2015年 11月 26日
孤児列車 |
アイルランドから夢を抱いてニューヨークに渡ってきたものの、相も変らぬ貧困の中で火事にあい、両親もきょうだいもひとり残らず失ったニーヴは、孤児列車に乗せられた。大陸横断する列車で里子として引き取ってくれる家庭を探すのだ。だが、ほとんどの引き受け先は「タダの労働力」を求めているだけだった・・・。
『ロジーナのあした 孤児列車に乗って』と同じテーマを大人向きに(というよりむしろYA向きかな)に書いたフィクションです。よく似ているエピソードがありますが、おそらく元になる資料の中でも目立つ部分なんでしょうね。
孤児列車に乗せられた人たちが辿った人生をそのままノンフィクションとして綴るだけでも充分興味深い読み物になると思いますが、この本では孤児列車出身のニーヴと、ドラッグ中毒の母親から引き離されて里親から里親へと転々と移動しながら生きている17歳のモリーの人生とを交錯させることで、より小説らしい内容になっています。ニーヴのほうは不自由のない暮らしを送っている老婦人であることがわかっているので、どんなに苦労をしたとしても最後には報われたのだろうなと思えますが、モリーのほうはこれからどんなふうにでも転がっていくわけですから、読むほうも気が抜けません。
最後のほうはあまりにも何もかもうまく行き過ぎて、ちょっとやりすぎじゃない?という気もしましたが、考えてみればフィクションなんだから、本来の趣旨(孤児列車の真実を伝える)さえ違えなければ、あとは読者が気分よく読み終えられるようにするほうが親切なのかも。
孤児列車というものの存在についてアメリカ人でも知らない人が多かったということは、孤児たち自身はもちろん、孤児をひきとった里親たちも、孤児を里親に斡旋していた組織関係者たちも、あまり人には言いたくないことだったからなのかもしれませんね。
でも、作者がやりたかったのはそういう暗部を暴くことではなく、物語の冒頭に引用されている以下の文章で指摘されている「何を置き去りにするのか」を人々に考えてもらいたかったのではないかな。
孤児列車
原題:Orphan Train
作者:クリスティナ・ベイカー・クライン
訳者:田栗美奈子
出版社:作品社
ISBN:4861825200
『ロジーナのあした 孤児列車に乗って』と同じテーマを大人向きに(というよりむしろYA向きかな)に書いたフィクションです。よく似ているエピソードがありますが、おそらく元になる資料の中でも目立つ部分なんでしょうね。
孤児列車に乗せられた人たちが辿った人生をそのままノンフィクションとして綴るだけでも充分興味深い読み物になると思いますが、この本では孤児列車出身のニーヴと、ドラッグ中毒の母親から引き離されて里親から里親へと転々と移動しながら生きている17歳のモリーの人生とを交錯させることで、より小説らしい内容になっています。ニーヴのほうは不自由のない暮らしを送っている老婦人であることがわかっているので、どんなに苦労をしたとしても最後には報われたのだろうなと思えますが、モリーのほうはこれからどんなふうにでも転がっていくわけですから、読むほうも気が抜けません。
最後のほうはあまりにも何もかもうまく行き過ぎて、ちょっとやりすぎじゃない?という気もしましたが、考えてみればフィクションなんだから、本来の趣旨(孤児列車の真実を伝える)さえ違えなければ、あとは読者が気分よく読み終えられるようにするほうが親切なのかも。
孤児列車というものの存在についてアメリカ人でも知らない人が多かったということは、孤児たち自身はもちろん、孤児をひきとった里親たちも、孤児を里親に斡旋していた組織関係者たちも、あまり人には言いたくないことだったからなのかもしれませんね。
でも、作者がやりたかったのはそういう暗部を暴くことではなく、物語の冒頭に引用されている以下の文章で指摘されている「何を置き去りにするのか」を人々に考えてもらいたかったのではないかな。
川から川へと移動するとき、アベナキ族は、カヌーと持ち物すべてを運ばなければならなかった。身軽に旅することの意義を誰もが知っていたし、そのためには何かを置き去りにしなければならないことも理解していた。何よりも邪魔になるのは恐れであり、しばしばそれがもっとも捨てがたい重荷となった。 ――バニー・マクブライド『夜明けの女たち』
孤児列車
原題:Orphan Train
作者:クリスティナ・ベイカー・クライン
訳者:田栗美奈子
出版社:作品社
ISBN:4861825200
by timeturner
| 2015-11-26 17:49
| 和書
|
Comments(0)