2017年 09月 03日
ジェリーフィッシュ・ノート |
12歳のスージーは7年生(日本だと中学一年生)。まだお洒落にも男の子にも興味がなく、科学の不思議に興味津々だが、同級生の女の子たちはお化粧や服装のことばかり話している。親友のフラニーまでそうなのが不安だったのだが、そのフラニーが夏休みに海で溺れ死んだ。親友を失い、学校でも孤立したスージーはとうとう誰とも話をしなくなる。一方、泳ぎが得意だったフラニーは溺れ死んだのではなく猛毒をもつクラゲに刺されたのではないかという思いにとらわれ、なんとかそれを証明しようと調べ始めたのだが・・・。
とても変わった構成の本でした。スージーが自分のこと、家族のこと、友人のことを語る部分、クラゲやクラゲに関係する人たちについて調べた事実が書かれた部分、それに死んだフラニーを相手に話している形になっている部分が交互に出てきます。さらには各章の頭に、スージーたちに理科を教えるタートン先生による理科のレポートの書き方が「目的」「仮説」「背景」「変数」「手順」「結果」「結論」と順を追って説明されています。
初めはちょっとごちゃごちゃしすぎてるんじゃないかなと思ったのですが、慣れてくると読むほうの頭の中もしっかり整理されるので、内容がすんなり頭に入ってくるし、それぞれが引き立てあって、面白みを増していると思えました。
特に面白かったのがクラゲに関する部分。クラゲがこんなに興味深く、かつ怖ろしい生き物だなんて全く知りませんでした。指の爪ほどの小さなイルカンジクラゲに刺されると、殺してほしいと願うほどの激しい痛みに襲われて死ぬのだそうで、このクラゲに刺されて死ぬ人は一秒間に4、5人いるのだそう。しかも元々の生息地であるオーストラリアだけでなく、イギリス、ハワイ、フロリダ、日本でも確認されるようになり、海水温度の上昇につれて年々増え続けているんですってよ。もう怖くて海になんて入れません。
生物学者、生化学者、深海リサーチャー、遠泳競技者など、スージーがクラゲ研究について相談するためにネットで探し出した専門家の人たちも変わり者ぞろいで楽しいのですが、この人たちもみんな実在の人物だというのだから驚きます。
訳者あとがきによると、作者のアリ・ベンジャミンはもともとノンフィクション・ライターで、クラゲが地球に及ぼす影響についての本を書こうと準備していたらボツになり、その材料を使ってこの本を書いたそう。なるほどなあ、だから、作家が作品のために調べたときの「付け焼刃」感がなかったんだ。でも、これだけのものが書けるってことはもともとフィクション作家としての才能に恵まれていたんですよね。
それに、ノンフィクション的な面白さだけではこんなにいい本にはなりません。
なによりも素晴らしいなと思ったのは、12歳という微妙の年頃の少女の気持ちがとてもきめ細やかに描かれていること。思春期とひとことで言ってしまいますが、この年頃ってひとりひとりが成長の度合いが異なり、まだ子供でいたい子と早く大人になりたい子の差はものすごく大きい。
さらには、学校カーストなるものがあり、仲間外れにされることは死ぬよりつらいと感じさせる空気がある。自分が心から望んでいなくても、力のあるグループにひっぱられてしまう子もいれば、そういうグループから弾かれて人間扱いされなくなる子もいる。いまどきの学校生活って、ジャングルでサバイバルするようなものなんだなと改めて感じました。
親友と同じテンポで成長できないことに戸惑い、どんどん殻にこもっていったあげくにとりかえしのつかないことをして、そんな自分に絶望する。スージーの気持ちがいちいちこちらに響いてきて、一緒に悩んだり泣いたりしてしまいます。それだけに、最後にスージーがクラゲと人間との違いを認識し、人間として生きることを選んだところでほっと安心しました。
(離婚はしているけれど)両親も実の兄もそのボーイフレンドも学校の先生もみんないい人でよかった。現実的ではないかもしれないけれど、読んでいるほうにとっては救いでした。
ところで、スージーが読んでいる小説の話が少しだけ出てくるのですが、「スーパーマーケットの名前にちなんで名付けた犬」と「空になった酒ビンを木につるしている」おばあさんというのでひょっとしたらと思っていたら、訳者あとがきに『Because of Winn-Dixie』だと書いてありました。
ジェリーフィッシュ・ノート (文学の扉)
原題:The Thing about Jellyfish
作者:アリ・ベンジャミン
訳者:田中奈津子
出版社:講談社
ISBN:4062206048
とても変わった構成の本でした。スージーが自分のこと、家族のこと、友人のことを語る部分、クラゲやクラゲに関係する人たちについて調べた事実が書かれた部分、それに死んだフラニーを相手に話している形になっている部分が交互に出てきます。さらには各章の頭に、スージーたちに理科を教えるタートン先生による理科のレポートの書き方が「目的」「仮説」「背景」「変数」「手順」「結果」「結論」と順を追って説明されています。
初めはちょっとごちゃごちゃしすぎてるんじゃないかなと思ったのですが、慣れてくると読むほうの頭の中もしっかり整理されるので、内容がすんなり頭に入ってくるし、それぞれが引き立てあって、面白みを増していると思えました。
特に面白かったのがクラゲに関する部分。クラゲがこんなに興味深く、かつ怖ろしい生き物だなんて全く知りませんでした。指の爪ほどの小さなイルカンジクラゲに刺されると、殺してほしいと願うほどの激しい痛みに襲われて死ぬのだそうで、このクラゲに刺されて死ぬ人は一秒間に4、5人いるのだそう。しかも元々の生息地であるオーストラリアだけでなく、イギリス、ハワイ、フロリダ、日本でも確認されるようになり、海水温度の上昇につれて年々増え続けているんですってよ。もう怖くて海になんて入れません。
生物学者、生化学者、深海リサーチャー、遠泳競技者など、スージーがクラゲ研究について相談するためにネットで探し出した専門家の人たちも変わり者ぞろいで楽しいのですが、この人たちもみんな実在の人物だというのだから驚きます。
訳者あとがきによると、作者のアリ・ベンジャミンはもともとノンフィクション・ライターで、クラゲが地球に及ぼす影響についての本を書こうと準備していたらボツになり、その材料を使ってこの本を書いたそう。なるほどなあ、だから、作家が作品のために調べたときの「付け焼刃」感がなかったんだ。でも、これだけのものが書けるってことはもともとフィクション作家としての才能に恵まれていたんですよね。
それに、ノンフィクション的な面白さだけではこんなにいい本にはなりません。
なによりも素晴らしいなと思ったのは、12歳という微妙の年頃の少女の気持ちがとてもきめ細やかに描かれていること。思春期とひとことで言ってしまいますが、この年頃ってひとりひとりが成長の度合いが異なり、まだ子供でいたい子と早く大人になりたい子の差はものすごく大きい。
さらには、学校カーストなるものがあり、仲間外れにされることは死ぬよりつらいと感じさせる空気がある。自分が心から望んでいなくても、力のあるグループにひっぱられてしまう子もいれば、そういうグループから弾かれて人間扱いされなくなる子もいる。いまどきの学校生活って、ジャングルでサバイバルするようなものなんだなと改めて感じました。
親友と同じテンポで成長できないことに戸惑い、どんどん殻にこもっていったあげくにとりかえしのつかないことをして、そんな自分に絶望する。スージーの気持ちがいちいちこちらに響いてきて、一緒に悩んだり泣いたりしてしまいます。それだけに、最後にスージーがクラゲと人間との違いを認識し、人間として生きることを選んだところでほっと安心しました。
(離婚はしているけれど)両親も実の兄もそのボーイフレンドも学校の先生もみんないい人でよかった。現実的ではないかもしれないけれど、読んでいるほうにとっては救いでした。
ところで、スージーが読んでいる小説の話が少しだけ出てくるのですが、「スーパーマーケットの名前にちなんで名付けた犬」と「空になった酒ビンを木につるしている」おばあさんというのでひょっとしたらと思っていたら、訳者あとがきに『Because of Winn-Dixie』だと書いてありました。
ジェリーフィッシュ・ノート (文学の扉)
原題:The Thing about Jellyfish
作者:アリ・ベンジャミン
訳者:田中奈津子
出版社:講談社
ISBN:4062206048
by timeturner
| 2017-09-03 19:00
| 和書
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