2016年 04月 26日
The Doomsday Chronicles |
Doomsday――最後の審判の日、この世の終わり。15人の作家がそれぞれにドゥームズデイについて書いた短編アンソロジー。
終末物ばかりでは飽きてしまったり、どよーんとした気分になったりするのではと危惧していましたが、15編それぞれに趣向を凝らしてあって似たようなものはなかったので楽しく読めました。各編それぞれに作者あとがきが付いているのもいいです。ふつうは短編に作者の解説なんて付きませんから。
2、3作はどうしても好みに合わなくて途中で読むのをやめてしまったり、全体を飛ばし読みしてしまったものもありますが、この手のアンソロジーは無理して全部を読もうとしないほうが気楽に手にとれるのかもしれない。好きな作家の短編集とは違って、どうしても苦手な作家も混じってきますからね。
A Mother So Beautiful / Ann Christy
The Voices That We Keep / Aaron Hubble
Dragonflies / Seanan McGuire
Lockdown / Saul Tanpepper
At Depth's Door / James Knapp
The Slip / E.R. Arroyo
GOAT / Matthew Alan Thyer
Remembering Hannah / K. J. Colt
Red Rain / Monica Enderle Pierce
The Peralta Protocol / Daniel Arthur Smith
The Journal / Terry R. Hill
Power Outage / Holly Heisey
The Last Siege of Olympus / Therin Knite
Mia + Vegan Cannibals / S. Elliot Brandis
Staying Behind / Ken Liu
レイプによって生まれた子供が離れて暮らす母親のストーカーになり、そのせいで精神を病んだ母親がこの世から男性を絶滅させるという壮絶な「A Mother So Beautiful」は、さすが巻頭にあるだけあって、先へ先へと読ませる力があります。最後もぞっとするような余韻がある。
環境破壊が繰り返された結果、酸素が濃くなりすぎて人間には棲みにくく、虫には最適な環境になった地球で、生き残った人類の苦闘を描く「Dragonflies」も怖いけど面白く、虫嫌いの私は鳥肌たてながら読みました。巨大な蚊なんて吸血鬼みたいなもので、しかもしれが無数にいるなんてぞっとしますよね。ゴキブリが出てこないのだけは救いです。
非常事態宣言が出て小学校の教室に閉じこもることになる「Lockdown」も、緊急避難命令が出て逃げまどう「The Slip」も、危険がどこにあるのかわからないところがサスペンスを盛り上げています。わかってしまうと逆に「な~んだ」と思えてしまう。「The Slip」のほうはウィルスによる心の支配とドメスチック・バイオレンスの支配・被支配の関係をシンクロさせているところが新しい。
「Remembering Hannah」では新型ウィルスとアルツハイマーや老いによる心身の衰弱をシンクロさせています。なんか切実すぎてつらくて、途中で読むのやめようかと思ったのですが、最後まで読んでよかった! けっこういい終わり方なんですよ。終末物ですから能天気なハッピーエンドではありませんが、しみじみします。女の子ががんばる設定もいい。
終末アンソロジーにしては宇宙人侵略話がないな、もう古いのかなと思ってたら、ありましたよ。「At Depth's Door」はイギリス北部のさびれた炭鉱町を思わせるような背景に虫みたいな宇宙人をカップリングしていて、妙に怖くて背中がうすら寒くなります。よく考えるとおかしい設定上の穴みたいなものもたくさんあるんですが、雰囲気で押し切ってる。
もちろん、「トゥモロー・ワールド」のような少子化による終末も登場します。「The Peralta Protocol」は、子どもが生まれなくなった世界で、生身の女性のDNAから生成した人工子宮で胎児を創り出すことに成功したものの、世論は賛成派と反対派のまっぷたつに分かれ、とうとうキリスト教信者による過激な反対派によって胎児が誘拐されるという話。途中で急にゲームみたいな銃撃戦が挿入されるのは今どきの若者っぽいけど、意外な(でもないか)結末は楽しめました。
そして、そして、まさにDoomsdayな「Red Rain」。突然、空に七つの太陽が現れ、地上には赤い雨が降り続く中、人々は略奪し、殺し、自殺し、宗教に救いを求める。まさに正統派の終末小説なのですが、結末がもう驚きの一語。やるか?ここまでやるか?いや、いっそここまでやったことが新しいのかも?と頭の中がぐるぐるしました。爆笑必至。
これと似たタイプで彗星が地球に衝突する(かもしれない)日を描く「The Journal」は、12歳の少年の視点で描かれているせいか、穏やかでノスタルジックな雰囲気さえ感じます。ひねりのあるラストも効いてる。
「The Last Siege of Olympus」は他の作品とはかなり違っていて、最初のうちはどこが終末なのかわかりません。読んでいくうちにだんだんと「ああ、こういうことなのかな?」とわかってきますが、でも、やっぱり本来の終末物とは違う。面白かったけどSFの別ジャンルに含まれるような気がします。
ケン・リュウの短編「Staying Behind」は『紙の動物園』収録の作品です。やはり、こうして並んだ中で読み返すと、アイディアがどうのという以前に文章が洗練されていて、プロが書いた文学作品だと感じます。
The Doomsday Chronicles (The Future Chronicles) (English Edition)
編者:Samuel Peralta
出版社:Windrift Books
ISBN:Kindle版
終末物ばかりでは飽きてしまったり、どよーんとした気分になったりするのではと危惧していましたが、15編それぞれに趣向を凝らしてあって似たようなものはなかったので楽しく読めました。各編それぞれに作者あとがきが付いているのもいいです。ふつうは短編に作者の解説なんて付きませんから。
2、3作はどうしても好みに合わなくて途中で読むのをやめてしまったり、全体を飛ばし読みしてしまったものもありますが、この手のアンソロジーは無理して全部を読もうとしないほうが気楽に手にとれるのかもしれない。好きな作家の短編集とは違って、どうしても苦手な作家も混じってきますからね。
A Mother So Beautiful / Ann Christy
The Voices That We Keep / Aaron Hubble
Dragonflies / Seanan McGuire
Lockdown / Saul Tanpepper
At Depth's Door / James Knapp
The Slip / E.R. Arroyo
GOAT / Matthew Alan Thyer
Remembering Hannah / K. J. Colt
Red Rain / Monica Enderle Pierce
The Peralta Protocol / Daniel Arthur Smith
The Journal / Terry R. Hill
Power Outage / Holly Heisey
The Last Siege of Olympus / Therin Knite
Mia + Vegan Cannibals / S. Elliot Brandis
Staying Behind / Ken Liu
レイプによって生まれた子供が離れて暮らす母親のストーカーになり、そのせいで精神を病んだ母親がこの世から男性を絶滅させるという壮絶な「A Mother So Beautiful」は、さすが巻頭にあるだけあって、先へ先へと読ませる力があります。最後もぞっとするような余韻がある。
環境破壊が繰り返された結果、酸素が濃くなりすぎて人間には棲みにくく、虫には最適な環境になった地球で、生き残った人類の苦闘を描く「Dragonflies」も怖いけど面白く、虫嫌いの私は鳥肌たてながら読みました。巨大な蚊なんて吸血鬼みたいなもので、しかもしれが無数にいるなんてぞっとしますよね。ゴキブリが出てこないのだけは救いです。
非常事態宣言が出て小学校の教室に閉じこもることになる「Lockdown」も、緊急避難命令が出て逃げまどう「The Slip」も、危険がどこにあるのかわからないところがサスペンスを盛り上げています。わかってしまうと逆に「な~んだ」と思えてしまう。「The Slip」のほうはウィルスによる心の支配とドメスチック・バイオレンスの支配・被支配の関係をシンクロさせているところが新しい。
「Remembering Hannah」では新型ウィルスとアルツハイマーや老いによる心身の衰弱をシンクロさせています。なんか切実すぎてつらくて、途中で読むのやめようかと思ったのですが、最後まで読んでよかった! けっこういい終わり方なんですよ。終末物ですから能天気なハッピーエンドではありませんが、しみじみします。女の子ががんばる設定もいい。
終末アンソロジーにしては宇宙人侵略話がないな、もう古いのかなと思ってたら、ありましたよ。「At Depth's Door」はイギリス北部のさびれた炭鉱町を思わせるような背景に虫みたいな宇宙人をカップリングしていて、妙に怖くて背中がうすら寒くなります。よく考えるとおかしい設定上の穴みたいなものもたくさんあるんですが、雰囲気で押し切ってる。
もちろん、「トゥモロー・ワールド」のような少子化による終末も登場します。「The Peralta Protocol」は、子どもが生まれなくなった世界で、生身の女性のDNAから生成した人工子宮で胎児を創り出すことに成功したものの、世論は賛成派と反対派のまっぷたつに分かれ、とうとうキリスト教信者による過激な反対派によって胎児が誘拐されるという話。途中で急にゲームみたいな銃撃戦が挿入されるのは今どきの若者っぽいけど、意外な(でもないか)結末は楽しめました。
そして、そして、まさにDoomsdayな「Red Rain」。突然、空に七つの太陽が現れ、地上には赤い雨が降り続く中、人々は略奪し、殺し、自殺し、宗教に救いを求める。まさに正統派の終末小説なのですが、結末がもう驚きの一語。やるか?ここまでやるか?いや、いっそここまでやったことが新しいのかも?と頭の中がぐるぐるしました。爆笑必至。
これと似たタイプで彗星が地球に衝突する(かもしれない)日を描く「The Journal」は、12歳の少年の視点で描かれているせいか、穏やかでノスタルジックな雰囲気さえ感じます。ひねりのあるラストも効いてる。
「The Last Siege of Olympus」は他の作品とはかなり違っていて、最初のうちはどこが終末なのかわかりません。読んでいくうちにだんだんと「ああ、こういうことなのかな?」とわかってきますが、でも、やっぱり本来の終末物とは違う。面白かったけどSFの別ジャンルに含まれるような気がします。
ケン・リュウの短編「Staying Behind」は『紙の動物園』収録の作品です。やはり、こうして並んだ中で読み返すと、アイディアがどうのという以前に文章が洗練されていて、プロが書いた文学作品だと感じます。
The Doomsday Chronicles (The Future Chronicles) (English Edition)
編者:Samuel Peralta
出版社:Windrift Books
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2016-04-26 19:26
| 洋書
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