2016年 09月 07日
A Message to the Sea |

いかにもシアラーらしい、内へ内へと心の奥をのぞきこむような話です。トムは父を失ったことで「少年」の一部を失いました。母親を心配させないために海に出て外の世界を見たいという気持ちをおさえつけようとし、保護者面をしたがる姉にもできるだけさからわないように我慢しています。学校ではふつうにしているけれど、友達と遊ぶよりひとりで想像にふけっているほうが多い。
母親も姉もトムも、一見したところでは悲劇を乗り越え、なんとか前を向いて進んでいるように見えますが、それぞれの心の奥には埋められない空洞ができてしまい、でも、それを家族の他のメンバーには見せないように隠しているという、なんとも切ないシチェーション。
こんな状態で暮らしていたら、夢見がちになってしまうのも当然かなと思います。トムが受け取ることになるびんに入った返信の送り主が本当に書かれているとおりの存在なのか、トムの想像力が創りあげたものなのか、誰か仕掛け人がいたのか、結局最後まではっきりさせていません。でも、私はあのとおりの奇跡(?)が起こったんだと信じたい。だって、テッド・ボーンズって不気味やさしくて、すごくいい感じのキャラクターなんだもの。
話の展開は途中でわかってしまうのですが、まあ、それはこの物語の主旨とはあまり関係ないからいいのかなという気がする。むしろ、読者に「そうなのかな、そうなってほしいな」とドキドキ待たせることを作者は期待しているのかも。
ところで、トムが週末に伯父のフェリーを手伝いにいくRose Havenには大きな貨物船が繋留されていて、次の航海までのあいだメンテナンスが行われているのですが、これがつい最近読んだ絵本『船を見にいく』に描かれていた場面そのもので、船の大きさと人の小ささの対比がまざまざと頭の中に浮かびました。絵本なんて幼い子供向けのちょっとした娯楽と考えがちですが、こんなふうに貴重な疑似体験の場でもあるのですね。
A Message to the Sea
邦題:なし
作者:Alex Shearer
出版社:Piccadilly Press
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2016-09-07 19:36
| 洋書
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