2016年 10月 03日
ヒットラーのむすめ |
オーストラリアのワラビー・クリークで暮らすマークは、毎日スクールバスで小学校に通っていた。バスの待合所を使うのはマークのほかに同じ学年のベンとアンナ、それにおちびさんのトレーシーの四人だけだった。雨がずっと降り続いていたある日、バスを待つ間、アンナがトレーシーのためにお話ごっこを始めた。いつもは妖精や動物の話なのに、この日はなぜかヒットラーの娘ハイジを主人公にすると言う。マークはなにか違和感を感じながらも話にどんどん引きこまれていく・・・。
なるほどなあ。児童文学はこんなふうにも書けるんですね。ヒットラーの娘という架空の主人公を使って、歴史ファンタジー的な物語になるのかと思っていたら、これまで読んだことがない、不思議なつくりの小説でした。
アンナが語るハイジの話は、確かに作り話ではあるんですが、タイトルから想像するようなドラマチックな話ではなかった。「家族の目から見たヒットラーの素顔」なんて女性週刊誌的なネタでもない。戦争の悲惨さやユダヤ人迫害の残忍さで脅かそうというのでもない。むしろ全体のトーンは抑えがちで、時折はさまれる情景描写の美しさが不思議な静けをかもしだしています。
第二次世界大戦の原因やヒットラーの台頭を歓迎した当時の国情、ユダヤ人だけでなく「劣等人種」であるとされた人々の虐殺に関する数字などはすべておさえてあり、何も知らなかった子供でもそれなりの知識を得られるように書かれていますが、作者の狙いは歴史的事実を教えることではなく、人間の生き方にかかわる本質的な問題を子供に自発的に考えさせようということなんじゃないかな。
アンナの話を聞いて、マークは色々なことを考えるようになります。親が悪い人だったら、子供はどうすればいいんだろう? 子供がひどいことをしても親はその子供を愛せるのだろうか? ある人種や国や民族がほかよりすぐれているなんてことがあるのだろうか? 悪いことをした親の子供もやはり悪いことをするようになるのだろうか? ヒットラーはあれだけ大量虐殺をして、それでも自分は正しいことをしていると思っていたんだろうか? 自分の近くでヒットラーみたいな人が出てきて、みんながその口車にのせられてしまったら、どうしたらいいんだろう?
大人に訊いても満足のいく答えが得られず、マークはそれでも考え続けます。おそらく読者の子供たちも、それぞれの立場で考えるでしょう。一度でもそういうふうに考えることを始めたら、それからは自分の周囲で起こっていることにもっと目が向くようになるし、考えるようになると思う。
だけど、マークの質問に対して周囲の大人たちが無関心どころか迷惑そうにするのには腹が立ったなあ。まあ、私だって、生活に追われて忙しくしているときに、こんな子がいて質問攻めにされたら同じような態度をとるかもしれないけどね。子育て中の皆さん、大変でしょうがきちんと向き合ってあげてくださいね。
たまたまこれを読んでいたとき、東京でも毎日毎日雨が降ってうんざりしていたので、本の中のマークの気持ちがすごくよくわかりました。オーストラリアでもこんなふうに梅雨みたいに降りつづけることがあるんですね。1947年には6週間降り続いたって書いてありました。ひえーっ!
ヒットラーのむすめ (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)
原題:Hitler's Daughter
作者:ジャッキー・フレンチ
訳者:さくまゆみこ
出版社:鈴木出版
ISBN:4790231496
なるほどなあ。児童文学はこんなふうにも書けるんですね。ヒットラーの娘という架空の主人公を使って、歴史ファンタジー的な物語になるのかと思っていたら、これまで読んだことがない、不思議なつくりの小説でした。
アンナが語るハイジの話は、確かに作り話ではあるんですが、タイトルから想像するようなドラマチックな話ではなかった。「家族の目から見たヒットラーの素顔」なんて女性週刊誌的なネタでもない。戦争の悲惨さやユダヤ人迫害の残忍さで脅かそうというのでもない。むしろ全体のトーンは抑えがちで、時折はさまれる情景描写の美しさが不思議な静けをかもしだしています。
第二次世界大戦の原因やヒットラーの台頭を歓迎した当時の国情、ユダヤ人だけでなく「劣等人種」であるとされた人々の虐殺に関する数字などはすべておさえてあり、何も知らなかった子供でもそれなりの知識を得られるように書かれていますが、作者の狙いは歴史的事実を教えることではなく、人間の生き方にかかわる本質的な問題を子供に自発的に考えさせようということなんじゃないかな。
アンナの話を聞いて、マークは色々なことを考えるようになります。親が悪い人だったら、子供はどうすればいいんだろう? 子供がひどいことをしても親はその子供を愛せるのだろうか? ある人種や国や民族がほかよりすぐれているなんてことがあるのだろうか? 悪いことをした親の子供もやはり悪いことをするようになるのだろうか? ヒットラーはあれだけ大量虐殺をして、それでも自分は正しいことをしていると思っていたんだろうか? 自分の近くでヒットラーみたいな人が出てきて、みんながその口車にのせられてしまったら、どうしたらいいんだろう?
大人に訊いても満足のいく答えが得られず、マークはそれでも考え続けます。おそらく読者の子供たちも、それぞれの立場で考えるでしょう。一度でもそういうふうに考えることを始めたら、それからは自分の周囲で起こっていることにもっと目が向くようになるし、考えるようになると思う。
だけど、マークの質問に対して周囲の大人たちが無関心どころか迷惑そうにするのには腹が立ったなあ。まあ、私だって、生活に追われて忙しくしているときに、こんな子がいて質問攻めにされたら同じような態度をとるかもしれないけどね。子育て中の皆さん、大変でしょうがきちんと向き合ってあげてくださいね。
たまたまこれを読んでいたとき、東京でも毎日毎日雨が降ってうんざりしていたので、本の中のマークの気持ちがすごくよくわかりました。オーストラリアでもこんなふうに梅雨みたいに降りつづけることがあるんですね。1947年には6週間降り続いたって書いてありました。ひえーっ!
ヒットラーのむすめ (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)
原題:Hitler's Daughter
作者:ジャッキー・フレンチ
訳者:さくまゆみこ
出版社:鈴木出版
ISBN:4790231496
by timeturner
| 2016-10-03 19:02
| 和書
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