2017年 08月 12日
平和の玩具 |
『The Toys of Peace, and Other Papers』の全訳で、ロシー・レナルズによる「ヘクター・ヒュー・マンロー追想」のほか、私が読んだ版にはなかったチェスタトンの序文も掲載されていて、この二つを読むと、第一次世界大戦初期のイギリスの愛国主義がすごくよく理解できる。
最近、翻訳の課題のためにキッチナー陸軍(当時のイギリスには徴兵制度がなく、陸軍大臣ホレイショ・キッチナーが志願兵を募った)のことを調べたんだけど、1914年中に応募した志願兵は48万人で、志願しない者は臆病者とみなされたというのを読んで、でもまあ日本ほどではないよなあなんて思っていたんだけど、日本の場合は徴兵だから何も考えずに従った人が多かっただろう。愛国主義の強さから言うとイギリスのほうが凄かったのかも。
そして、第一次世界大戦による人的被害(しかもほとんどは無駄死に)が厖大なものだったからこそ、第二次世界大戦では良心的兵役拒否(代わりに強制労働)が認められるようになったのかな。
この二つの序文と、巻末に附録としてついているランバート文書のいくつかの全訳(親族たちが述べたサキ)のためだけでも、この本は読む価値があった。サキの実姉がこんな鼻つまみ者だったなんてねえ。おばさんたちといい、サキのまわりには怖い女ばかりだったんだ。だから同性愛疑惑も生まれたんだろうね。
もちろんサキの作品そのものも、和爾さんの軽快な訳文でより面白く読めた。表題作なんて声に出して笑ってしまうほどおかしい。例によって「超つまんない」とか「鼻血ドバー」なんて訳語が出てくる。別の話では「お耽美」なんてのもあったな。
訳者あとがきに、
平和の玩具
ルイーズ
お茶
クリスピーナ・アムバーリーの失踪
セルノグラツの狼
ルイス
泊まり客
贖罪
まぼろしの接待
バターつきパンを探せ
バーティの聖夜
刷り込まれて
邪魔者たち
鶉のえさ
謝罪詣で
脅し
ミセス・ペンサービーは例外
マーク
はりねずみ
マッピン展示
運命
牡牛
モールヴェラ
奇襲戦術
七つのクリーマー
救急庭園
腑抜け
見落とし
ヒヤシンス
浮かばれぬ魂の肖像
バルカン諸王権
過去の戸棚
戦局のゆくすえ
ところで、中西秀男訳の『ザ・ベスト・オブ・サキ』の感想で「ヒヤシンス」に関する疑問を書いた。
【誤植メモ】 p.247 10行目 同室の他の手前⇒同室の他の人(or 他人)の手前?
平和の玩具 (白水Uブックス)
原題:The Toys of Peace, and Other Papers
作者:サキ
訳者:和爾桃子
出版社:白水社
ISBN:4560072140
最近、翻訳の課題のためにキッチナー陸軍(当時のイギリスには徴兵制度がなく、陸軍大臣ホレイショ・キッチナーが志願兵を募った)のことを調べたんだけど、1914年中に応募した志願兵は48万人で、志願しない者は臆病者とみなされたというのを読んで、でもまあ日本ほどではないよなあなんて思っていたんだけど、日本の場合は徴兵だから何も考えずに従った人が多かっただろう。愛国主義の強さから言うとイギリスのほうが凄かったのかも。
そして、第一次世界大戦による人的被害(しかもほとんどは無駄死に)が厖大なものだったからこそ、第二次世界大戦では良心的兵役拒否(代わりに強制労働)が認められるようになったのかな。
この二つの序文と、巻末に附録としてついているランバート文書のいくつかの全訳(親族たちが述べたサキ)のためだけでも、この本は読む価値があった。サキの実姉がこんな鼻つまみ者だったなんてねえ。おばさんたちといい、サキのまわりには怖い女ばかりだったんだ。だから同性愛疑惑も生まれたんだろうね。
もちろんサキの作品そのものも、和爾さんの軽快な訳文でより面白く読めた。表題作なんて声に出して笑ってしまうほどおかしい。例によって「超つまんない」とか「鼻血ドバー」なんて訳語が出てくる。別の話では「お耽美」なんてのもあったな。
訳者あとがきに、
そんなサキの反骨精神と的確な批評眼は二十一世紀の現代においてもみじんも色あせず、一世紀以上前の古典の域を超えて、現代の諸世相にも照らしていただける作品が多い。白水社版の訳語をあえて現代寄りに選択したのは、その側面を際立たせる方便である。と書いてあるのは、頭の固い連中から「翻訳が軽薄」とかって批判があったのかな。私もふだんは「お耽美」なんて言葉が古典的な作品に使われていたら顔をしかめるけれど、サキを和爾さんが訳している限りはノープロブレム。サキ自身が読んでもきっと満足すると思う使われ方だと思うから。かといって、これを他の作家、たとえばチェスタトンなんかでやってほしいとは思わない。適材適所だよね。
平和の玩具
ルイーズ
お茶
クリスピーナ・アムバーリーの失踪
セルノグラツの狼
ルイス
泊まり客
贖罪
まぼろしの接待
バターつきパンを探せ
バーティの聖夜
刷り込まれて
邪魔者たち
鶉のえさ
謝罪詣で
脅し
ミセス・ペンサービーは例外
マーク
はりねずみ
マッピン展示
運命
牡牛
モールヴェラ
奇襲戦術
七つのクリーマー
救急庭園
腑抜け
見落とし
ヒヤシンス
浮かばれぬ魂の肖像
バルカン諸王権
過去の戸棚
戦局のゆくすえ
ところで、中西秀男訳の『ザ・ベスト・オブ・サキ』の感想で「ヒヤシンス」に関する疑問を書いた。
505p 4-5行目で、和爾さんがどう訳しているかというと、
結局、投票の再調査をすることになった。しかし植民大臣ジャタリ当選の事実は動かなかった。全体としてこの選挙はあとまでいやな気持が尾を引いた。ヒヤシンス自身が経験した分は別としての話である。
A recount was demanded, but failed to establish the fact that the Colonial Secretary had obtained a majority. Altogether the election left a legacy of soreness behind it, apart from any that was experienced by Hyacinth in person.
※投票の再集計が要求されたけれど、植民大臣が本来は多数票を得ていた(had obtained a majority)という事実を証明することはできなかった(failed to establish the fact)。過去形と過去分詞の関係を見れば、ヒヤシンスの父親が当選したままになったということでは? 「当選の事実は動かなかった」というのは調査の前も植民地相が勝ってたことを意味するけど、実際にはヒヤシンスの父親が勝ったから銃砲2発で子供たちが解放されたのよね。また、sorenessの本来の意味は「苦痛、ヒリヒリするような痛み」で、ヒヤシンスがこのあと父親から叩かれて痛い目にあったことを暗示しているので、「いやな気持」で片付けてしまうのは少し物足りない。
p.258 3-4行目なのよね。う~む、私の解釈が間違っているのかなあ。
票審査の仕切り直しが決まったものの、植民地相当選の事実は動かなかった。ヒヤシンス個人が後から味わった不快は別にしても、この選挙は総じて後味悪く尾を引いた。
【誤植メモ】 p.247 10行目 同室の他の手前⇒同室の他の人(or 他人)の手前?
平和の玩具 (白水Uブックス)
原題:The Toys of Peace, and Other Papers
作者:サキ
訳者:和爾桃子
出版社:白水社
ISBN:4560072140
by timeturner
| 2017-08-12 19:00
| 和書
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