2016年 01月 26日
四次元温泉日記 |
温泉にはまったく興味のない著者が、迷路のように錯綜した旅館目当てに日本全国の温泉場をめぐるおっさん三人の探訪記。
風呂なら家にもあるのにわざわざ出かける理由がわからない、風呂に入るたびに服を着たり脱いだりするのがめんどくさい……そんな宮田さんがなぜ?と思うのだけれど、あとがきによるとそもそもの企画は迷路旅館で、編集部が一般受けを願って温泉という縛りをつけたらしい。なるほど。
子どもの頃は親と、大学卒業までは友人たちと温泉宿に泊まったことはあり、その迷路性、レトロキッチュな雰囲気には確かに魅力を感じはしたものの、私も宮田さん同様、温泉にはまったく魅力を感じないたち。上記の理由に加えて、のぼせ症で自宅の風呂でも10数えたらもう出なくてはならないので一年365日シャワーしか使わない私には、温泉なんてとんでもない。昔行っていた頃でも、脱衣場にいただけで気が遠くなったくらいですから。
なので、最初の頃はどうもいつもの宮田さんのエッセイほどには笑えませんでした。たぶん、書いてる本人の気持ちがいまひとつのってなくて、無理やり気持ちを引きたてようとしている部分を感じたからだと思う。
でも、後半になるにしたがって、宮田さん自身が徐々に温泉の魅力をわかり始めたころから面白くなってきた。結局最後まで私には温泉の魅力はぴんとこなかったけれど、文章そのものは楽しめました。ふざけてばかりいるようでいて、ところどころで何とも言えない真理をついているところもあって、これまでになく哲学的な雰囲気と言えるかも。これも、何もせずにだらだらしていられる温泉旅館に滞在したからこそなのかもしれませんね。
なるほどと思ったのは、人間のスピードに対する感覚の変容についての考察。
四次元温泉日記 (ちくま文庫)
作者:宮田珠己
出版社:筑摩書房
ISBN:4480432388
風呂なら家にもあるのにわざわざ出かける理由がわからない、風呂に入るたびに服を着たり脱いだりするのがめんどくさい……そんな宮田さんがなぜ?と思うのだけれど、あとがきによるとそもそもの企画は迷路旅館で、編集部が一般受けを願って温泉という縛りをつけたらしい。なるほど。
子どもの頃は親と、大学卒業までは友人たちと温泉宿に泊まったことはあり、その迷路性、レトロキッチュな雰囲気には確かに魅力を感じはしたものの、私も宮田さん同様、温泉にはまったく魅力を感じないたち。上記の理由に加えて、のぼせ症で自宅の風呂でも10数えたらもう出なくてはならないので一年365日シャワーしか使わない私には、温泉なんてとんでもない。昔行っていた頃でも、脱衣場にいただけで気が遠くなったくらいですから。
なので、最初の頃はどうもいつもの宮田さんのエッセイほどには笑えませんでした。たぶん、書いてる本人の気持ちがいまひとつのってなくて、無理やり気持ちを引きたてようとしている部分を感じたからだと思う。
でも、後半になるにしたがって、宮田さん自身が徐々に温泉の魅力をわかり始めたころから面白くなってきた。結局最後まで私には温泉の魅力はぴんとこなかったけれど、文章そのものは楽しめました。ふざけてばかりいるようでいて、ところどころで何とも言えない真理をついているところもあって、これまでになく哲学的な雰囲気と言えるかも。これも、何もせずにだらだらしていられる温泉旅館に滞在したからこそなのかもしれませんね。
なるほどと思ったのは、人間のスピードに対する感覚の変容についての考察。
かつては物凄いスピード感で花形だったジェットコースターが、今乗るとちっとも怖くなくてかえってもの足りないぐらいに感じるという現象がある。それはもちろん慣れてしまったから、とか、新しいジェットコースターに乗って感覚が一新されたという理屈で説明できるわけだが、意外なのは、その変容した感覚が個人を超えて伝達される、すなわち種として伝わることである。親の世代が慣れてしまったスピードに、子供はあらかじめ慣れて生まれてくるのだ。アメリカの遊園地などに行くと、昔は子供はビビってとても乗れなかったようなメガ・コースターに、今では小学生が嬉々として乗っている。温泉とは無関係に、別府の貸間旅館(旅館の名前ではなく素泊まりで部屋貸しの旅館のこと)で体験できる《地獄蒸し》に興味津々。これは温泉の蒸気の吹き出し口に肉や魚、野菜、米を置いて蒸すという素朴なものなんだけど、絶対においしいと思う。そもそも《蒸す》調理法は素材の良さをいちばん引き出せる調理法だと思うし、温泉の蒸気に含まれる成分がいいほうに作用したらよりおいしくなるはず。味付けは塩こしょうだけで充分だと思う。とはいえ、そのためだけに別府の、しかも民宿みたいな宿に泊まるというのはなあ、ハードル高いよなあ。
ジェットコースターだけだはない。かつては馬車に轢かれる交通事故がよくあったが、現代では馬車なんて轢かれるには遅すぎる気がするであろう。人間のスピード感覚は、種全体で進化しているわけである。
四次元温泉日記 (ちくま文庫)
作者:宮田珠己
出版社:筑摩書房
ISBN:4480432388
by timeturner
| 2016-01-26 22:51
| 和書
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