2016年 06月 04日
赤い額縁 |
駆け出し翻訳家の繭子はマニアックな叢書の一冊を丸々訳すという仕事を手に入れた。ベテラン翻訳家が手がけていたのだが途中で失踪したのだという。『The Red Frame(赤い額縁)』というその本を訳すうちに、繭子は身辺にかすかな異変を感じるようになる・・・。
呪われた奇書をめぐるホラー・ミステリー(作者あとがきによると、これまではあり得ないものと考えられていた本格ミステリーと本格ホラーの融合をめざしたそう)です。読んだものには禍がふりかかるというこの奇書に関わった者は、失踪したり、死んだり、さらにはもっと恐ろしいことになります。
いやあ、なんか、もう、古今和洋の怪奇小説を読みふけってきたマニアがもてる知識と好みをすべてぶちこんで煮込んでみましたって感じ。
この奇書には作中作が登場するのですが、この本自体も作中作のようなところがあり、カバーの絵と同様、箱を何重にも重ねたような構造になっているうえに、それがどれも想像の産物に過ぎない可能性もあって、読めば読むほどわけがわからなくなり、最後のほうでは「もう、なんでもいいから終わって!」と自棄になってしまいました。
唯一の救いは、作中作とは壁ひとつ隔てたところで活動しているかのような吸血鬼ふたりの存在。なにしろ吸血鬼(とはいっても科学の進歩により血を吸わなくても生きていける)なので世のため人のために何かしようという気は毛頭ありませんが、自分たちの好奇心・探究心の赴くままに謎解きを試み、最後の種明かしもこのふたりの手によって行われます。全体に暗いムードが漂う中で、漫才コンビのようなこのふたりの存在が唯一やすらげました。でも、考えてみると、このふたりがいるせいで真に怖いホラーになり得なかったんじゃないかという気がする。
西洋の奇書を読み解くからどうしてもそうなってしまうのかもしれませんが、謎解き部分のほとんどがアナグラムだったのにはかなり退屈しました。どうも私、アナグラムというものには全く興味をひかれないんですよね。子どもの遊びとしか思えない。母語でアルファベットを使ってきた人だとまた違ってくるのかなあ。
翻訳家が主人公というのに惹かれて読んでみたのですが、結果的にはあまり翻訳は関係なかった。作者の倉阪鬼一郎さんはご自分でも翻訳をされているので、作中に登場する翻訳家が訳した文章は、いかにも翻訳怪奇小説らしい雰囲気があるのですが、それに対応する原文がすべてあるわけではないので(当たり前)、特に翻訳の勉強になるとはいえませんね。
赤い額縁
作者:倉阪鬼一郎
出版社:幻冬舎
ISBN:4877282580
呪われた奇書をめぐるホラー・ミステリー(作者あとがきによると、これまではあり得ないものと考えられていた本格ミステリーと本格ホラーの融合をめざしたそう)です。読んだものには禍がふりかかるというこの奇書に関わった者は、失踪したり、死んだり、さらにはもっと恐ろしいことになります。
いやあ、なんか、もう、古今和洋の怪奇小説を読みふけってきたマニアがもてる知識と好みをすべてぶちこんで煮込んでみましたって感じ。
この奇書には作中作が登場するのですが、この本自体も作中作のようなところがあり、カバーの絵と同様、箱を何重にも重ねたような構造になっているうえに、それがどれも想像の産物に過ぎない可能性もあって、読めば読むほどわけがわからなくなり、最後のほうでは「もう、なんでもいいから終わって!」と自棄になってしまいました。
唯一の救いは、作中作とは壁ひとつ隔てたところで活動しているかのような吸血鬼ふたりの存在。なにしろ吸血鬼(とはいっても科学の進歩により血を吸わなくても生きていける)なので世のため人のために何かしようという気は毛頭ありませんが、自分たちの好奇心・探究心の赴くままに謎解きを試み、最後の種明かしもこのふたりの手によって行われます。全体に暗いムードが漂う中で、漫才コンビのようなこのふたりの存在が唯一やすらげました。でも、考えてみると、このふたりがいるせいで真に怖いホラーになり得なかったんじゃないかという気がする。
西洋の奇書を読み解くからどうしてもそうなってしまうのかもしれませんが、謎解き部分のほとんどがアナグラムだったのにはかなり退屈しました。どうも私、アナグラムというものには全く興味をひかれないんですよね。子どもの遊びとしか思えない。母語でアルファベットを使ってきた人だとまた違ってくるのかなあ。
翻訳家が主人公というのに惹かれて読んでみたのですが、結果的にはあまり翻訳は関係なかった。作者の倉阪鬼一郎さんはご自分でも翻訳をされているので、作中に登場する翻訳家が訳した文章は、いかにも翻訳怪奇小説らしい雰囲気があるのですが、それに対応する原文がすべてあるわけではないので(当たり前)、特に翻訳の勉強になるとはいえませんね。
赤い額縁
作者:倉阪鬼一郎
出版社:幻冬舎
ISBN:4877282580
by timeturner
| 2016-06-04 19:27
| 和書
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