2016年 08月 24日
トマシーナ |
スコットランドの田舎町で獣医として暮らすマクデューイ氏は、幼い頃からの夢であった人間の医者になることを親にあきらめさせられたこと、妻に先立たれたことなどから、すっかりかたくなになり、ひとり娘のメアリ・ルー以外には愛情を抱けない冷酷な人間になっていた。患者として訪れる動物たちに対してもやさしい感情をもてず、機械的に手当をするだけ。それだけならよかったのだが、ある日、具合の悪くなった娘の飼い猫トマシーナをろくに診もせずに安楽死させたことから何もかもが崩壊していく・・・。
あのジェニーを大叔母にもつ猫トマシーナの数奇な運命を描いてはいるのですが、ほとんどのページはマクデューイ氏の視点で語られています。若い頃の挫折と喪失のために魂が凍りついてしまった男が、娘の病気、森で妖精のように暮らすローリとの出会いによって再生していく話ですが、そこはそれ、ギャリコですから、単純な人間ドラマにはなっていません。媒介として猫をはじめ、さまざまな動物が投入されます。
ドラマチックな物語を通して問われているのは、家族と、友人と、他人と、動物と、自然と、神とどう関わるべきなのか。読む人によって答えは違ってくるかもしれないけれど、マクデューイ氏は彼なりになんとか最善と思われる道を間に合うように探りあてることに成功します。
ファンタジーのようでいて、不思議なこと、奇跡のようなことのすべてにはそれなりに科学的な説明がされているのですが、最後にペディ牧師が言うように、「そもそもの最初から、このうえなくすばらしい神さまのご意志」なのかもしれないという点については、作者が本気なのかどうか。神を信じない日本人には判断がつきません。エジプトの猫神を登場させたことから考えても、キリスト教の神には限定せず、「上のほうで見守ってくれている慈悲深いなにか」でいいと思っているのかもしれません。人間がそこのことを忘れず、マクデューイ氏のような傲慢の罪を犯さないようにすれば、この世はもっと幸せなところになると言いたかったのかも。
ジプシーたちを十把一絡げに「血も涙もない悪党ども」扱いしている点や、森の自然の中でひとり暮らすローリの生き方を「まともではなく」「なんとか人間の世界に引き戻すべき」だと決めつけているようなところが、読んでいて気になりましたが、まあ、ギャリコが1897年生まれの作家であることを考えると仕方なかったのかな。
トマシーナ (創元推理文庫)
原題:Thomasina
作者:ポール・ギャリコ
訳者:山田 蘭
出版社:東京創元社
ISBN:4488560016
あのジェニーを大叔母にもつ猫トマシーナの数奇な運命を描いてはいるのですが、ほとんどのページはマクデューイ氏の視点で語られています。若い頃の挫折と喪失のために魂が凍りついてしまった男が、娘の病気、森で妖精のように暮らすローリとの出会いによって再生していく話ですが、そこはそれ、ギャリコですから、単純な人間ドラマにはなっていません。媒介として猫をはじめ、さまざまな動物が投入されます。
ドラマチックな物語を通して問われているのは、家族と、友人と、他人と、動物と、自然と、神とどう関わるべきなのか。読む人によって答えは違ってくるかもしれないけれど、マクデューイ氏は彼なりになんとか最善と思われる道を間に合うように探りあてることに成功します。
ファンタジーのようでいて、不思議なこと、奇跡のようなことのすべてにはそれなりに科学的な説明がされているのですが、最後にペディ牧師が言うように、「そもそもの最初から、このうえなくすばらしい神さまのご意志」なのかもしれないという点については、作者が本気なのかどうか。神を信じない日本人には判断がつきません。エジプトの猫神を登場させたことから考えても、キリスト教の神には限定せず、「上のほうで見守ってくれている慈悲深いなにか」でいいと思っているのかもしれません。人間がそこのことを忘れず、マクデューイ氏のような傲慢の罪を犯さないようにすれば、この世はもっと幸せなところになると言いたかったのかも。
ジプシーたちを十把一絡げに「血も涙もない悪党ども」扱いしている点や、森の自然の中でひとり暮らすローリの生き方を「まともではなく」「なんとか人間の世界に引き戻すべき」だと決めつけているようなところが、読んでいて気になりましたが、まあ、ギャリコが1897年生まれの作家であることを考えると仕方なかったのかな。
トマシーナ (創元推理文庫)
原題:Thomasina
作者:ポール・ギャリコ
訳者:山田 蘭
出版社:東京創元社
ISBN:4488560016
by timeturner
| 2016-08-24 19:34
| 和書
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