2015年 10月 04日
One in 300 |
太陽の温度が一気に上昇し、地球の最後が確実に訪れることがわかったとき、各国の指導者は火星への移住のために大量の小型宇宙船の製造にとりかかった。とはいえ、全人類が移住できるわけではない。ひとつの宇宙船に乗れるのは操縦士を含めて11人。操縦士たちは各地に派遣され、その地域で自分の船に乗せる人間10人を選ぶことになった。28歳のBill Easson中尉が派遣されたのは人口3000人のSimsvilleという町。300人にひとりが生きられるわけだ・・・。
惜しいなあ。Part Ⅰは突っ込みどころ満載で荒唐無稽ではあるもののアイディアとしてはすごく面白い。ごく普通の若者が神の立場に立ってしまった戸惑いや、選ばれる立場に立った人間のさまざまな反応。アル中の男、男運の悪い美人、容姿も体力もすぐれているが冷酷な若者、仲睦まじい夫婦、堅物の女性教師・・・誰を選ぶのか決めたと思うと、ちょっとした出来事でリストは日々書き換えられていく。
これはもうSFの枠を超えた哲学的ともいえるテーマで、作家によっていろいろに展開させられるネタだと思う。この作家もある程度まではがんばっているんだけど、惜しむらくは「おおざっぱ」なんですよね。さっと表面をかすっただけで次に移ってしまった。
まあ、もともとがSFだから作家としてはどうしたってPart Ⅱの宇宙船内での話や、Part Ⅲの火星に到着してからの話が書きたいわけで、仕方がないとは思うんだけど、そのわりにPart Ⅱはたいしたことはない。というか、科学的説明のほとんどが眉唾もので、理数系はだめだめの私でも「えーっ?!」と思うところがたくさんありました。
ただし、宇宙に出て数日後に始まる太陽の「加熱」を目の当たりにしてビルが想像の中で繰り広げる地球の地獄絵はすごい迫力。しかも長々と続くので、ひょっとしたらこれが書きたくてこの小説を思いついたのではないかとすら思えます。ここまで急激にではないものの、地球の温暖化がこのまま続いたら、人類の未来にはこういう恐ろしい地獄が待ち受けているわけだよなあ、なんて思ったりして。
が、Part Ⅲに入って唖然としました。この酷さに比べたらPart ⅠもPart Ⅱも佳作と呼んでいい。いや、小説としての出来がどうとかいうのではないの。作者の物の考え方が私にはとうてい受け入れられない。
ようやくのことで到達した火星は当然ながらまだ人が住めるような状態ではなく、移り住んだ人たちは最悪の環境で暮らし、男女の別なく苛酷な労働にかりだされるわけですが、問題はそこじゃない。火星で人類が地球と同様の繁栄を取り戻すために最も必要なのは子孫を増やすことだというわけで、そのためには女性はせっせと子どもを産まなくてはならない。妊娠可能なのに男と関係をもたない女は責められてしまうのですよ。何も書かれてはいないけれど、同性愛なんてもってのほかでしょうね。(書かれていないのは作者が思いつきもしなかったせいだと思う)
相手のいない女性がレイプされたとき、犯人がどうなるかというと、
で、襲われそうな女性が救いを求めてきたとき、主人公がどうしたかというと、自分の友人の独身男と一緒になるように勧めたのだ。お互いをよく知りもしない二人なのに。で、こう言うの。
こうした女性蔑視以外にも暴力を容易に許容するマチズモや、だめな人間は排除する優生学的な思想など、問題点がてんこもりです。それもディストピア小説として書かれているのではなく、「こういう世界なんだから順応しなきゃね」みたいなトーンなのです。書かれたのが1950年代だからとはいえ、これはちょっと目にあまる。というか、ナチスがあんなことをしたすぐあとで、よくもまあこんなことが書けるよなあと思いました。
書いていてふと思いついたんですが、この世界って「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の別ヴァージョンですね。おお怖。
One in 300 (English Edition)
邦題:300:1
作者:J. T. McIntosh
出版社:Gateway
ISBN:Kindle版
惜しいなあ。Part Ⅰは突っ込みどころ満載で荒唐無稽ではあるもののアイディアとしてはすごく面白い。ごく普通の若者が神の立場に立ってしまった戸惑いや、選ばれる立場に立った人間のさまざまな反応。アル中の男、男運の悪い美人、容姿も体力もすぐれているが冷酷な若者、仲睦まじい夫婦、堅物の女性教師・・・誰を選ぶのか決めたと思うと、ちょっとした出来事でリストは日々書き換えられていく。
これはもうSFの枠を超えた哲学的ともいえるテーマで、作家によっていろいろに展開させられるネタだと思う。この作家もある程度まではがんばっているんだけど、惜しむらくは「おおざっぱ」なんですよね。さっと表面をかすっただけで次に移ってしまった。
まあ、もともとがSFだから作家としてはどうしたってPart Ⅱの宇宙船内での話や、Part Ⅲの火星に到着してからの話が書きたいわけで、仕方がないとは思うんだけど、そのわりにPart Ⅱはたいしたことはない。というか、科学的説明のほとんどが眉唾もので、理数系はだめだめの私でも「えーっ?!」と思うところがたくさんありました。
ただし、宇宙に出て数日後に始まる太陽の「加熱」を目の当たりにしてビルが想像の中で繰り広げる地球の地獄絵はすごい迫力。しかも長々と続くので、ひょっとしたらこれが書きたくてこの小説を思いついたのではないかとすら思えます。ここまで急激にではないものの、地球の温暖化がこのまま続いたら、人類の未来にはこういう恐ろしい地獄が待ち受けているわけだよなあ、なんて思ったりして。
が、Part Ⅲに入って唖然としました。この酷さに比べたらPart ⅠもPart Ⅱも佳作と呼んでいい。いや、小説としての出来がどうとかいうのではないの。作者の物の考え方が私にはとうてい受け入れられない。
ようやくのことで到達した火星は当然ながらまだ人が住めるような状態ではなく、移り住んだ人たちは最悪の環境で暮らし、男女の別なく苛酷な労働にかりだされるわけですが、問題はそこじゃない。火星で人類が地球と同様の繁栄を取り戻すために最も必要なのは子孫を増やすことだというわけで、そのためには女性はせっせと子どもを産まなくてはならない。妊娠可能なのに男と関係をもたない女は責められてしまうのですよ。何も書かれてはいないけれど、同性愛なんてもってのほかでしょうね。(書かれていないのは作者が思いつきもしなかったせいだと思う)
相手のいない女性がレイプされたとき、犯人がどうなるかというと、
If some proud, beautiful girl, used to having her own way and determined to keep her figure the way it was, complained indignantly of assault, she was liable to be asked if she had some other man in mind, and if she hadn't the offender was punished so mildly that he generally wasn't sorry at all.信じられる?!
で、襲われそうな女性が救いを求めてきたとき、主人公がどうしたかというと、自分の友人の独身男と一緒になるように勧めたのだ。お互いをよく知りもしない二人なのに。で、こう言うの。
“We can hardly allow people to wait around for years to fall in love,”結婚したら状況は変わるかというと、
A man can beat his wife or throw her about a bit and it's nobody's business but their own.えーーーーっ?!
こうした女性蔑視以外にも暴力を容易に許容するマチズモや、だめな人間は排除する優生学的な思想など、問題点がてんこもりです。それもディストピア小説として書かれているのではなく、「こういう世界なんだから順応しなきゃね」みたいなトーンなのです。書かれたのが1950年代だからとはいえ、これはちょっと目にあまる。というか、ナチスがあんなことをしたすぐあとで、よくもまあこんなことが書けるよなあと思いました。
書いていてふと思いついたんですが、この世界って「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の別ヴァージョンですね。おお怖。
One in 300 (English Edition)
邦題:300:1
作者:J. T. McIntosh
出版社:Gateway
ISBN:Kindle版
by timeturner
| 2015-10-04 17:33
| 洋書
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