2018年 01月 02日
ヒースの丘を歩く(2日目) |
(1994年の話です。ホームページを少しずつブログに移行しようと思いたち、その手始めというところ。印画紙にプリントされた写真をスキャンしたのですが、経年のため色が褪せてしまっています)
きのう草原に入っていったスパニヤード・ロードの標識を越えて、右のほうの道を100メートルくらい歩くと、バス停があった。念のために乗るとき運転手に「ケンウッドハウスに行きますか?」と聞いておいたおかげで、停留所に着いたらちゃんとアナウンスしてくれた。
なんだ、たいして遠くないのね。3停留所くらいだから、歩こうと思えば歩けたな。ま、でも7DAYS CARD をZONE3まで買っておいたから、ただで乗れたんだけど。
降りたところは、道の両側に大きな樹がず~っと植えられていて、ところどころに家があるような住宅地。その樹というのが、いわゆる並木道なんていうなまやさしいものじゃなくて、森の中に道が走っているような感じ。ここがロンドンの中心から地下鉄で20分くらいのところだな んて、とても信じられない。東京で言ったら、渋谷から地下鉄で20分くらい行った大手町あたりに、いきなり高尾山があるような印象よね。
道の片側はすでにケンウッドハウスの敷地らしく、煉瓦と板の塀が延々と続いている。
塀に沿って歩いて行くと、その塀がとぎれたところに小さな門があり、入口にはフェルメールの「ギターを弾く女」のポスターが!
やっぱりほんとだったのね! 誰もいない、裏口みたいな門を抜けて緑の中の小道を抜けると、そこにはまさに白亜の殿堂と呼ぶにふさわしい館が立っていた。
入口で荷物チェックを受けていると、おじさんが「有料だけど日本語で書いたパンフレットもあるよ」と言うので、それを買った。だれが書いたのか、ちょっと古めかしい感じの日本語で、でもとても親切に各部屋の説明が書かれている。向こうの建築様式のことなんて皆目わからないから(日本のだって知らないけど)、こういうパンフレットがないと、せっかく見てもワケワカメ状態だったと思う。
貴族の館というだけあって、家具調度も室内装飾もなかなかに派手だ。ワビやサビを愛する日本人からすると、ちょっとケバイんじゃな~い、という感じもするが、まあ、金に糸目をつけずに揃えるとこうなっちゃうんだろう。
特にすごかったのが図書室兼応接室。奥行がすごくある部屋で、水色と白で塗られた豪華な天井はアーチ状になっている。北側の壁には大きな鏡が貼られており、反対側にある窓からの素晴らしい景色が映るようになっている。
しかし、各部屋をじっくりと見ながらも、私の頭の片隅にはフェルメールのことがこびりついていて、どうしても心ここにあらず状態になってしまっている。
え~い、こんなことなら先に見てしまおう。
というわけで、いきなりダイニングルームに入っていった。ここにはフェルメールのほかにレンブラントの自画像もあって、この館の中でいちばん重い。
「ギターを弾く女」は、フェルメールの絵によく登場する、白い毛皮の縁どりのついた黄色い服を着た若い女性が、ギターを弾きながら微笑んでいる絵だ。
フェルメールにしては珍しく、右側から光が当たっているのと、顔の造作がかなりくっきり描いてあるのとで、いつもとは違うような気がしたが、よく見るとふっくらした肌の輝きは彼ならではのもの。
絵と絵の間を行ったり来たりして、いつまでもダイニングルームにいる私を、警備員が不思議そうに見ている。観光客が少なく、ほとんどひとり占め状態という幸福なシチュエーションでありました。
心おきなくゆっくりした気分で館の残りを見て、庭に出た。
この館はハムステッドの丘のてっぺんに建っているので、はるか彼方、ロンドン中心部のほうまですべてが見渡せる。なんて贅沢な気分だろう。
お天気もいいので、家族連れでピクニックに来ている人たちもたくさんいて、芝生の上に寝ころんだり、子どもを遊ばせたりしている。
館の裏手には昔の家事棟を改築したカフェテリアがある。ここでお昼を食べることにした。といっても、朝ごはんを食べ過ぎてしまったので、ケーキとお茶くらいでいいや。
と思っていたら、ここのケーキの大きいことったら! しかも、どれも砂糖やクリームがたっぷりかかっていて、見るからに甘そうだ。悩みに悩んで、いちばん小さくてシンプルな白いケーキを選び、紅茶のポットと一緒にトレーに載せて、外の庭に出た。ちょっと日差しが強いけど、こんなにいいお天気なんだもの。
木で作った素朴なテーブルと椅子が並ぶ庭には、食べこぼしを目当ての鳥たちがたくさん集まってきている。カラスや鳩や雀が、それぞれの縄張りを尊重しながらも、少しでもたくさん食べようとがんばっている姿がおもしろい。
人間をこわがらないのも考えもので、私のすぐ横の空いたテーブルでは、前の人がおいていった皿の上をカラスがつつきまくって、ティーポットやカップを倒しそうにしている。それでも、だれも片付けにはこない。
私の足下でうろうろしている鳩に、ケーキの小さなかけらを投げてやった。驚くほどすばやく食べる。こんなに食べ物が潤沢なんだから、もう少しゆったりかまえていたってよさそうなものだけど、やはり性分なのね。
しかし、ここの鳥たちは絶対に食べ過ぎよね。ちょっとダイエットしたほうがいいかもしれない。甘いものばかり食べて、体に悪いではないか。
さて、腹ごしらえもできたし、少し歩いてみよう。
カフェテリアの前の道から少し登り坂になっていて、木でできた低い柵を抜けるとケンウッドの中でもさらに小高い丘にでる。
さっきの柵は「犬と自転車の立ち入り禁止」のためのもので、ということは、このあたりの草原はどこにでも安心して寝ころがることができるってこと。
もちろん、ベンチもほどよい間隔で並べてあって、ひとりの人、ふたり連れの人、それぞれの好きな場所に、好きな方法で座って、はるかに続く丘からの眺めをゆったりと見入っている。
しばらくぼーっとしてから、今度はサマーコンサートが行われるという池のほうに降りていった。池には白鳥が泳ぎ、その向こうに白いコンサートドームが作られている。こんなところでコンサートを聴けたらどんなにすてきでしょう。
池の回りにも雑草のような小さな草花がいっぱい咲いているのだが、そのどれかの種だと思われる、白くて小さなふわふわしたものが空気中に舞い踊っている。まるで夏の雪のよう・・・幻想的。
リドリー・スコット監督の「レジェンド」という映画に、やはり画面いっぱいに白い羽のようなものが舞い飛ぶシーンがあって、それがすばらしくきれいだったのだけれど、多分こういうことだったのね。
池のそばの芝生から、館のほうへと坂を登って、今度は庭のほうへと歩いていく。
ちょうど木陰になる位置には、心地よさそうなベンチが置かれていて、つい誘惑されてしまい、ごろんと横になってお昼寝。日本だと勇気がいるけれど、ここではみんな自然にそうしてるので、きらくなものだ。
ああ、よく寝た……さあ、そろそろ帰ろうかな。
きのう草原に入っていったスパニヤード・ロードの標識を越えて、右のほうの道を100メートルくらい歩くと、バス停があった。念のために乗るとき運転手に「ケンウッドハウスに行きますか?」と聞いておいたおかげで、停留所に着いたらちゃんとアナウンスしてくれた。
なんだ、たいして遠くないのね。3停留所くらいだから、歩こうと思えば歩けたな。ま、でも7DAYS CARD をZONE3まで買っておいたから、ただで乗れたんだけど。
降りたところは、道の両側に大きな樹がず~っと植えられていて、ところどころに家があるような住宅地。その樹というのが、いわゆる並木道なんていうなまやさしいものじゃなくて、森の中に道が走っているような感じ。ここがロンドンの中心から地下鉄で20分くらいのところだな んて、とても信じられない。東京で言ったら、渋谷から地下鉄で20分くらい行った大手町あたりに、いきなり高尾山があるような印象よね。
入口で荷物チェックを受けていると、おじさんが「有料だけど日本語で書いたパンフレットもあるよ」と言うので、それを買った。だれが書いたのか、ちょっと古めかしい感じの日本語で、でもとても親切に各部屋の説明が書かれている。向こうの建築様式のことなんて皆目わからないから(日本のだって知らないけど)、こういうパンフレットがないと、せっかく見てもワケワカメ状態だったと思う。
貴族の館というだけあって、家具調度も室内装飾もなかなかに派手だ。ワビやサビを愛する日本人からすると、ちょっとケバイんじゃな~い、という感じもするが、まあ、金に糸目をつけずに揃えるとこうなっちゃうんだろう。
特にすごかったのが図書室兼応接室。奥行がすごくある部屋で、水色と白で塗られた豪華な天井はアーチ状になっている。北側の壁には大きな鏡が貼られており、反対側にある窓からの素晴らしい景色が映るようになっている。
しかし、各部屋をじっくりと見ながらも、私の頭の片隅にはフェルメールのことがこびりついていて、どうしても心ここにあらず状態になってしまっている。
え~い、こんなことなら先に見てしまおう。
というわけで、いきなりダイニングルームに入っていった。ここにはフェルメールのほかにレンブラントの自画像もあって、この館の中でいちばん重い。
「ギターを弾く女」は、フェルメールの絵によく登場する、白い毛皮の縁どりのついた黄色い服を着た若い女性が、ギターを弾きながら微笑んでいる絵だ。
フェルメールにしては珍しく、右側から光が当たっているのと、顔の造作がかなりくっきり描いてあるのとで、いつもとは違うような気がしたが、よく見るとふっくらした肌の輝きは彼ならではのもの。
絵と絵の間を行ったり来たりして、いつまでもダイニングルームにいる私を、警備員が不思議そうに見ている。観光客が少なく、ほとんどひとり占め状態という幸福なシチュエーションでありました。
心おきなくゆっくりした気分で館の残りを見て、庭に出た。
この館はハムステッドの丘のてっぺんに建っているので、はるか彼方、ロンドン中心部のほうまですべてが見渡せる。なんて贅沢な気分だろう。
お天気もいいので、家族連れでピクニックに来ている人たちもたくさんいて、芝生の上に寝ころんだり、子どもを遊ばせたりしている。
館の裏手には昔の家事棟を改築したカフェテリアがある。ここでお昼を食べることにした。といっても、朝ごはんを食べ過ぎてしまったので、ケーキとお茶くらいでいいや。
木で作った素朴なテーブルと椅子が並ぶ庭には、食べこぼしを目当ての鳥たちがたくさん集まってきている。カラスや鳩や雀が、それぞれの縄張りを尊重しながらも、少しでもたくさん食べようとがんばっている姿がおもしろい。
人間をこわがらないのも考えもので、私のすぐ横の空いたテーブルでは、前の人がおいていった皿の上をカラスがつつきまくって、ティーポットやカップを倒しそうにしている。それでも、だれも片付けにはこない。
私の足下でうろうろしている鳩に、ケーキの小さなかけらを投げてやった。驚くほどすばやく食べる。こんなに食べ物が潤沢なんだから、もう少しゆったりかまえていたってよさそうなものだけど、やはり性分なのね。
しかし、ここの鳥たちは絶対に食べ過ぎよね。ちょっとダイエットしたほうがいいかもしれない。甘いものばかり食べて、体に悪いではないか。
さて、腹ごしらえもできたし、少し歩いてみよう。
しばらくぼーっとしてから、今度はサマーコンサートが行われるという池のほうに降りていった。池には白鳥が泳ぎ、その向こうに白いコンサートドームが作られている。こんなところでコンサートを聴けたらどんなにすてきでしょう。
池の回りにも雑草のような小さな草花がいっぱい咲いているのだが、そのどれかの種だと思われる、白くて小さなふわふわしたものが空気中に舞い踊っている。まるで夏の雪のよう・・・幻想的。
池のそばの芝生から、館のほうへと坂を登って、今度は庭のほうへと歩いていく。
by timeturner
| 2018-01-02 11:00
| 旅行
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