2017年 03月 17日
図説 英国社交界ガイド |
訪問、カード、茶会、正餐、舞踏会……19世紀の英国で、財産を得て社会的に台頭してきた中流階級の女性たちは、さらに上を目指して何に気をつけ、何をしていたのか。当時、数多く出版されていた「エチケット・ブック」の記述を手がかりに、ヴィクトリア時代の社交生活をのぞきみる。
これまであちこちで目にしてきた内容がほとんどですが、それが系統だって整理され、たくさんの図版で目に見える形になっているところがありがたい。「マナー」ではなく「エチケット」はともすると表面的なところだけを取り繕うためのものなので、その表面的なところを目で見て知ることが大切ですからね。
序章 ヴィクトリア時代のエチケット・ブック
第1章 訪問とカードの使い方
第2章 ドレスコードが人を作る
第3章 家庭招待会と正餐会
第4章 舞踏会と男女の駆け引き
第5章 喪服のエチケット
わかってはいたことですが、当時の中流階級の女性たちがどれほど苦労したか、これを読んでいるとしみじみ同情します。とはいえ、中流以下の女性たちはこうした心労に加えて苛酷な肉体労働や屈辱的な扱いも受けていたわけですし、上流に生まれたからといっても女性の場合は結婚相手(あるいは結婚相手の不足)によってはこれまた屈辱的な扱いを受ける可能性もあったわけで、いやもう、ヴィクトリア朝の女性に生まれるのだけは御免だなという気になります。
そうした気分を著者の村上リコさんも共有していることは、文章の端々からうかがえ、村上さんが書いた英国物にハズレがないのは、そういう立ち位置で書かれているからなんだと改めて感じました。同じような内容ではあっても『ヴィクトリア朝の暮らし』の対極にあると言えます。同じ《ふくろうの本》シリーズで両方を出しているというのも不思議ですが、読む人の志向に合わせて選べばいいというところでしょうか。ヴィクトリア朝の貴婦人のように優雅な暮らしがしたいと夢見ている人にはあちらがお勧め。
欲を言えば、漢字の読み仮名(産業革命や中流階級にまで振ってある!)は減らし、カタカナ表記でいいから原語ルビを振ってほしかった。特に「 」書きされているような特殊な言葉は読んでいて元の英語は何なんだろう、と気になりました。リファレンスブックと銘打ってるからにはね。これまでの村上さんの本ではそういうところオタクな読者の好奇心にぴったり寄り添ってる感じがあったんですが、これは編集部の意向に合わせて一般人向きにしてあるのかな。
ところで、女性が他家の夫人を訪問した際には訪問カードなるものを置いてくるのですが、そのカードには夫と自分の名前のほかに「在宅(at home)」の曜日を書くことになっていました。その日の3時から5時くらいまでの間は約束のない訪問客も受けるということです。これを「朝の訪問(morning call)」と呼んでいました。とはいえ、会いたくない相手が来た場合は使用人に「not at home」と言わせて断ることもあります。
なんかこれって夏目漱石の木曜会みたいだなあと思ってしまいました。漱石はヴィクトリア朝後期のイギリスに留学して、現地の家庭を訪問したりもしているから、当然このシステムは知っていたはずですよね。まあ、フランスのサロンのほうが知的という点では近いのかもしれないけど。
図説 英国社交界ガイド:エチケット・ブックに見る19世紀英国レディの生活 (ふくろうの本)
作者:村上リコ
出版社:河出書房新社
ISBN:4309762492
これまであちこちで目にしてきた内容がほとんどですが、それが系統だって整理され、たくさんの図版で目に見える形になっているところがありがたい。「マナー」ではなく「エチケット」はともすると表面的なところだけを取り繕うためのものなので、その表面的なところを目で見て知ることが大切ですからね。
序章 ヴィクトリア時代のエチケット・ブック
第1章 訪問とカードの使い方
第2章 ドレスコードが人を作る
第3章 家庭招待会と正餐会
第4章 舞踏会と男女の駆け引き
第5章 喪服のエチケット
わかってはいたことですが、当時の中流階級の女性たちがどれほど苦労したか、これを読んでいるとしみじみ同情します。とはいえ、中流以下の女性たちはこうした心労に加えて苛酷な肉体労働や屈辱的な扱いも受けていたわけですし、上流に生まれたからといっても女性の場合は結婚相手(あるいは結婚相手の不足)によってはこれまた屈辱的な扱いを受ける可能性もあったわけで、いやもう、ヴィクトリア朝の女性に生まれるのだけは御免だなという気になります。
そうした気分を著者の村上リコさんも共有していることは、文章の端々からうかがえ、村上さんが書いた英国物にハズレがないのは、そういう立ち位置で書かれているからなんだと改めて感じました。同じような内容ではあっても『ヴィクトリア朝の暮らし』の対極にあると言えます。同じ《ふくろうの本》シリーズで両方を出しているというのも不思議ですが、読む人の志向に合わせて選べばいいというところでしょうか。ヴィクトリア朝の貴婦人のように優雅な暮らしがしたいと夢見ている人にはあちらがお勧め。
欲を言えば、漢字の読み仮名(産業革命や中流階級にまで振ってある!)は減らし、カタカナ表記でいいから原語ルビを振ってほしかった。特に「 」書きされているような特殊な言葉は読んでいて元の英語は何なんだろう、と気になりました。リファレンスブックと銘打ってるからにはね。これまでの村上さんの本ではそういうところオタクな読者の好奇心にぴったり寄り添ってる感じがあったんですが、これは編集部の意向に合わせて一般人向きにしてあるのかな。
ところで、女性が他家の夫人を訪問した際には訪問カードなるものを置いてくるのですが、そのカードには夫と自分の名前のほかに「在宅(at home)」の曜日を書くことになっていました。その日の3時から5時くらいまでの間は約束のない訪問客も受けるということです。これを「朝の訪問(morning call)」と呼んでいました。とはいえ、会いたくない相手が来た場合は使用人に「not at home」と言わせて断ることもあります。
なんかこれって夏目漱石の木曜会みたいだなあと思ってしまいました。漱石はヴィクトリア朝後期のイギリスに留学して、現地の家庭を訪問したりもしているから、当然このシステムは知っていたはずですよね。まあ、フランスのサロンのほうが知的という点では近いのかもしれないけど。
図説 英国社交界ガイド:エチケット・ブックに見る19世紀英国レディの生活 (ふくろうの本)
作者:村上リコ
出版社:河出書房新社
ISBN:4309762492
by timeturner
| 2017-03-17 19:00
| 和書
|
Comments(0)