2014年 10月 01日
自負と偏見 |
新潮文庫がこれまで永遠の古典として売ってきた中野好夫訳に代わる新訳として出したもので、ちくま文庫は上巻・下巻に分かれているのに一冊で完結、しかもいまどきとしては思い切り安価な890円という価格設定は、これからも長~く売っていけるはずという自信に裏付けられているからなんでしょうね。
新訳は、悪くはないけど目から鱗が落ちるほどでもないって感じかなあ。ちくま文庫版が、親しみやすいけれど少し下世話な感じがするのに対して、さすが新潮社、それなりの格調を保っているのはさすがという気がしますが、その分やや堅苦しく、翻訳調な部分が目につきます。それでいてところどころ(特に会話文で)はすっぱな調子が混ざるのに違和感を感じることも。また、二度読み直しても意味がとれない部分が何か所かありました。きっと原文をそのまま訳すとそうなるのかもしれませんが、意訳でもいいからこちらにわかるようにしてほしかった。
とはいえ、やはりオースティンの筆力、構成力は素晴らしく、途中から(リジーのコリンズ家滞在のあたりくらいから)は波にのまれて一気読みです。何度読んでも面白い!
ただ、いま私が感じる面白さはおそらく何度も読んだ読者のそれで、初めての読者にはちくま文庫版のほうがとっつきやすいんじゃないかという気がします。最初にこっちを読むと、面白くなる手前で挫折するかもしれない。
ところで、オースティンの作品には人間の性格や人生の機微についての鋭い観察に基づいた真理がぎっしり詰まっていることは有名ですし、これまで読んだときにもそう感じてはいましたが、これまではどちらかというと愛憎関係に関する記述にばかり気をとられていました。が、今回、自分も少し長めの旅行をしてきてこれを読んだら、以下の部分に目が留まりました。
自負と偏見 (新潮文庫)
原題:Pride and Prejudice
作者:ジェイン・オースティン
訳者:小山太一
出版社:新潮社
ISBN:4102131043
新訳は、悪くはないけど目から鱗が落ちるほどでもないって感じかなあ。ちくま文庫版が、親しみやすいけれど少し下世話な感じがするのに対して、さすが新潮社、それなりの格調を保っているのはさすがという気がしますが、その分やや堅苦しく、翻訳調な部分が目につきます。それでいてところどころ(特に会話文で)はすっぱな調子が混ざるのに違和感を感じることも。また、二度読み直しても意味がとれない部分が何か所かありました。きっと原文をそのまま訳すとそうなるのかもしれませんが、意訳でもいいからこちらにわかるようにしてほしかった。
とはいえ、やはりオースティンの筆力、構成力は素晴らしく、途中から(リジーのコリンズ家滞在のあたりくらいから)は波にのまれて一気読みです。何度読んでも面白い!
ただ、いま私が感じる面白さはおそらく何度も読んだ読者のそれで、初めての読者にはちくま文庫版のほうがとっつきやすいんじゃないかという気がします。最初にこっちを読むと、面白くなる手前で挫折するかもしれない。
ところで、オースティンの作品には人間の性格や人生の機微についての鋭い観察に基づいた真理がぎっしり詰まっていることは有名ですし、これまで読んだときにもそう感じてはいましたが、これまではどちらかというと愛憎関係に関する記述にばかり気をとられていました。が、今回、自分も少し長めの旅行をしてきてこれを読んだら、以下の部分に目が留まりました。
ガーディナー夫妻は一晩だけロングボーンに泊まり、翌朝エリザベスを連れて、新しい体験と楽しみを求める旅に出発した。ひとつ楽しめることがあるのは確実だった――顔ぶれが理想的なのだ。三人とも健康で常識があるから、旅の不自由にも耐えられるだろう。朗らかな性格だから、あらゆる楽しみが倍増するだろう。聡明で、しかもお互いに愛情を抱いているから、旅先でがっかりするような目に遭っても三人で和やかに乗り切ってゆけるに違いない。なんとも真実を突いた至言です。観光のための旅行になどほとんど出たことのないジェインがどうしてここまできっぱりと真実を言いあてられるのか不思議でたまりません。これはやはり天性の洞察力というしかないのでしょうね。そして、こんななんでもない数行にも決して意味のないことを書かない作家力に改めて感嘆したのでした。漱石が絶賛したのも道理です。
自負と偏見 (新潮文庫)
原題:Pride and Prejudice
作者:ジェイン・オースティン
訳者:小山太一
出版社:新潮社
ISBN:4102131043
by timeturner
| 2014-10-01 20:06
| 和書
|
Comments(0)