2017年 06月 12日
日本幻想文学集成 9 中島敦 |
『山月記/李陵』に収録されていなかった「狐憑」「木乃伊」「盈虚」「幸福」「遍歴」だけ読みました。「狐憑」はホラー、「木乃伊」はタイムファンタジー風「盈虚」は中国春秋時代の因縁物、「幸福」は主人と奴隷の身体が入れ替わる話。
「遍歴」は短歌55編を並べたもので、最後の一行以外はすべて「ある時は……」とこれまでに吸収してきた知識の源(ヘーゲル、ゴッホ、フロイド、モーツァルト、ボードレエル、其角、西行など)を詠みこんでいます。これを見ると、幼少の頃から自らの存在について追究してきた中島が、その謎をとく助けにと貪り読んだ古今東西の文化が、彼を助けるよりも惑わせる役にしかたたなかったのではないかという気がしてきます。50冊読めば50通りの、100冊読めば100通りの迷いが生まれたのではないか。なんとも因果な性格ですねえ。
狐憑
木乃伊
山月記
文字禍
名人伝
悟浄出世
悟浄歎異
盈虚
牛人
弟子
李陵
幸福
遍歴
この本の編者は矢川澄子さんですが解説も書いてらして、これがまあ実に素晴らしい。ですます調のやさしい文体で、文章もシンプルなのですが、びっくりするほど過不足がない。作家の経歴も、調べたことをだらだらと書き並べたWikipedia風のものではなく、必要なことだけを適正な場所に挿入しているので、読者としてはなんの負担もなく作者の経歴と作品とを結びつけ、理解できるようになります。こういう解説って、よほど頭がよく、かつ対象を深く理解していないと書けないと思う。
中島敦 (日本幻想文学集成)
編者:矢川澄子
出版社:国書刊行会
ISBN:433603219X
「遍歴」は短歌55編を並べたもので、最後の一行以外はすべて「ある時は……」とこれまでに吸収してきた知識の源(ヘーゲル、ゴッホ、フロイド、モーツァルト、ボードレエル、其角、西行など)を詠みこんでいます。これを見ると、幼少の頃から自らの存在について追究してきた中島が、その謎をとく助けにと貪り読んだ古今東西の文化が、彼を助けるよりも惑わせる役にしかたたなかったのではないかという気がしてきます。50冊読めば50通りの、100冊読めば100通りの迷いが生まれたのではないか。なんとも因果な性格ですねえ。
狐憑
木乃伊
山月記
文字禍
名人伝
悟浄出世
悟浄歎異
盈虚
牛人
弟子
李陵
幸福
遍歴
この本の編者は矢川澄子さんですが解説も書いてらして、これがまあ実に素晴らしい。ですます調のやさしい文体で、文章もシンプルなのですが、びっくりするほど過不足がない。作家の経歴も、調べたことをだらだらと書き並べたWikipedia風のものではなく、必要なことだけを適正な場所に挿入しているので、読者としてはなんの負担もなく作者の経歴と作品とを結びつけ、理解できるようになります。こういう解説って、よほど頭がよく、かつ対象を深く理解していないと書けないと思う。
中島敦 (日本幻想文学集成)
編者:矢川澄子
出版社:国書刊行会
ISBN:433603219X
by timeturner
| 2017-06-12 19:00
| 和書
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