2016年 05月 01日
An Island of Our Own |
12歳のホリーは2年前に警察官だった母を亡くした。8歳年上の異父兄ジョナサンが働いて生活を支え、ホリーと8歳の弟デイヴィの面倒をみているが、ジョナサンの収入と福祉からもらえる金では生きていくのが精いっぱい。不測の事態が起こればすぐに行き詰ってしまう綱渡りのような暮らしだ。そんなある日、変わり者で金持ちの大叔母イレーヌを病院に見舞うと、こっそり写真アルバムを渡された。その後すぐに大叔母はなくなり、遺言で三人には宝石類が遺されたが、被害妄想気味だった叔母は宝石類を含めた全財産を誰も知らないところに隠してしまっていた・・・。
『永遠に生きるために』の作者、サリー・ニコルズの五作目です。デビュー作を書いたときに大学院生だったニコルズですが、いまだに若々しい精神は失っていないようで、ここでも主な登場人物である子供たち、若者たちの気持ちを見事にとらえています。会話の中にホビットやスター・ウォーズ、ハンガー・ゲームなど今どきの話題が頻繁に出てくるあたりもリアルな感じ。後半部分は素晴らしいオークニー諸島を背景にワクワクするような宝さがしが展開され、昔ながらの冒険小説をおおいに満喫できました。
デビュー作での子供の敵は難病でしたが、今回は貧困。まだろくに家事もできない子供たちが、必要最低限のお金しかない中で苦労して暮らしていくようすは悲惨であるとともに滑稽で、大変だなあと同情しながらも笑って読むことができます。実際、親と暮していて「勉強しなさい」「**しちゃだめ」ばかり言われている子供たちは、ホリーたちの暮らしぶりを羨ましく思いながら読むに違いありません。
どんな困難の中にあっても、面白がることはやめないという子供の特質についても改めて考えさせられました。大人は「現状認識ができない」と言うかもしれないけれど、生きていくうえではそういう部分も必要なんだと思う。
主人公のホリーは自分をかわいそうに思うこともあるけれど、そんな自分を笑う批判精神ももった実にしっかりした女の子。冒険心もチャレンジ精神もたっぷりもっていて、実にたのもしい存在です。弟のデイヴィだけでなく、8歳年上の兄のことまでかばい、面倒をみてあげなくてはと思うあたりは母性本能の一種なんでしょうか。
最近の児童小説を読んでいると、男女問わずホリーみたいな子供が多くなっているような気がします。虐待や育児放棄など、大人になりきれない親たちが増殖している現代では、子供のほうが「自分がしっかりしなくては」と思わなくてはならないのかも。哀しいなあ。
この本ではそんな大人はほとんど出てきません。憎たらしいイヴァン伯父さんだけは別ですが、たいていの大人はそれぞれのスタンスで子供たちを支えようとします。情報や技術を提供してくれるMaker Spaceの存在はとてもユニークなのですが、作者あとがきによると同様の組織が実際にあるそうです。
ただ、ひとつだけ納得いかないことがある。Facebookにヒントとなる写真を掲載して宝探しへの協力を募るのってどうなんだろう? 先回りして横取りしようとする強欲な暇人はイヴァン伯父さん以外にもこの世の中にはいっぱいいるはずなのに、そこをまるっと無視しているところがあまりにも非現実的で気になりました。
安易に物やお金を与えないのはイギリス風ですね。ふつうは子供だけでかつかつに暮らしていたら、お金に余裕のある親族がなんとか援助しようとするじゃないですか。子供たちのほうで「施し」を拒否する姿勢でいるというのが原因でもあるのですが。こうしたSelf-Help(自助努力)の精神って、変わっていないんだなあと思いました。
An Island of Our Own (0)
邦題:なし
作者:Sally Nicholls
出版社:Scholastic Fiction
ISBN:Kindle版
『永遠に生きるために』の作者、サリー・ニコルズの五作目です。デビュー作を書いたときに大学院生だったニコルズですが、いまだに若々しい精神は失っていないようで、ここでも主な登場人物である子供たち、若者たちの気持ちを見事にとらえています。会話の中にホビットやスター・ウォーズ、ハンガー・ゲームなど今どきの話題が頻繁に出てくるあたりもリアルな感じ。後半部分は素晴らしいオークニー諸島を背景にワクワクするような宝さがしが展開され、昔ながらの冒険小説をおおいに満喫できました。
デビュー作での子供の敵は難病でしたが、今回は貧困。まだろくに家事もできない子供たちが、必要最低限のお金しかない中で苦労して暮らしていくようすは悲惨であるとともに滑稽で、大変だなあと同情しながらも笑って読むことができます。実際、親と暮していて「勉強しなさい」「**しちゃだめ」ばかり言われている子供たちは、ホリーたちの暮らしぶりを羨ましく思いながら読むに違いありません。
どんな困難の中にあっても、面白がることはやめないという子供の特質についても改めて考えさせられました。大人は「現状認識ができない」と言うかもしれないけれど、生きていくうえではそういう部分も必要なんだと思う。
主人公のホリーは自分をかわいそうに思うこともあるけれど、そんな自分を笑う批判精神ももった実にしっかりした女の子。冒険心もチャレンジ精神もたっぷりもっていて、実にたのもしい存在です。弟のデイヴィだけでなく、8歳年上の兄のことまでかばい、面倒をみてあげなくてはと思うあたりは母性本能の一種なんでしょうか。
最近の児童小説を読んでいると、男女問わずホリーみたいな子供が多くなっているような気がします。虐待や育児放棄など、大人になりきれない親たちが増殖している現代では、子供のほうが「自分がしっかりしなくては」と思わなくてはならないのかも。哀しいなあ。
この本ではそんな大人はほとんど出てきません。憎たらしいイヴァン伯父さんだけは別ですが、たいていの大人はそれぞれのスタンスで子供たちを支えようとします。情報や技術を提供してくれるMaker Spaceの存在はとてもユニークなのですが、作者あとがきによると同様の組織が実際にあるそうです。
ただ、ひとつだけ納得いかないことがある。Facebookにヒントとなる写真を掲載して宝探しへの協力を募るのってどうなんだろう? 先回りして横取りしようとする強欲な暇人はイヴァン伯父さん以外にもこの世の中にはいっぱいいるはずなのに、そこをまるっと無視しているところがあまりにも非現実的で気になりました。
安易に物やお金を与えないのはイギリス風ですね。ふつうは子供だけでかつかつに暮らしていたら、お金に余裕のある親族がなんとか援助しようとするじゃないですか。子供たちのほうで「施し」を拒否する姿勢でいるというのが原因でもあるのですが。こうしたSelf-Help(自助努力)の精神って、変わっていないんだなあと思いました。
An Island of Our Own (0)
邦題:なし
作者:Sally Nicholls
出版社:Scholastic Fiction
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2016-05-01 19:00
| 洋書
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