2017年 10月 28日
The Long Way to a Small, Angry Planet |
火星出身の人類・ローズマリーは、専門事務職としてウェイフェアラー号に乗り組んだ。継ぎはぎだらけのオンボロ宇宙船だが、宇宙航路のための超空間トンネル掘削技術ではピカイチとの評判をもつ。船長のアシュビーと技術屋のキジー、ジェンクス、燃料係のコービンは人類だが、パイロットのシシックスは羽根のはえた爬虫類型生物Aandrisk、船医兼シェフのドクター・シェフは絶滅の縁にいるGrum、航行士のオーハンは引きこもりのSianatと異種混合チームだ。そんなある日、ウェイフェアラー号に千載一遇のチャンスが訪れた。銀河議会(Galactic Commons)が新しい超空間トンネルの掘削を発注してきたのだ。この仕事がうまくいけば莫大な代金でウェイフェアラー号をアップグレードし、よりよい環境で大きな仕事を請け負うことができるようになる。船長もクルーも張りきったが、彼らが向かうのは好戦的なToremiが支配する地域だった・・・。2016年アーサー・C・クラーク賞、2014年キッチーズ金の触手賞(新人賞)最終ノミネート。
すごく面白い! 久々に痛快なスペース・オペラを読んだという気がした。
宇宙船での冒険ももちろんだけど、異種生物で構成されたクルーひとりひとりに独特のキャラクターがあり、それぞれの悩みや問題があって、それをすべて知るまでに全体の半分くらいが終わってる。でも、ぜんぜん退屈じゃない。
異種生命体それぞれの生物学的な特徴や彼らの社会の在り方がつぶさに描かれていて、それぞれにユニークで興味深いし、ユーモアとペーソスがたっぷりまぶしてあって、読めば読むほどクルーたちに愛着が湧いてきます。
それぞれが口に出せない秘密を抱えていて、それが少しずつわかってくるのもわくわくする。スパイス役として配置されている嫌な奴コービンにもつらい過去があったことを見せるエピソードも巧い。
クルー間の友情物語であると同時に、これまで火星から一歩も外に出たことがなかったお嬢様ローズマリーの成長物語でもあるところはヤングアダルト向けだと思うし、一般的ではない形ではあるけれどロマンスもちゃんとある。
これだけでもう十分物語として面白くなっているんだけど、さまざまな宇宙生物の歴史や生き方を見ていくことで、人類が長い間繰り返した血と殺戮の歴史を宇宙的な視野からみつめなおし、身体的特徴も思考方法も異なる種族がどうすればお互いに歩み寄り、共存できるのかを考えるきっかけにもなる。実に今の時代ならではの内容なのですよ。
これ、THE BAILEY'S WOMEN'S PRIZE FOR FICTIONのロングリストにも選ばれているんですが、それも不思議ではなく、一生の間で性別が変わる者や、単性生殖ができる者、ウイルスと合体して生きる者など、男性vs女性なんて小さな枠にとらわれない生命体がたくさん出てくるので、結果として完全にジェンダー・フリー! 家庭と子育ての問題にも新しい視点がとりいれられています。謝辞を見ていて気づいたのですが、作者(女性)のパートナーは女性らしい。なるほど、だからか。
SF特有の特殊用語や設定をクリアできさえすれば、どんな読者にもアピールする小説だと思います。ベッキー・チェンバースは、デビュー作である本書を自費出版で出して注目され、多くの賞にノミネートされたそう。シリーズ2作目の『A Closed and Common Orbit』も2017年ヒューゴ賞にノミネートされました。
このシリーズ、翻訳されないかなあ。
【2017年12月30日後記】 翻訳されないかなあと書いていたら、ツイッターでこんなつぶやきをみつけた。細美遥子さんが訳しているっぽい。特殊用語をどんなふうに訳してあるのか楽しみ~。
The Long Way to a Small, Angry Planet: Wayfarers 1 (English Edition)
作者:Becky Chambers
出版社:Hodder & Stoughton
ISBN:Kindle版
すごく面白い! 久々に痛快なスペース・オペラを読んだという気がした。
宇宙船での冒険ももちろんだけど、異種生物で構成されたクルーひとりひとりに独特のキャラクターがあり、それぞれの悩みや問題があって、それをすべて知るまでに全体の半分くらいが終わってる。でも、ぜんぜん退屈じゃない。
異種生命体それぞれの生物学的な特徴や彼らの社会の在り方がつぶさに描かれていて、それぞれにユニークで興味深いし、ユーモアとペーソスがたっぷりまぶしてあって、読めば読むほどクルーたちに愛着が湧いてきます。
それぞれが口に出せない秘密を抱えていて、それが少しずつわかってくるのもわくわくする。スパイス役として配置されている嫌な奴コービンにもつらい過去があったことを見せるエピソードも巧い。
クルー間の友情物語であると同時に、これまで火星から一歩も外に出たことがなかったお嬢様ローズマリーの成長物語でもあるところはヤングアダルト向けだと思うし、一般的ではない形ではあるけれどロマンスもちゃんとある。
これだけでもう十分物語として面白くなっているんだけど、さまざまな宇宙生物の歴史や生き方を見ていくことで、人類が長い間繰り返した血と殺戮の歴史を宇宙的な視野からみつめなおし、身体的特徴も思考方法も異なる種族がどうすればお互いに歩み寄り、共存できるのかを考えるきっかけにもなる。実に今の時代ならではの内容なのですよ。
これ、THE BAILEY'S WOMEN'S PRIZE FOR FICTIONのロングリストにも選ばれているんですが、それも不思議ではなく、一生の間で性別が変わる者や、単性生殖ができる者、ウイルスと合体して生きる者など、男性vs女性なんて小さな枠にとらわれない生命体がたくさん出てくるので、結果として完全にジェンダー・フリー! 家庭と子育ての問題にも新しい視点がとりいれられています。謝辞を見ていて気づいたのですが、作者(女性)のパートナーは女性らしい。なるほど、だからか。
SF特有の特殊用語や設定をクリアできさえすれば、どんな読者にもアピールする小説だと思います。ベッキー・チェンバースは、デビュー作である本書を自費出版で出して注目され、多くの賞にノミネートされたそう。シリーズ2作目の『A Closed and Common Orbit』も2017年ヒューゴ賞にノミネートされました。
このシリーズ、翻訳されないかなあ。
【2017年12月30日後記】 翻訳されないかなあと書いていたら、ツイッターでこんなつぶやきをみつけた。細美遥子さんが訳しているっぽい。特殊用語をどんなふうに訳してあるのか楽しみ~。
The Long Way to a Small, Angry Planet: Wayfarers 1 (English Edition)
作者:Becky Chambers
出版社:Hodder & Stoughton
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2017-10-28 19:00
| 洋書
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