは最初のうちゆっくりでしたが、開演時間である8時にはほぼ満席になっていました(ジン氏のサイトで4日くらいに「チケットはソールドアウトしました」との告知が出ていました)。観客は人種、性別、年齢など、どのファクターに関しても本当にさまざま。私の席の左後ろではヴィゴ・ファンと思われる若い女性ふたり連れが始まるまでずっとキャピキャピはしゃいでいましたし、その少し横には中年女性のグループが(おそらく夜間大学などで)自分たちが学んでいるコースと授業の内容について情報交換したりしていました。メインとしては主催であるKPFK Radioをhttp://www.kpfk.org/聞くような人たち、政治や国際情勢、市民運動などに関心の高い層だったんじゃないでしょうか。
時間になるとまずハワード・ジンが登場。簡単な挨拶と共に本日の出演者を紹介します。ステージには最初から椅子がずらっと並べられていたので、おそらく全員がステージに座って順番に読んでいくんだろうなと思っていましたが、やはりそうでした。
ステージ向かって左側からハワード、ヴィゴ、マリサ・トメイ(酔いどれ詩人になるまえに)、サンドラ・オー(サイドウェイ)、クリスティナ・カーク(メリンダとメリンダ)、ジョシュ・ブローリン(イントゥ・ザ・ブルー)、ヴァネッサ・マルティネス(カーサ・エスペランサ ~赤ちゃんたちの家~)、レスリー・シルヴァ(ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密)、フロイド・レッド・クロウ・ウェスターマン(ダンス・ウィズ・ウルブズ)、ケリー・ワシントン(ファンタスティック・フォー)、アンソニー・アーノーヴという席順でした。ダニー・グローヴァー(リーサル・ウェポン)は遅れてきて途中から参加。カラー印刷されたハガキ大のチラシにはダイアン・レインやマリア・ベロの名前も載っていましたが、ハワード・ジンのサイトではダイアンの名前はかなり早い段階で消え、マリアの名前は1週間くらい前に消えていました。残念。
ヴィゴが着ている白の半袖Tシャツには例によって文字が書かれています。上からImpeach、Remove、Jailで、これはパーシヴァル・プレスのサイトに掲載されていたヴィゴの文章(ブッシュ及びその関係者を弾劾し、排除し、投獄しようと呼びかけたもの)の表題です。手にはこれを書くときについたと思われる青と赤のインクがついていました。下はジーンズではなく色の褪せたブルーグレイのコットンパンツで、Tシャツを中に入れ、茶色の皮ベルトをしていました。靴はときどき見かける革がこすれて白っぽくなっている黒のブーツ。髪の色は中央でスポットライトを浴びているときは明るい金髪でしたが、座っているときにはもっと赤っぽく見え、下のほうは黒っぽかった。そのときどきで染めた色が混ざりあってるような感じ。
ジン氏とアーノーヴ氏の司会でごくシンプルに進行しました。何を読むかの簡単な説明に続いてそれを読む人が席から立ち、中央のマイクの前に立って読み始めるだけ。効果音も幕もありません。プログラムには開演前の音楽にヴィゴの新作CDが使われると書いてありましたが、私はまだCDを聞いたことがなかったので実際にそうだったのかどうかわかりません。というか興奮と緊張で舞い上がっていたので音楽があったかどうかも覚えていません。
私の席は前から6列目くらいで、中央より少し左寄りだったのでスポットライトが読み手だけに当たっているときもヴィゴの様子が見えましたが、とても集中して熱心に他の出演者の朗読を聞いていました。うなずいたり、手元のコピー(おそらく全員分の原稿が印刷されたもの)に目を落としたり、何か書き込んだり、笑ったり、心から楽しんでいる様子がよくわかりました。それぞれの朗読が終わると手にしていたペンを口にはさんで拍手しています。
プログラムの内容は以下の通り。かっこの中はそれぞれが読んだ文章を書いた人・メディア・団体の名前です。
ヴィゴ・モーテンセン(バルトロメ・デ・ラス・カサス、マーク・トウェイン)
ジョシュ・ブローリン(ジョセフ・プラム・マーティン、ワード・ハント判事、ジョン・ブラウン)
ケリー・ワシントン(マリア・スチュワート、ソジャーナ・トゥルース)
マリサ・トメイ(ハリエット・ハンソン・ロビンソン、シンディ・シーハン)
クリスティーナ・カーク(スーザン・B・アンソニー、ヴィッキー・スター)
フロイド・レッド・クロウ・ウェスターマン(テカムセ、ジョセフ酋長)
ヴァネッサ・マルチネス(ノース・スター紙、フィリス&オーランド・ロドリゲス)
ダニー・グローヴァー(フレデリック・ダグラス、ジョン・ルイス)
サンドラ・オー(エマ・ゴールドマン、ユリ・コウチヤマ)
レスリー・シルヴァ(シルビア・ウッズ、ミシシッピー自由民主党)
本は年代順に編集されていて、ステージの順番もほぼそうだったと思います。同じ人が二度続けて読むことにならないようにとか、ダニー・グローヴァーが遅れて少しずらしたものもあると思いますが、聞いていた印象では過去から現代へとさかのぼってきた印象でした。人間というのは時代が変わってもどうしてこう変わらないんだろう、と思った記憶があります。
朗読の感想は「信じられないくらい素晴らしかった!」のひとこと。行く前には戯曲や詩ならともかく、ノンフィクションの文章を読むのを聞いてもどうなるものなのかちょっと不安だったのですが、まったくの杞憂に終わりました。
さすが役者、皆さん表現力が抜群です。大袈裟になりすぎず、それでいて強調すべきところは強調して、聞く人の心をがしっと掴んでしまいます。譜面台の上に乗せた原稿を読んでいるわけですが、ページをめくるときのほんの一瞬の間だけ「そうか、原稿を読んでるんだっけ」と気づくくらい、まるで元のスピーチを本人が話しているかのように感じられます。いくつかでは感動して涙が出てしまいました。
反白人運動のため西部の諸部族糾合を企てたショーニー族の族長、独立戦争で果敢に戦った第8コネチカット隊のジョセフ・プラム・マーティン、奴隷の境遇から立ち上がって、黒人差別と女性差別に挑んだソジャーナ・トゥルース、奴隷制度廃止・人権運動・市民権運動に尽くしたフレデリック・ダグラス、黒人で構成されるミシシッピー自由民主党によるベトナム戦争反対の申し立て、紡績工場で仲間の少女たちを率いてデモ行進をしたハリエット・ハンソン・ロビンソン、太平洋戦争で強制収容所に入れられその後の人生をマイノリティの人権運動に捧げた日系二世のユリ・コウチヤマ、アメリカ女性に参政権をもたらしたスーザン・ B・アンソニー、産児制限運動ほか過激なフェミニズム運動で知られるエマ・ゴールドマン、9.11で息子を失いながらも報復や復讐のため中東及び中央アジアに出兵することに反対しているロドリゲス夫妻、いずれも戦争や差別に対して戦おうというものばかりです。
会場からはその都度拍手や歓声が自然に湧き起こり、それでますます読み手のほうも熱を帯びるという、ステージの上と下が一体化したような理想的な状態。特に最後のほうでマリサ・トメイが読んだシンディ・シーハンさん(彼女がブッシュ大統領の牧場の近くにキャンプを張っているところにヴィゴが尋ねていったのは皆さんご存知だと思います)のスピーチには物凄い反応がありました。このスピーチは今年の8月5日にVeterans For Peace Conventionで行われたものの一部で本には掲載されていません。(YouTubeに上がっています)
ダニー・グローヴァーは半分くらい終わったあたりで到着し、手を合わせ頭を低くしながら自分の席にそっと着きました。キャリアの長いベテラン俳優なのに、とても謙虚な態度で好感がもてました。あわてて来たせいか、読んでいる途中で1~2度つかえたりしましたが、そんなことはまったく気にならない存在感とカリスマ性があってさすがでした。
ヴィゴが読んだのはバルトロメ・デ・ラス・カサス、マーク・トウェインですが、最初のラス・カサスはなんとスペイン語でした。LAですから聴衆の半分くらいはスペイン語のわかる人たちだったかもしれませんが、それにしてもちょっと?と思っていたら、途中から英語で最初から読み直してくれたので一安心。
ラス・カサスはスペイン人でありながらアメリカ大陸におけるスペイン人の非道を告発し続けた神父で、ヴィゴが読んだ部分でも無欲・無害なアメリカ先住民を獣のように強欲で残忍なスペイン人が迫害していく様子が述べられています。ある地域では300万人いた先住民が40年間で200人にまで減少させられた、というくだりでは私の隣に座っていた男性が「ジーザス!」とつぶやいていました。ふと思ったのですが、アメリカの学校ではアメリカ建国史の中でこのあたりのことに触れていないのでしょうか? コロンブスのアメリカ大陸「発見」に触れたら、その後に何があったかにも触れないわけにはいかないと思うのですが・・・。それとも単にこの男性が忘れていただけかな。私も人のことは言えませんから。
最初で緊張していたせいか、読む量が多かったせいか(本の7ページ分)、ヴィゴはふだんよりかなり早口でした。ときどき手を振り上げたりはしますが、大袈裟なジェスチャーはまったくなし。原稿を譜面台に乗せず手に持ったままで読んで、もう片方の手でときどき背中をかいたり、耳を引っ張ったりしています。
マーク・トウェインのほうはフィリピンのモロ族をアメリカ軍が大量殺戮したダホ山の戦いを批判する記事でした。感情に流されることなく皮肉を効かせて書かれた文章です。途中何度かつかえていたので、子供の発表会を見る親のような気分になり「あわてなくていいから、ゆっくり、落ち着いて」と心の中で祈ってしまった私です。
残念だったのはどちらの文章も事件の当事者ではない第三者によって書かれたものなので感情移入をしてDramatic Readingをするのが困難な題材だったこと。ヴィゴの演技力を発揮するためにも1編は別のものにしてほしかったなあ、という気がします。
最後に全員がステージに並んで立ち、感謝の意を表したときには客席も総立ちでスタンディング・オベーションを送りました。ヴィゴはうれしそうにピース・サインをし、マリサ・トメイやサンドラ・オーとハグやキスを交わし、袖に引っ込んでいきました。
行く前にハワード・ジンのサイトに出した問い合わせへの返事の中に、この朗読会は録音されてCD化されると書いてありました。ビデオ撮影もされていましたので、ひょっとしたら映像もどこかで流されるのかもしれません。
イヴェント終了後、外に出てサインをもらう行列(前に30人くらい、後ろに30人くらいいたと思います)に並びました。スタッフが「名前など添え書きしてほしいことがあればこれにスペルを書いておいてください」と紙を配ったりしてサイン会慣れしている様子。
サインしながら話もしているので列の進みはかなりゆっくりで30分くらい並んでからようやく順番が来ました。机の左にハワード・ジン、その右横にアンソニー・アーノーヴが座っています。ジンさんとは「日本のどこから来たの」「東京です」「日本には友人が何人かいるんだ」「はあ」「知ってるかなあ、マコト・オダって」(頭の中で姓と名を逆さにする私・・・オダ・マコト? 小田実か!?)「知ってます! すごく有名です」「彼とは昔から親しくしてるんだ」「ああ、ベトナム戦争の頃からですね」というような会話を交わしました。でも、あとで若い友人にその話をしたら「オダマコトって誰?」と言われてしまいました。もうベ平連なんて過去のものになっているんですねえ。(ちょっと遠い目)
日本から着いたその日に「Flightplan」を見て、さらにこの朗読会と、かなりの強行軍でしたが行って本当によかったと思いました。本もこれからゆっくりと(なにしろ624ページ!)読んでいきたいと思います。
内部は扇状に椅子が設置されたこじんまりした(880名収容)会場で、アメリカ全土に2つしかない緞帳のうちのひとつがあることが自慢なんだそうですが、残念ながらこの日は最初からステージは開いていたので緞帳の姿は拝めませんでした。
会場に入っていくと崇拝者とおぼしき若者たち20人くらいに囲まれて談笑するジン氏がいました。平日の夜だっただけに人の集まりは最初のうちゆっくりでしたが、開演時間である8時にはほぼ満席になっていました(ジン氏のサイトで4日くらいに「チケットはソールドアウトしました」との告知が出ていました)。観客は人種、性別、年齢など、どのファクターに関しても本当にさまざま。私の席の左後ろではヴィゴ・ファンと思われる若い女性ふたり連れが始まるまでずっとキャピキャピはしゃいでいましたし、その少し横には中年女性のグループが(おそらく夜間大学などで)自分たちが学んでいるコースと授業の内容について情報交換したりしていました。メインとしては主催であるKPFK Radioをhttp://www.kpfk.org/聞くような人たち、政治や国際情勢、市民運動などに関心の高い層だったんじゃないでしょうか。
時間になるとまずハワード・ジンが登場。簡単な挨拶と共に本日の出演者を紹介します。ステージには最初から椅子がずらっと並べられていたので、おそらく全員がステージに座って順番に読んでいくんだろうなと思っていましたが、やはりそうでした。
ステージ向かって左側からハワード、ヴィゴ、マリサ・トメイ(酔いどれ詩人になるまえに)、サンドラ・オー(サイドウェイ)、クリスティナ・カーク(メリンダとメリンダ)、ジョシュ・ブローリン(イントゥ・ザ・ブルー)、ヴァネッサ・マルティネス(カーサ・エスペランサ ~赤ちゃんたちの家~)、レスリー・シルヴァ(ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密)、フロイド・レッド・クロウ・ウェスターマン(ダンス・ウィズ・ウルブズ)、ケリー・ワシントン(ファンタスティック・フォー)、アンソニー・アーノーヴという席順でした。ダニー・グローヴァー(リーサル・ウェポン)は遅れてきて途中から参加。カラー印刷されたハガキ大のチラシにはダイアン・レインやマリア・ベロの名前も載っていましたが、ハワード・ジンのサイトではダイアンの名前はかなり早い段階で消え、マリアの名前は1週間くらい前に消えていました。残念。
ヴィゴが着ている白の半袖Tシャツには例によって文字が書かれています。上からImpeach、Remove、Jailで、これはパーシヴァル・プレスのサイトに掲載されていたヴィゴの文章(ブッシュ及びその関係者を弾劾し、排除し、投獄しようと呼びかけたもの)の表題です。手にはこれを書くときについたと思われる青と赤のインクがついていました。下はジーンズではなく色の褪せたブルーグレイのコットンパンツで、Tシャツを中に入れ、茶色の皮ベルトをしていました。靴はときどき見かける革がこすれて白っぽくなっている黒のブーツ。髪の色は中央でスポットライトを浴びているときは明るい金髪でしたが、座っているときにはもっと赤っぽく見え、下のほうは黒っぽかった。そのときどきで染めた色が混ざりあってるような感じ。
ジン氏とアーノーヴ氏の司会でごくシンプルに進行しました。何を読むかの簡単な説明に続いてそれを読む人が席から立ち、中央のマイクの前に立って読み始めるだけ。効果音も幕もありません。プログラムには開演前の音楽にヴィゴの新作CDが使われると書いてありましたが、私はまだCDを聞いたことがなかったので実際にそうだったのかどうかわかりません。というか興奮と緊張で舞い上がっていたので音楽があったかどうかも覚えていません。
私の席は前から6列目くらいで、中央より少し左寄りだったのでスポットライトが読み手だけに当たっているときもヴィゴの様子が見えましたが、とても集中して熱心に他の出演者の朗読を聞いていました。うなずいたり、手元のコピー(おそらく全員分の原稿が印刷されたもの)に目を落としたり、何か書き込んだり、笑ったり、心から楽しんでいる様子がよくわかりました。それぞれの朗読が終わると手にしていたペンを口にはさんで拍手しています。
プログラムの内容は以下の通り。かっこの中はそれぞれが読んだ文章を書いた人・メディア・団体の名前です。
ヴィゴ・モーテンセン(バルトロメ・デ・ラス・カサス、マーク・トウェイン)
ジョシュ・ブローリン(ジョセフ・プラム・マーティン、ワード・ハント判事、ジョン・ブラウン)
ケリー・ワシントン(マリア・スチュワート、ソジャーナ・トゥルース)
マリサ・トメイ(ハリエット・ハンソン・ロビンソン、シンディ・シーハン)
クリスティーナ・カーク(スーザン・B・アンソニー、ヴィッキー・スター)
フロイド・レッド・クロウ・ウェスターマン(テカムセ、ジョセフ酋長)
ヴァネッサ・マルチネス(ノース・スター紙、フィリス&オーランド・ロドリゲス)
ダニー・グローヴァー(フレデリック・ダグラス、ジョン・ルイス)
サンドラ・オー(エマ・ゴールドマン、ユリ・コウチヤマ)
レスリー・シルヴァ(シルビア・ウッズ、ミシシッピー自由民主党)
本は年代順に編集されていて、ステージの順番もほぼそうだったと思います。同じ人が二度続けて読むことにならないようにとか、ダニー・グローヴァーが遅れて少しずらしたものもあると思いますが、聞いていた印象では過去から現代へとさかのぼってきた印象でした。人間というのは時代が変わってもどうしてこう変わらないんだろう、と思った記憶があります。
朗読の感想は「信じられないくらい素晴らしかった!」のひとこと。行く前には戯曲や詩ならともかく、ノンフィクションの文章を読むのを聞いてもどうなるものなのかちょっと不安だったのですが、まったくの杞憂に終わりました。
さすが役者、皆さん表現力が抜群です。大袈裟になりすぎず、それでいて強調すべきところは強調して、聞く人の心をがしっと掴んでしまいます。譜面台の上に乗せた原稿を読んでいるわけですが、ページをめくるときのほんの一瞬の間だけ「そうか、原稿を読んでるんだっけ」と気づくくらい、まるで元のスピーチを本人が話しているかのように感じられます。いくつかでは感動して涙が出てしまいました。
反白人運動のため西部の諸部族糾合を企てたショーニー族の族長、独立戦争で果敢に戦った第8コネチカット隊のジョセフ・プラム・マーティン、奴隷の境遇から立ち上がって、黒人差別と女性差別に挑んだソジャーナ・トゥルース、奴隷制度廃止・人権運動・市民権運動に尽くしたフレデリック・ダグラス、黒人で構成されるミシシッピー自由民主党によるベトナム戦争反対の申し立て、紡績工場で仲間の少女たちを率いてデモ行進をしたハリエット・ハンソン・ロビンソン、太平洋戦争で強制収容所に入れられその後の人生をマイノリティの人権運動に捧げた日系二世のユリ・コウチヤマ、アメリカ女性に参政権をもたらしたスーザン・ B・アンソニー、産児制限運動ほか過激なフェミニズム運動で知られるエマ・ゴールドマン、9.11で息子を失いながらも報復や復讐のため中東及び中央アジアに出兵することに反対しているロドリゲス夫妻、いずれも戦争や差別に対して戦おうというものばかりです。
会場からはその都度拍手や歓声が自然に湧き起こり、それでますます読み手のほうも熱を帯びるという、ステージの上と下が一体化したような理想的な状態。特に最後のほうでマリサ・トメイが読んだシンディ・シーハンさん(彼女がブッシュ大統領の牧場の近くにキャンプを張っているところにヴィゴが尋ねていったのは皆さんご存知だと思います)のスピーチには物凄い反応がありました。このスピーチは今年の8月5日にVeterans For Peace Conventionで行われたものの一部で本には掲載されていません。(YouTubeに上がっています)
ダニー・グローヴァーは半分くらい終わったあたりで到着し、手を合わせ頭を低くしながら自分の席にそっと着きました。キャリアの長いベテラン俳優なのに、とても謙虚な態度で好感がもてました。あわてて来たせいか、読んでいる途中で1~2度つかえたりしましたが、そんなことはまったく気にならない存在感とカリスマ性があってさすがでした。
ヴィゴが読んだのはバルトロメ・デ・ラス・カサス、マーク・トウェインですが、最初のラス・カサスはなんとスペイン語でした。LAですから聴衆の半分くらいはスペイン語のわかる人たちだったかもしれませんが、それにしてもちょっと?と思っていたら、途中から英語で最初から読み直してくれたので一安心。
ラス・カサスはスペイン人でありながらアメリカ大陸におけるスペイン人の非道を告発し続けた神父で、ヴィゴが読んだ部分でも無欲・無害なアメリカ先住民を獣のように強欲で残忍なスペイン人が迫害していく様子が述べられています。ある地域では300万人いた先住民が40年間で200人にまで減少させられた、というくだりでは私の隣に座っていた男性が「ジーザス!」とつぶやいていました。ふと思ったのですが、アメリカの学校ではアメリカ建国史の中でこのあたりのことに触れていないのでしょうか? コロンブスのアメリカ大陸「発見」に触れたら、その後に何があったかにも触れないわけにはいかないと思うのですが・・・。それとも単にこの男性が忘れていただけかな。私も人のことは言えませんから。
最初で緊張していたせいか、読む量が多かったせいか(本の7ページ分)、ヴィゴはふだんよりかなり早口でした。ときどき手を振り上げたりはしますが、大袈裟なジェスチャーはまったくなし。原稿を譜面台に乗せず手に持ったままで読んで、もう片方の手でときどき背中をかいたり、耳を引っ張ったりしています。
マーク・トウェインのほうはフィリピンのモロ族をアメリカ軍が大量殺戮したダホ山の戦いを批判する記事でした。感情に流されることなく皮肉を効かせて書かれた文章です。途中何度かつかえていたので、子供の発表会を見る親のような気分になり「あわてなくていいから、ゆっくり、落ち着いて」と心の中で祈ってしまった私です。
残念だったのはどちらの文章も事件の当事者ではない第三者によって書かれたものなので感情移入をしてDramatic Readingをするのが困難な題材だったこと。ヴィゴの演技力を発揮するためにも1編は別のものにしてほしかったなあ、という気がします。
最後に全員がステージに並んで立ち、感謝の意を表したときには客席も総立ちでスタンディング・オベーションを送りました。ヴィゴはうれしそうにピース・サインをし、マリサ・トメイやサンドラ・オーとハグやキスを交わし、袖に引っ込んでいきました。
イヴェント終了後、外に出てサインをもらう行列(前に30人くらい、後ろに30人くらいいたと思います)に並びました。スタッフが「名前など添え書きしてほしいことがあればこれにスペルを書いておいてください」と紙を配ったりしてサイン会慣れしている様子。
日本から着いたその日に「Flightplan」を見て、さらにこの朗読会と、かなりの強行軍でしたが行って本当によかったと思いました。本もこれからゆっくりと(なにしろ624ページ!)読んでいきたいと思います。
by timeturner
| 2005-10-05 22:33
| 旅行
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