2015年 12月 29日
妄想と幻影 |
熱があると頭は痛いし気分も悪くて本を読んだりPCやタブレットの画面で文字を読むことがつらくなります。ひたすら布団をかぶって寝ているしかない。初めは体が要求するままに睡眠がとれますが、それを越えると眠りらしい眠りはなくなります。実際には細切れに寝ているんでしょうが、いわゆる半覚半睡という状態で、自覚的には全く寝ていない。かといって人間には脳があるので、何も考えずに長時間ぼーっとしていることはできない。そこに妄想や幻想が入り込みます。
初めの頃は例によってありもしないテキストの翻訳、必要もない手紙、あるわけもない講演原稿、ブログの記事などを何度も推敲しながら書いたり、実在しない人と議論したりしました。そんなことをすれば疲れるに決まっているのにやめられない。
今回は熱を出している期間が長かったので、これまで経験したことがないほどバラエティに富んだ内容の妄想が湧き、中には面白いものもありました。
ホームズ・パスティーシュを一編、書き出しから終りまで書き上げたことがひとつ。伏線もちゃんと張ってあり、年譜も検討して、我ながらたいした出来だと思ったのですが、少し熱が下がってから(頭の中で)読み直してみたら、動機にまるで説得力がなくてダメダメでした。
中国系アメリカ人のミステリー作家とその妻を招いての内輪の会に出席し、主にその妻のほうと興味深い会話をするというのもあった。主賓のミステリー作家の作品は読んだことがないのに、その妻が書いた小説は読んだことがあり、しかも大好きだったというので、すっかり盛り上がり、実に中身の濃い会話をすることができました。
精神分析医を相手に自分の問題点を切々と訴え、過去のつらい体験について赤裸々に語っているというのもありました。とても他人には知られたくない内容ですが、これのおかげで自分の中にかかえていたウジウジが少し発散された気がします。
目をつぶっているのに目の前に白いモニタースクリーンが広がり、そこに様々な絵や文章が現れては消えていくというのもありました。
料亭のお品書き、友人の筆跡で書かれた英語の手紙、外国で書かれたらしい世界各地の民話や伝承らしきもの、ヴィクトリア朝の児童書にありそうな挿絵、江戸時代の子どもが遊んでいる絵。
絵は実際にどこかで見たことがあるものでしょう。江戸時代の子どもの絵はつい最近読んだ『浮世絵に見る江戸っ子の一生』からだとはっきりわかります。
この幻影、目をつぶると現れるのですが、時によってはそのあと目を開けてもちゃんと残っています。天井を向いて目を開ければ天井に、壁に向かって目を開ければ壁にさっきまでの文字列がちゃんと見えるのです。
一度、ふとクローゼットのほうに目をやったら、黒字に銀色でゲゲゲの鬼太郎のキャラクターたちが描かれた紙の袋がありました。あれ、これまでの幻影と違うなとじっと眺めていても消えません。ってことは実際にあるんだ。でも、あんなもの、いつ買ったんだろう? 中に何が入っているんだろう? 我慢できずに寒いのを我慢して近くまでいくと、それは黒いコートにかけた透明ビニールがよれて作った影にすぎませんでした。そうとわかってみると、同じ位置からもう一度眺めてもゲゲゲの鬼太郎には見えませんでした。
今回の新機軸はツイッター・モード。闘病期間の後半に現れました。目の前にTLが次々と流れていくのです。現実にフォローしている人たちのツイートではなく、知らない人たちのツイートがアトランダムに現れます。面白いものがあり、ハートのマークをタップしようと伸ばした指がふとんにぶつかり、あ、これは幻影だったんだと気づきます。目をつぶっているときはタブレットサイズなのに、目を開けるとノートパソコンサイズにぱーっと広がることもありました。
物語もたくさん出てきました。短編小説、歌舞伎の脚本、子供向けの話、猫をテーマにした連作集などが文字と絵と動画が混然一体となった状態で目の前に繰り広げられます。本の形になっているものを読んでいることもあれば、PC画面であることもある。だから、いわゆる夢とは違う。誰かが語った物語を読んでいるという自覚がある。
このあたりは多分、本が読めない(私の場合は熱が37度台以上だとつらい)苦痛をまぎらわせようと、脳が過去に読んだものを適当につなげたり、好きなように変形させたりしたんでしょうね。
細部は忘れてしまいましたが、とても短くて強烈な印象があった子ども向けホラーをひとつ、別項目で書きだしてみます。どなたか原典をご存じの方はご指摘ください。
初めの頃は例によってありもしないテキストの翻訳、必要もない手紙、あるわけもない講演原稿、ブログの記事などを何度も推敲しながら書いたり、実在しない人と議論したりしました。そんなことをすれば疲れるに決まっているのにやめられない。
今回は熱を出している期間が長かったので、これまで経験したことがないほどバラエティに富んだ内容の妄想が湧き、中には面白いものもありました。
ホームズ・パスティーシュを一編、書き出しから終りまで書き上げたことがひとつ。伏線もちゃんと張ってあり、年譜も検討して、我ながらたいした出来だと思ったのですが、少し熱が下がってから(頭の中で)読み直してみたら、動機にまるで説得力がなくてダメダメでした。
中国系アメリカ人のミステリー作家とその妻を招いての内輪の会に出席し、主にその妻のほうと興味深い会話をするというのもあった。主賓のミステリー作家の作品は読んだことがないのに、その妻が書いた小説は読んだことがあり、しかも大好きだったというので、すっかり盛り上がり、実に中身の濃い会話をすることができました。
精神分析医を相手に自分の問題点を切々と訴え、過去のつらい体験について赤裸々に語っているというのもありました。とても他人には知られたくない内容ですが、これのおかげで自分の中にかかえていたウジウジが少し発散された気がします。
目をつぶっているのに目の前に白いモニタースクリーンが広がり、そこに様々な絵や文章が現れては消えていくというのもありました。
料亭のお品書き、友人の筆跡で書かれた英語の手紙、外国で書かれたらしい世界各地の民話や伝承らしきもの、ヴィクトリア朝の児童書にありそうな挿絵、江戸時代の子どもが遊んでいる絵。
絵は実際にどこかで見たことがあるものでしょう。江戸時代の子どもの絵はつい最近読んだ『浮世絵に見る江戸っ子の一生』からだとはっきりわかります。
この幻影、目をつぶると現れるのですが、時によってはそのあと目を開けてもちゃんと残っています。天井を向いて目を開ければ天井に、壁に向かって目を開ければ壁にさっきまでの文字列がちゃんと見えるのです。
一度、ふとクローゼットのほうに目をやったら、黒字に銀色でゲゲゲの鬼太郎のキャラクターたちが描かれた紙の袋がありました。あれ、これまでの幻影と違うなとじっと眺めていても消えません。ってことは実際にあるんだ。でも、あんなもの、いつ買ったんだろう? 中に何が入っているんだろう? 我慢できずに寒いのを我慢して近くまでいくと、それは黒いコートにかけた透明ビニールがよれて作った影にすぎませんでした。そうとわかってみると、同じ位置からもう一度眺めてもゲゲゲの鬼太郎には見えませんでした。
今回の新機軸はツイッター・モード。闘病期間の後半に現れました。目の前にTLが次々と流れていくのです。現実にフォローしている人たちのツイートではなく、知らない人たちのツイートがアトランダムに現れます。面白いものがあり、ハートのマークをタップしようと伸ばした指がふとんにぶつかり、あ、これは幻影だったんだと気づきます。目をつぶっているときはタブレットサイズなのに、目を開けるとノートパソコンサイズにぱーっと広がることもありました。
物語もたくさん出てきました。短編小説、歌舞伎の脚本、子供向けの話、猫をテーマにした連作集などが文字と絵と動画が混然一体となった状態で目の前に繰り広げられます。本の形になっているものを読んでいることもあれば、PC画面であることもある。だから、いわゆる夢とは違う。誰かが語った物語を読んでいるという自覚がある。
このあたりは多分、本が読めない(私の場合は熱が37度台以上だとつらい)苦痛をまぎらわせようと、脳が過去に読んだものを適当につなげたり、好きなように変形させたりしたんでしょうね。
細部は忘れてしまいましたが、とても短くて強烈な印象があった子ども向けホラーをひとつ、別項目で書きだしてみます。どなたか原典をご存じの方はご指摘ください。
by timeturner
| 2015-12-29 16:18
|
Comments(2)
Commented
by
八朔
at 2015-12-30 22:00
x
元気になられて良かった~(^^)/
熱があると妄想や幻想が現れるのですね。
怖い夢はみたことがありますが、それほど創作的な幻想は見たことないです。
今まで、微熱があって眠れない時は、簡単な携帯のゲームとかをひたすらやり続けていたのですが、熱が出るチャンスがあったら(あって欲しくはないけど)、妄想にチャレンジしてみます。
熱があると妄想や幻想が現れるのですね。
怖い夢はみたことがありますが、それほど創作的な幻想は見たことないです。
今まで、微熱があって眠れない時は、簡単な携帯のゲームとかをひたすらやり続けていたのですが、熱が出るチャンスがあったら(あって欲しくはないけど)、妄想にチャレンジしてみます。
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Commented
by
timeturner at 2015-12-31 15:35
八朔さん
ご心配をおかけしました。
夢もドラマチックなんだけど覚えていないことのほうが多いですよね。その点、妄想のほうはちゃんと記憶に残るのであとから思い出せるわけですが、でも、インフルエンザ熱にうかされての妄想なんて、一生知らないほうが幸せですよ(^^)。
ご心配をおかけしました。
夢もドラマチックなんだけど覚えていないことのほうが多いですよね。その点、妄想のほうはちゃんと記憶に残るのであとから思い出せるわけですが、でも、インフルエンザ熱にうかされての妄想なんて、一生知らないほうが幸せですよ(^^)。