2016年 05月 25日
とにかくうちに帰ります |
豪雨のために帰宅困難になった会社員やOLの姿を描く表題作のほか、ある会社の人間模様を同僚ひとりひとりの視点から描く連作短編4作、それに連作の主人公がハマるアルゼンチン人のフィギュアスケーターに関する短編の計6編を収録。
相変わらず巧いなあ。職場でのさりげないひとこま、普通だったら見過ごしてしまうようなこと、忘れてしまうようなことをすくいあげて、胸のすくような太刀さばきで斬ってくれるこの人のお仕事小説は、会社勤めをした人だったらもうたまらないんじゃないでしょうか。
それを考えると、津村さんが専業作家になる前に10年以上会社員として働いたことがあるという経験は大きいですよね。彼女ほどの才能がある人なら仕事の話でなくても書けるけれど、仕事の話をこんなふうに書ける作家は彼女しかいないと思うから。読者としてはああよかった、と思うわけです。
表題作は主要登場人物四人のうち三人が会社員で、二人は同僚なので、体裁としてはお仕事小説にも見えますが、実際には豪雨で交通網がずたずたになり、帰宅困難になった人々の話です。いささか大袈裟とも思えるくらいその場の状況の困難さが強調されてはいますが、東日本大震災のときに職場から家まで帰ったときのことを考えると、当事者にとってはこうなんだよなあと思います。ましてや傘も役に立たないような雨の中をこんなふうにあてもなく歩くことになったら悲愴感はどんどん強まりますよね。
そうはいっても、逆境にある者同士の熱い連帯とか、弱者を守ろうとする英雄的行為とかで感動させたり泣かせたりしようとしないところもポイントが高いです。津村さんがそんなことをするはずはないと最初からわかっているので安心して読めました。ひょっとして恋愛話は少しくらい出てくるかもと覚悟していましたが、そのあたりも場所をわきまえていました。
とにかくうちに帰ります (新潮文庫)
作者:津村記久子
出版社:新潮社
ISBN:4101201412
相変わらず巧いなあ。職場でのさりげないひとこま、普通だったら見過ごしてしまうようなこと、忘れてしまうようなことをすくいあげて、胸のすくような太刀さばきで斬ってくれるこの人のお仕事小説は、会社勤めをした人だったらもうたまらないんじゃないでしょうか。
それを考えると、津村さんが専業作家になる前に10年以上会社員として働いたことがあるという経験は大きいですよね。彼女ほどの才能がある人なら仕事の話でなくても書けるけれど、仕事の話をこんなふうに書ける作家は彼女しかいないと思うから。読者としてはああよかった、と思うわけです。
表題作は主要登場人物四人のうち三人が会社員で、二人は同僚なので、体裁としてはお仕事小説にも見えますが、実際には豪雨で交通網がずたずたになり、帰宅困難になった人々の話です。いささか大袈裟とも思えるくらいその場の状況の困難さが強調されてはいますが、東日本大震災のときに職場から家まで帰ったときのことを考えると、当事者にとってはこうなんだよなあと思います。ましてや傘も役に立たないような雨の中をこんなふうにあてもなく歩くことになったら悲愴感はどんどん強まりますよね。
そうはいっても、逆境にある者同士の熱い連帯とか、弱者を守ろうとする英雄的行為とかで感動させたり泣かせたりしようとしないところもポイントが高いです。津村さんがそんなことをするはずはないと最初からわかっているので安心して読めました。ひょっとして恋愛話は少しくらい出てくるかもと覚悟していましたが、そのあたりも場所をわきまえていました。
とにかくうちに帰ります (新潮文庫)
作者:津村記久子
出版社:新潮社
ISBN:4101201412
by timeturner
| 2016-05-25 17:58
| 和書
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