2017年 10月 21日
魅惑のヴィクトリア朝 |
EU離脱で注目を浴びた英国。ヨーロッパとは異なる英国らしい「島国根性」は、大英帝国が産業革命をいち早く達成し、近代の扉を開けたヴィクトリア朝に形成された。英国的な価値観と美意識が形成された時代を、文学・美術・映画などの作品を通して解説する。
新井潤美さんのイギリス物はもうかなり読んだので、重複が多いかもしれないなあと覚悟していたのですが、久しぶりだったせいもあるのか、初めて聞く話も多く、とても新鮮に楽しめました。やっぱり引き出しがたくさんあるんですね。
新井さんの本にはつきものの階級についてもたっぷり語っていて、これもまた復習のような形で再確認できたし、これまで気づかなかった切り口も見せてくれています。特にルイス・キャロルのアリスがアッパー・ミドル・クラスを体現しているという指摘には「なるほど!」と膝を打ちました。単に小生意気な小娘だと思っていましたが、言われてみれば確かにそうですよね。
第1章 中産階級化した英国
第2章 ディケンズにみる貧困と博愛精神
第3章 英国の愛国心とテニソン
第4章 階級観と無秩序が生み出すもの
第5章 大衆社会の娯楽の始まり
「はじめに」の最後に、
そんな中で「これは覚えておかなくては」と付箋を貼った個所をメモしておきます。
『眺めのいい部屋』でルーシーがフィレンツェの宿の壁にかかっている「前の女王と前の桂冠詩人の肖像」を見てがっかりするところ、私はここまで気づいていなかったので「おお!」と思いました。
警察制度の話では『最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件』のウィッチャーにもけっこう触れています。
【誤植メモ】 p.34 7行目 女性のために⇒女性のための p.93 2行目 人口が⇒人口は
魅惑のヴィクトリア朝 アリスとホームズの英国文化 (NHK出版新書)
作者:新井潤美
出版社:NHK出版
ISBN:4140884940
新井潤美さんのイギリス物はもうかなり読んだので、重複が多いかもしれないなあと覚悟していたのですが、久しぶりだったせいもあるのか、初めて聞く話も多く、とても新鮮に楽しめました。やっぱり引き出しがたくさんあるんですね。
新井さんの本にはつきものの階級についてもたっぷり語っていて、これもまた復習のような形で再確認できたし、これまで気づかなかった切り口も見せてくれています。特にルイス・キャロルのアリスがアッパー・ミドル・クラスを体現しているという指摘には「なるほど!」と膝を打ちました。単に小生意気な小娘だと思っていましたが、言われてみれば確かにそうですよね。
第1章 中産階級化した英国
第2章 ディケンズにみる貧困と博愛精神
第3章 英国の愛国心とテニソン
第4章 階級観と無秩序が生み出すもの
第5章 大衆社会の娯楽の始まり
「はじめに」の最後に、
ここで試みるのは歴史の解説ではなく、文学作品の解釈でもない。作品を読んだ際、そこから連想されるヴィクトリア朝の文化の側面、背景となる社会や人々の意識、当時の習慣や流行などをいくつかとりあげて見ていくという、いわば「連想ゲーム」のような性質のものだ。と書かれています。それって、まさに私が本を読むときの態度と同じで、脈絡がないと言えばそれまでですが、そのほうが脳のシナプスがぴりぴりするような刺激を感じるんですよね。ふつうの本だと読んでいる途中で「同じようなことが書いてある作品があったなあ」とか「映画でこういう場面を見たことがあるなあ」と思っても、とりあえず本を読み進めなくてはならないのでそのままになってしまいますが(時には本を置きPCで調べることもある)、ここでは作者がそれをやってくれるのがうれしい。
そんな中で「これは覚えておかなくては」と付箋を貼った個所をメモしておきます。
最初の「学校物語」と言われており、とくに子どもの読者を想定した小説のはしりともされる作品は、セーラ・フィールディング(1710‐1768)のThe Governess, or The Little Female Academy『ガヴァネス、または女性のための小さな私塾』である。このあたりは『英国社会の民衆娯楽』を思い出させます。
ヴィクトリア朝になって、クリスマスの休みも短くなっていった。たとえば関税消費税庁は、18世紀の終わりには12月21日から1月6日まで休みだったのが、1838年には12月25日に休むのみになった。『クリスマス・キャロル』でもクリスマスの翌日にはスクルージも事務員のボブ・クラチットも当然のように出勤している。
『眺めのいい部屋』でルーシーがフィレンツェの宿の壁にかかっている「前の女王と前の桂冠詩人の肖像」を見てがっかりするところ、私はここまで気づいていなかったので「おお!」と思いました。
「前の女王」とはもちろん、ヴィクトリア女王であるし、「前の桂冠詩人」とは、1850年に桂冠詩人に任命されたテニソンなのだ。(中略)イタリアという、イギリス人にとっては憧れの国であり、異国情緒、芸術、情熱の国に初めて行ったルーシーが、宿ではイギリス的なものに囲まれているだけでなく、それが「ヴィクトリア朝の」イギリスであることで、彼女の失望と幻滅が強調されていることである。20世紀初めのイギリスで、ヴィクトリア朝への反動があったことには気づいていませんでした。考えてみれば、どこの国、どの時代での、直前の時代への反動が起こるのは当たりませですもんね。
イギリスの警官は「ボビー」という通称で呼ばれるが、これはピールのファースト・ネームである「ロバート」の愛称なのである。ロバート・ピールというのは、イギリスの警察組織の結成に中心的な役割を果たした政治家です。警官をボビーと呼ぶことは知っていましたが、まさか、そんな謂れがあったとは!
警察制度の話では『最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件』のウィッチャーにもけっこう触れています。
新聞そのものは以前からアッパー・クラスおよびアッパー・ミドル・クラスの紳士の読み物ではあったが、19世紀後半から、新聞を読む習慣が、より広く、新たな読者層に広まると、読み物としての新聞の評価が落ちていく。ジョン・ケアリはその著書『知識人と大衆――文人インテリゲンチャにおける高慢と偏見 1889-1939』(東郷秀光訳、大月書店、2000年)の中で、新聞が「インテリ」を「一般大衆」から分ける断層線のようなものとなり、インテリは新聞を好まず、読む者を「教養のない大衆」として馬鹿にしていたことに触れている。そして、新聞をすみからすみまで読むホームズは、「とくにミドル・ミドル・クラスおよびロウワー・ミドル・クラスの読者にとって、大量消費むけの、安心できるインテリ」であり、親近感を抱けるヒーローだったと指摘している。えーっ、そうなの?! 大衆向けとインテリ向けの新聞があることは知っていたけれど、インテリが新聞を読まないという話は初耳です。それってヴィクトリア朝への反動があった1889年~1939年に限った現象だったのかな?
イギリスでは2005年から、イギリスの市民権を得ようとする者に対して、Life in the United Kingdom Test「英国での生活試験」というものが課せられ、それに合格しないと市民権が得られない。45分の選択式の試験で、イギリスでの生活において必要な、教育、医療、各種手続きなどの基礎知識のほか、イギリスの歴史や文化に関する知識も試される。試験を受ける場合には英国政府の出版局から出ている参考書『英国での生活――市民権への旅』(Life in the United Kingdom: A Journey to Citizenship, 2007, 2013)を勉強することが推奨される。ロンドン・タクシーの免許取得の厳しさを思い出しましたが、それもこれも多民族国家になった結果です。パブリック・スクールが私立学校だと知らないイギリス人や、歴代国王の名前を知らないイギリス人が増えてきたら。危機感を覚えて当然だし、EUを脱退しちゃった気持ちもわかりますが、考えてみればイギリスって大昔から他国の文化に侵略されつづけて今の状態に達したわけで、そんなにあわてなくてもなんとかなるんじゃないのという気もします。まあ、よその国のことだから無責任なことが言えるのかもしれませんが。
【誤植メモ】 p.34 7行目 女性のために⇒女性のための p.93 2行目 人口が⇒人口は
魅惑のヴィクトリア朝 アリスとホームズの英国文化 (NHK出版新書)
作者:新井潤美
出版社:NHK出版
ISBN:4140884940
by timeturner
| 2017-10-21 19:00
| 和書
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