2015年 09月 27日
誰でもない彼の秘密 |
1845年、アメリカの小さな町。ディキンソン家の娘、15歳のエミリーは洒落た身なりの美青年と出会う。身内の問題を解決するため、この町に来たらしい。名のるほどの者ではないと言った、謎めいた彼に惹かれたエミリーは町を案内する約束を交わす。ところが数日後、家の敷地内で男性の死体が発見される。それは先日出会ったばかりの彼だった。彼―ミスター・ノーバディが何者なのか、いったいなにが起こったのかを突きとめたい。その一心でエミリーは慣れない調査をはじめる。瑞々しい感性と抜群の観察眼を持つ、偉大な詩人エミリー・ディキンソンの少女時代を描いた鮮やかな力作!
エミリー・ディキンソンが主人公だというので、てっきり文学の香り高い恋愛小説かと思っていたら、キュートな少女探偵物でした。軽いタッチで読みやすく、あっという間に読めてしまいます。これはYA棚に入る本なのかな。
エミリー・ディキンソンと聞くと、生涯結婚せず、外出もせず、家に閉じこもって暮らした孤高の詩人という印象がありますが、この物語の中の少女エミリーは病弱ではあるもののとても積極的で、親の目を盗んでは出かけていきたがるので最初のうちはちょっとびっくりしました。でも、考えてみたら、孤高の詩人といえども15歳の頃には外の世界に好奇心や夢を抱いていたはずですから、こっちのほうが現実に近いのかもしれません。
各章ごとにエミリーの詩の一部が引用されていますが、おそらく物語全体にエミリーの詩のファンなら「ああ、これは」と思うようなイメージが散りばめられているんだろうなあと感じます。詩に疎い自分がちょっと哀しい。
もうひとつ興味深かったのは、エミリーの母親が非常にピューリタン的、かつ倹約家であったために、この頃にはすでに店で買うことが当たり前だった物(バターや小麦粉など)もすべて家庭で手作りし、洗濯も料理(鳥を絞めるところから)も自分や娘たちで処理していたこと。父親は弁護士で経済的には余裕があるのにです。ターシャ・チューダーみたいな人ならそういう暮らしも楽しめたかもしれないけれど、詩を書きたいエミリーにとっては地獄だったと思います。
それにターシャが生まれたのは1915年、エミリーが生まれたのは1830年。ターシャの頃にはもう何もかも手作りの生活というのは必要に迫られてすることではなく、ノスタルジーを感じさせる趣味の世界だったのに対して、エミリーが少女の頃のアメリカ西部では、何もかも手作りしなくては生きていけない開拓時代真っ最中で、エミリーたちが暮らす東部の町でようやく少しはゆとりのある暮らしを楽しめるようになっていたのですから、自分たちだけがそうできないというのが少女にとってどれだけ惨めだったか容易に理解できます。
誰でもない彼の秘密
原題:Nobody's Secret
作者:マイケラ・マッコール
訳者:小林浩子
出版社:東京創元社
ISBN:448801044X
エミリー・ディキンソンが主人公だというので、てっきり文学の香り高い恋愛小説かと思っていたら、キュートな少女探偵物でした。軽いタッチで読みやすく、あっという間に読めてしまいます。これはYA棚に入る本なのかな。
エミリー・ディキンソンと聞くと、生涯結婚せず、外出もせず、家に閉じこもって暮らした孤高の詩人という印象がありますが、この物語の中の少女エミリーは病弱ではあるもののとても積極的で、親の目を盗んでは出かけていきたがるので最初のうちはちょっとびっくりしました。でも、考えてみたら、孤高の詩人といえども15歳の頃には外の世界に好奇心や夢を抱いていたはずですから、こっちのほうが現実に近いのかもしれません。
各章ごとにエミリーの詩の一部が引用されていますが、おそらく物語全体にエミリーの詩のファンなら「ああ、これは」と思うようなイメージが散りばめられているんだろうなあと感じます。詩に疎い自分がちょっと哀しい。
もうひとつ興味深かったのは、エミリーの母親が非常にピューリタン的、かつ倹約家であったために、この頃にはすでに店で買うことが当たり前だった物(バターや小麦粉など)もすべて家庭で手作りし、洗濯も料理(鳥を絞めるところから)も自分や娘たちで処理していたこと。父親は弁護士で経済的には余裕があるのにです。ターシャ・チューダーみたいな人ならそういう暮らしも楽しめたかもしれないけれど、詩を書きたいエミリーにとっては地獄だったと思います。
それにターシャが生まれたのは1915年、エミリーが生まれたのは1830年。ターシャの頃にはもう何もかも手作りの生活というのは必要に迫られてすることではなく、ノスタルジーを感じさせる趣味の世界だったのに対して、エミリーが少女の頃のアメリカ西部では、何もかも手作りしなくては生きていけない開拓時代真っ最中で、エミリーたちが暮らす東部の町でようやく少しはゆとりのある暮らしを楽しめるようになっていたのですから、自分たちだけがそうできないというのが少女にとってどれだけ惨めだったか容易に理解できます。
誰でもない彼の秘密
原題:Nobody's Secret
作者:マイケラ・マッコール
訳者:小林浩子
出版社:東京創元社
ISBN:448801044X
by timeturner
| 2015-09-27 22:01
| 和書
|
Comments(0)