2014年 10月 24日
十九世紀ロンドン生活の光と影 リージェンシーからディケンズの時代へ |
リージェンシー(摂政時代)のダンディの世界からヴィクトリア朝の煙突掃除夫の世界まで、あらゆる階層・職業・身分の人びとの生活の場に踏み込み、暮らしぶりや心情を読み取る十九世紀ロンドン事情。
著者は大学の先生だし、硬そうな出版社だし、先にあとがきを読んだら「ここに収められた諸論文の大部分は折々の必要に応じて書かれたもの」だと書いてあるしで、ああ、これは最初のほうで挫折するかなあと危惧していたのですが、それが、あなた、すごく面白かったんですよ。
学者先生にしては(なんて書くと失礼ですが)面白く読める文章だし、「折々の必要に応じて」とはいっても、ずっと研究されてきたテーマだけに論旨にブレがない。書き下ろしのように読めました。まあ、私の好きな時代、好きなテーマだというのもありますが、それでも読めない本ってけっこう多いんですよ。そういうのはここには書かないから本人も忘れちゃってますが(だから、たまに同じ本を図書館で取り寄せて「あちゃあ」と思うこともある。
Ⅰ リージェンシー・ロンドンの光と影
1 トムとジェリーの倫敦・アドヴェンチャー
―ピアス・イーガン『ロンドンの生活』―
1 摂政時代のロンドン
2 トムとジェリーの登場
3ロンドンは人生の百科全書
4 午前様の日々
5 真夜中のアドヴェンチャー
6 東のAll Maxと西のAlmacks
7 インパクトと系譜
2 ダンディズムからクリノリンの時代へ
1 リージェンシーとダンディズム
2 ダンディ・ブランメル
3 ダンディの条件
4 ダンディズムの衰退
5 クリノリンの時代へ
3 ダンディと毒薬
―トマス・グリフィスス・ウェインライト像の変遷―
1 ウェインライトのプロフィール
2 ウェインライトの罪と罰
3 事実と虚構の間
4 オスカー・ワイルドとウェインライト
4 ピップのジェントルマン幻想
1 デイヴィッドからピップへ
2 オーストラリア流刑囚のテーマ
3 鍛冶屋の小僧からジェントルマンへ
4 大いなる幻滅
5 ピップの再生
Ⅱ 逆境を越えて
1 セルフ・ヘルプの系譜
1『セルフ・ヘルプ』の世界的人気
2 サミュエル・スマイルズの横顔
3『セルフ・ヘルプ』の成立へ
4『ジョージ・スティーヴンソン伝』
5 パルヴニュー賛美の書
6『セルフ・ヘルプ』のもう一つの顔
7 有用知識普及協会からスマイルズへ
2 オーストラリア移民
―その現実から文学の世界へ―
1 オーストラリア移民キャンペーン
2 ディケンズと移民問題
3 移民でひとまず万事解決
4 堕ちた女たちのオーストラリア
5 船出とその後
3 お針子の生と死
―『シャツの歌』から『ルース』へ―
1 ロンドンの「白人奴隷」
2 仕事場のお針子
3『ルース』との関連
4 誘惑者の再出現
4 ヴィクトリア朝のユダヤ人像
―ステレオタイプの成り立ち―
1 ユダヤ人フェイギン
2〈オー・クロ!〉とスロップ・トレード
3 国会議員への道のり
4 重ね帽子を蹴とばして
Ⅲ 子ども世界の明暗
1 ディケンズとジョン・リーチ
―作家と挿絵画家の親和力―
1 出会いと友情の進展
2 底辺の子どもたちとジュヴェナイルズ
3 諷刺画の中でのつながり
2 煙突小僧の現実とロマンス
1 現実
2 ロマンス
3 ロマンスの消滅
3 ロンドン塔のエドワード王子たち
―ドラローシュの絵画とそのインパクト―
1『ロンドン塔の王子殺害』
2『エドワード四世の子どもたち』
3『ロンドン塔のエドワード王子』ロンドンへ
4 浮浪のエドワード王子
―マーク・トウェイン『王子と乞食』―
1 マーク・トウェインとエドワード王子
2 王子の底辺体験
ヴィクトリア朝とディケンズを重ねて論じた本はこれまでにもいくつか読んできましたが、リージェンシーまでとりこんだものは初めてだったので、特に興味を惹かれました。オースティンの時代でありながら、期間が短いことと、すぐあとに続くヴィクトリア朝の派手派手しさに押されるのとで、どうも影の薄いリージェンシーですが、前から何かもっと広範囲に読みやすく解説してくれている本はないものかと探していたのです。
まあ、作者はヴィクトリア朝人であるディケンズの専門家なので、リージェンシーはそのヴィクトリア朝への導入という形で第Ⅰ部で触れられているだけですが、それでも、ヴィクトリア朝が忽然と現れたわけではなく、その前段階としてリージェンシーがあったということをわかりやすく説明してくれています。しかも、それが、ダーシーたちも含まれるダンディな男性たちを教材として語られるのですから、興味が湧かないわけがない。(結局はそこか!)
ダンディズム(いま使われているのとは意味が違う)の推進者であったブランメルは、『Pride and Prejudice』のパスティーシュ「A Novel of Fitzwilliam Darcy, Gentleman」三部作で、ダーシーの従者であるフレッチャーが目標としていたダンディで、すごく印象に残っていました。そこでも、クラヴァットをいかに上手に、人とは違う形に結ぶかが滔々と語られていたんですよね。
ヴィクトリア朝の、特に下層階級や新興中流階級については、著者の専門であるディケンズやギャスケルの作品を数多く引用しているので、ついついそっちも読みたくなってしまいます。『ロンドン路地裏の生活誌』と併せて読むとさらに面白いかも。
第Ⅰ部でメインに扱われているピアス・イーガンの『Life in London』という本は翻訳が出ていないようですが、ここのところよく覗いているお気に入りブログSpitalfield's Lifeに挿絵が何枚も掲載されていました。
十九世紀ロンドン生活の光と影―リージェンシーからディケンズの時代へ (SEKAISHISO SEMINAR)
作者:松村昌家
出版社:世界思想社
ISBN:4790709981
著者は大学の先生だし、硬そうな出版社だし、先にあとがきを読んだら「ここに収められた諸論文の大部分は折々の必要に応じて書かれたもの」だと書いてあるしで、ああ、これは最初のほうで挫折するかなあと危惧していたのですが、それが、あなた、すごく面白かったんですよ。
学者先生にしては(なんて書くと失礼ですが)面白く読める文章だし、「折々の必要に応じて」とはいっても、ずっと研究されてきたテーマだけに論旨にブレがない。書き下ろしのように読めました。まあ、私の好きな時代、好きなテーマだというのもありますが、それでも読めない本ってけっこう多いんですよ。そういうのはここには書かないから本人も忘れちゃってますが(だから、たまに同じ本を図書館で取り寄せて「あちゃあ」と思うこともある。
Ⅰ リージェンシー・ロンドンの光と影
1 トムとジェリーの倫敦・アドヴェンチャー
―ピアス・イーガン『ロンドンの生活』―
1 摂政時代のロンドン
2 トムとジェリーの登場
3ロンドンは人生の百科全書
4 午前様の日々
5 真夜中のアドヴェンチャー
6 東のAll Maxと西のAlmacks
7 インパクトと系譜
2 ダンディズムからクリノリンの時代へ
1 リージェンシーとダンディズム
2 ダンディ・ブランメル
3 ダンディの条件
4 ダンディズムの衰退
5 クリノリンの時代へ
3 ダンディと毒薬
―トマス・グリフィスス・ウェインライト像の変遷―
1 ウェインライトのプロフィール
2 ウェインライトの罪と罰
3 事実と虚構の間
4 オスカー・ワイルドとウェインライト
4 ピップのジェントルマン幻想
1 デイヴィッドからピップへ
2 オーストラリア流刑囚のテーマ
3 鍛冶屋の小僧からジェントルマンへ
4 大いなる幻滅
5 ピップの再生
Ⅱ 逆境を越えて
1 セルフ・ヘルプの系譜
1『セルフ・ヘルプ』の世界的人気
2 サミュエル・スマイルズの横顔
3『セルフ・ヘルプ』の成立へ
4『ジョージ・スティーヴンソン伝』
5 パルヴニュー賛美の書
6『セルフ・ヘルプ』のもう一つの顔
7 有用知識普及協会からスマイルズへ
2 オーストラリア移民
―その現実から文学の世界へ―
1 オーストラリア移民キャンペーン
2 ディケンズと移民問題
3 移民でひとまず万事解決
4 堕ちた女たちのオーストラリア
5 船出とその後
3 お針子の生と死
―『シャツの歌』から『ルース』へ―
1 ロンドンの「白人奴隷」
2 仕事場のお針子
3『ルース』との関連
4 誘惑者の再出現
4 ヴィクトリア朝のユダヤ人像
―ステレオタイプの成り立ち―
1 ユダヤ人フェイギン
2〈オー・クロ!〉とスロップ・トレード
3 国会議員への道のり
4 重ね帽子を蹴とばして
Ⅲ 子ども世界の明暗
1 ディケンズとジョン・リーチ
―作家と挿絵画家の親和力―
1 出会いと友情の進展
2 底辺の子どもたちとジュヴェナイルズ
3 諷刺画の中でのつながり
2 煙突小僧の現実とロマンス
1 現実
2 ロマンス
3 ロマンスの消滅
3 ロンドン塔のエドワード王子たち
―ドラローシュの絵画とそのインパクト―
1『ロンドン塔の王子殺害』
2『エドワード四世の子どもたち』
3『ロンドン塔のエドワード王子』ロンドンへ
4 浮浪のエドワード王子
―マーク・トウェイン『王子と乞食』―
1 マーク・トウェインとエドワード王子
2 王子の底辺体験
ヴィクトリア朝とディケンズを重ねて論じた本はこれまでにもいくつか読んできましたが、リージェンシーまでとりこんだものは初めてだったので、特に興味を惹かれました。オースティンの時代でありながら、期間が短いことと、すぐあとに続くヴィクトリア朝の派手派手しさに押されるのとで、どうも影の薄いリージェンシーですが、前から何かもっと広範囲に読みやすく解説してくれている本はないものかと探していたのです。
まあ、作者はヴィクトリア朝人であるディケンズの専門家なので、リージェンシーはそのヴィクトリア朝への導入という形で第Ⅰ部で触れられているだけですが、それでも、ヴィクトリア朝が忽然と現れたわけではなく、その前段階としてリージェンシーがあったということをわかりやすく説明してくれています。しかも、それが、ダーシーたちも含まれるダンディな男性たちを教材として語られるのですから、興味が湧かないわけがない。(結局はそこか!)
ダンディズム(いま使われているのとは意味が違う)の推進者であったブランメルは、『Pride and Prejudice』のパスティーシュ「A Novel of Fitzwilliam Darcy, Gentleman」三部作で、ダーシーの従者であるフレッチャーが目標としていたダンディで、すごく印象に残っていました。そこでも、クラヴァットをいかに上手に、人とは違う形に結ぶかが滔々と語られていたんですよね。
ヴィクトリア朝の、特に下層階級や新興中流階級については、著者の専門であるディケンズやギャスケルの作品を数多く引用しているので、ついついそっちも読みたくなってしまいます。『ロンドン路地裏の生活誌』と併せて読むとさらに面白いかも。
第Ⅰ部でメインに扱われているピアス・イーガンの『Life in London』という本は翻訳が出ていないようですが、ここのところよく覗いているお気に入りブログSpitalfield's Lifeに挿絵が何枚も掲載されていました。
十九世紀ロンドン生活の光と影―リージェンシーからディケンズの時代へ (SEKAISHISO SEMINAR)
作者:松村昌家
出版社:世界思想社
ISBN:4790709981
by timeturner
| 2014-10-24 19:17
| 和書
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