2016年 09月 04日
ボグ・チャイルド |
1981年の北アイルランド。国境近くの村で暮らす高校生・ファーガスは、紛争が続く故国を離れ、イギリスの大学で医者になることをめざして試験勉強に励んでいた。ある日、叔父の手伝いで泥炭の盗掘にでかけた湿地で、泥炭に埋もれた少女の遺体を発見する。泥炭の中で自然に屍蠟化した遺体には絞殺の跡があった・・・。『十三番目の子』『怪物はささやく』の作家による2009年カーネギー賞受賞作。
うわあ。考えなくてはならないこと、感じるべきことが多すぎて、頭も心もぎゅうぎゅうになってしまった。でも、小説自体に詰め込み感はなくて、歯切れよくテンポよく、それでいて瑞々しいんだけどね。さすがシヴォーン・ダウド。
あらすじを読んで、殺人事件の謎を追う話だとばかり思っていた私は、泥炭の中から発見された少女が鉄器時代の人間だというのでまず驚愕。全く知らなかったのですが、こういう死体は湿地遺体(Bog Bodies)と呼ばれ、ヨーロッパではけっこう発見されているようです。
今までのところ、紀元前9000年から第2次世界大戦期までのものがみつかっていて、いちばん多いのはこの本にある少女と同じ、鉄器時代のものらしい。アイルランドだけでなく、北欧、ドイツ、オランダ、イギリスなど泥炭地のある土地でも発見されているんですって。
この湿地遺体にからんで、ダブリンからやってきた考古学者フェリシティとその娘コーラがファーガスの生活に入ってきて、そこで当然ながら恋が生まれちゃったりもするわけですが、その一方で、アイルランド独立をめざす運動に加わっていたファーガスの兄・ジョーが収監されていた刑務所内でハンガー・ストライキを始め、母親やファーガスの説得にも関わらず、日に日に弱っていきます。
そのほかにも、国境を警備するイギリス軍兵士との友情や、テロリストの仲間と思われる友人との取引など、かなりハラハラさせる要素も満載で、途中からは一気に読み終えてしまいました。
湿り気を帯びた風や、哀愁を帯びたアイルランド音楽の旋律がページの向こうから流れてくるような気がしますが、センチメンタルでお涙頂戴な話では全くありません。涙もろい私ですが、泣かずに最後まで読めた。というか、泣いてすむような状況ではないんですよね。ほんとにつらく厳しい時代でしたよね。今ではかなり緊張も緩んではいますが、北アイルランドはいまだに存在し、状況はたいして変わっていません。バブルが崩壊した今、なんらかのきっかけでまたあの頃みたいにならないとは言えないと思う。
そんなとき、ファーガスがサッチャー首相に宛てて書いた手紙(結局は出さなかったけど)の中身をみんなが思い出してくれたらいいなと思いました。
ボグ・チャイルド
原題:Bog Child
作者:シヴォーン・ダウド
訳者:千葉茂樹
出版社:ゴブリン書房
ISBN:4902257211
うわあ。考えなくてはならないこと、感じるべきことが多すぎて、頭も心もぎゅうぎゅうになってしまった。でも、小説自体に詰め込み感はなくて、歯切れよくテンポよく、それでいて瑞々しいんだけどね。さすがシヴォーン・ダウド。
あらすじを読んで、殺人事件の謎を追う話だとばかり思っていた私は、泥炭の中から発見された少女が鉄器時代の人間だというのでまず驚愕。全く知らなかったのですが、こういう死体は湿地遺体(Bog Bodies)と呼ばれ、ヨーロッパではけっこう発見されているようです。
今までのところ、紀元前9000年から第2次世界大戦期までのものがみつかっていて、いちばん多いのはこの本にある少女と同じ、鉄器時代のものらしい。アイルランドだけでなく、北欧、ドイツ、オランダ、イギリスなど泥炭地のある土地でも発見されているんですって。
この湿地遺体にからんで、ダブリンからやってきた考古学者フェリシティとその娘コーラがファーガスの生活に入ってきて、そこで当然ながら恋が生まれちゃったりもするわけですが、その一方で、アイルランド独立をめざす運動に加わっていたファーガスの兄・ジョーが収監されていた刑務所内でハンガー・ストライキを始め、母親やファーガスの説得にも関わらず、日に日に弱っていきます。
そのほかにも、国境を警備するイギリス軍兵士との友情や、テロリストの仲間と思われる友人との取引など、かなりハラハラさせる要素も満載で、途中からは一気に読み終えてしまいました。
湿り気を帯びた風や、哀愁を帯びたアイルランド音楽の旋律がページの向こうから流れてくるような気がしますが、センチメンタルでお涙頂戴な話では全くありません。涙もろい私ですが、泣かずに最後まで読めた。というか、泣いてすむような状況ではないんですよね。ほんとにつらく厳しい時代でしたよね。今ではかなり緊張も緩んではいますが、北アイルランドはいまだに存在し、状況はたいして変わっていません。バブルが崩壊した今、なんらかのきっかけでまたあの頃みたいにならないとは言えないと思う。
そんなとき、ファーガスがサッチャー首相に宛てて書いた手紙(結局は出さなかったけど)の中身をみんなが思い出してくれたらいいなと思いました。
このストライキに勝者はいません。ただ、敗者だけ。兄は命を失います。ぼくは兄を失います。街では毎日、もっとたくさんの人が命を失っています。あなたは票を失い、支持者を失い、もしかしたら、歴史からも名前が消えるかもしれません。そして、希望も。
(中略)
命がひとつ失われるたびに、平和はどんどん遠ざかってしまいます。葬儀が一度ふえるたびに、憎しみは深まります。どうぞ、ぼくたちをこの暴力から、絶望から救ってください。
ボグ・チャイルド
原題:Bog Child
作者:シヴォーン・ダウド
訳者:千葉茂樹
出版社:ゴブリン書房
ISBN:4902257211
by timeturner
| 2016-09-04 19:27
| 和書
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