2015年 12月 29日
ぺしゃんこの少年たち |
(熱にうなされた妄想の中から生まれた話です)
ふたりの少年は電車の中を傍若無人に走り回っていた。びっくりしたような顔をしたほうが面白いと知っていたので、びっくりしたような顔をして乗客ひとりひとりに声をかけた。「おじさん、鼻が腫れてるよ!」とか「おばさん、ほっぺにじゃがいもがついてるよ!」といったようなことだ。大人たちはみんな無視したが、誰もがむかむかしていた。
やがて少年たちは電車を降り、今度はひとりの男のあとをついて歩きながら「おじさん、髪の毛薄くなってるよ。そんなじゃ女にもてないよ」「おじさん、ズボンの尻のところがテカテカだよ。そんなじゃ女にもてないよ」「おじさん、靴がぼろぼろじゃないの。そんなじゃ女にもてないよ」と囃し立てた。
そのとき、少年たちの肩を誰かの手ががっちりとつかんだ。振り返ると雲つくような大男が立っている。髭ぼうぼうで服装は垢じみている。腰には大きな麻袋をぶらさげていた。おそらく浮浪者だ。
「なんて根性曲がりの悪ガキだ。おまえらみたいなろくでなしは、二つ折りのぺしゃんこにして、手も足もねじきって、袋の中に突っ込んじまうのがいちばんだ」そう言って男はその通りにし、丘に向かって歩いていった。
ある丘の上までくると、一本の木の根元にひとりを埋めた。もうひとりを入れた袋を手に一軒のあばら家に入っていき、しばらくそこで暮らした。ぺしゃんこの少年は尻当てクッションとして愛用されたが、そのうちぺらぺらになったのでそのへんにほうりだされた。男はやがてどこかに行ってしまった。
その間ずっと少年たちの行方を探していた警察は、空き家でぺらぺらになった少年をみつけた。家族は「どうしてこんなことに」と泣きながら少年を埋葬した。もうひとりの少年の家族はその後もずいぶん長く探していたが、しまいにはあきらめてお墓を作った。
丘の上の木の下の地面の中では、もうひとりの少年が手も足もないので頭で土を掘りながら這い進んでいた。暗く冷たく怖く、どうしていいのかわからない。こんなにつらい思いをしたのは生まれて初めてだと思った。「こんなにつらい思いをした子はこれまでにいないかもしれない」とも。確かにその通りだったが、それを知ってその少年が慰められたとは思わない。
ふたりの少年は電車の中を傍若無人に走り回っていた。びっくりしたような顔をしたほうが面白いと知っていたので、びっくりしたような顔をして乗客ひとりひとりに声をかけた。「おじさん、鼻が腫れてるよ!」とか「おばさん、ほっぺにじゃがいもがついてるよ!」といったようなことだ。大人たちはみんな無視したが、誰もがむかむかしていた。
やがて少年たちは電車を降り、今度はひとりの男のあとをついて歩きながら「おじさん、髪の毛薄くなってるよ。そんなじゃ女にもてないよ」「おじさん、ズボンの尻のところがテカテカだよ。そんなじゃ女にもてないよ」「おじさん、靴がぼろぼろじゃないの。そんなじゃ女にもてないよ」と囃し立てた。
そのとき、少年たちの肩を誰かの手ががっちりとつかんだ。振り返ると雲つくような大男が立っている。髭ぼうぼうで服装は垢じみている。腰には大きな麻袋をぶらさげていた。おそらく浮浪者だ。
「なんて根性曲がりの悪ガキだ。おまえらみたいなろくでなしは、二つ折りのぺしゃんこにして、手も足もねじきって、袋の中に突っ込んじまうのがいちばんだ」そう言って男はその通りにし、丘に向かって歩いていった。
ある丘の上までくると、一本の木の根元にひとりを埋めた。もうひとりを入れた袋を手に一軒のあばら家に入っていき、しばらくそこで暮らした。ぺしゃんこの少年は尻当てクッションとして愛用されたが、そのうちぺらぺらになったのでそのへんにほうりだされた。男はやがてどこかに行ってしまった。
その間ずっと少年たちの行方を探していた警察は、空き家でぺらぺらになった少年をみつけた。家族は「どうしてこんなことに」と泣きながら少年を埋葬した。もうひとりの少年の家族はその後もずいぶん長く探していたが、しまいにはあきらめてお墓を作った。
丘の上の木の下の地面の中では、もうひとりの少年が手も足もないので頭で土を掘りながら這い進んでいた。暗く冷たく怖く、どうしていいのかわからない。こんなにつらい思いをしたのは生まれて初めてだと思った。「こんなにつらい思いをした子はこれまでにいないかもしれない」とも。確かにその通りだったが、それを知ってその少年が慰められたとは思わない。
by timeturner
| 2015-12-29 16:55
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