2014年 09月 23日
たわしと手ぬぐい |
昔、あるところに貧しい木こりがいました。木こりには娘がひとりいました。たいそう美しい娘でしたが、なにしろ貧しいのでろくな着物も買ってもらえず、顔も煤で真っ黒でした。その娘は十六の年まで父親以外の人間に会ったこともなく、町や村のにぎわいについても何ひとつ知りませんでした。
ある日、木こりが言いました。「よお、娘、この家には貧乏神でもひっついとるらしく、いくら働いてもちいとも楽にならん。だからこの家を出て町に行き、運だめしをしておいで」
娘はたいそう親孝行でしたので、父親と別れるのをひどく悲しがりましたが、父親の言うことももっともだと、泣く泣く山をおりていきました。ふもとへ着くと、町はたいへんなにぎわいで、山だしの娘はひどくまごついて神社の境内で泣いていました。するとそこへ身なりの立派な若者が通りかかり、なぜ泣いているのかと尋ねました。娘がわけを話しますと、その若者はひどく同情して、女中を求めている家へ紹介してくれることとなりました。
その家はたいそうな士族の家で、若者の頼みを聞き入れ、すぐに娘を雇ってくれました。娘もたいへんよく働きましたので、ご主人にも目をかけられ、家じゅうの人から可愛がられました。
けれどもただ一人、その家のお嬢さんはあの若者の許嫁でしたが、怪物も驚くくらい器量が悪く、おまけに意地悪でした。娘はそのお嬢さんにひどく苛められましたが、愚痴ひとつ言わずに耐えていました。そうこうしているうちに一年あまりがたちました。
お正月の日、娘が門前を掃除していますと、その前をぼろぼろの袈裟を着て、腰が海老のように曲がった坊さんが通りかかり、食べ物を乞いました。正月でもあり、みんなの食べ残しの餅がたくさんあったので、七つばかり包んでもたせました。
ちょうどそこへ若者とお嬢さんが通りかかり、若者は娘の親切な行いをとても褒めました。お嬢さんはそれがくやしくて、若者がいないところへ娘をひっぱっていくと、坊さんから餅をとりかえしてくるように命じました。娘がしかたなく坊さんの後を追い、わけを話すと、「おまえはとても心のきれいな娘だ。わしは以前、おまえの山の家に住みついとった貧乏神じゃ。おまえがどうしているかと見にきたが、あいかわらず心がけがよいので、わしは感心した。それにくらべ、あっちの娘はなんという根性曲がりだ。わしはもう、おまえの父親のところへは寄りつかないよ。そして、おまえにはこの手ぬぐいをやろう。朝晩これに水をつけて顔を拭いてごらん。いいことがあるよ」と言って、すたすたと歩いていってしまいました。
娘はそれから毎日、その手ぬぐいで顔を拭きました。すると、なにしろそれまで煤だらけで顔を洗ったことのない娘ですので、みるみるうちに元の顔になり、眼もさめるような美人になりました。ところが、お嬢さんはそれを手ぬぐいのせいだと思い、くやしくてなりません。
ある日、娘がいない時にそっとその手ぬぐいで顔を拭いてみました。けれども、もともと醜いのですから、変わるわけがありません。くやしがって手ぬぐいを引き裂いてしまいました。けれども、娘はそれからも毎日顔を洗うようになりましたので、ますます美しくなりました。
そうこうするうちに秋になり冬になり、また正月がやってきました。そしてまたあの坊さんがやってきました。お嬢さんはその姿が見えるやいなや餅をもって外にとびだし、坊さんに渡すと、今度は何をくれるのかと催促しました。
坊さんはしばらくお嬢さんの顔を見ていましたが、にたっと笑うとたもとからたわしを出し、「お前さんにはこれがぴったりじゃ」と言って渡すと、ぽおんと高く高くとびあがり、雲のかげに消えてしまいました。
喜んだお嬢さんがさっそくそのたわしで顔を拭きますと、やはりたわしのほうが顔の皮より硬いので、顔の皮がべろべろとむけて、のっぺらぼうになってしまいました。のっぺらぼうでは目が見えないので、お嬢さんはふらふらとどこかへ行ってしまいました。
お嬢さんの意地の悪さと不器量さにうんざりしていた若者はおおいに喜んで娘と結婚し、娘は山の小屋にいる父親をよんで、親子三人、何不自由なく幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
※部屋の整理をしていたら箱の底から中学2年のときに書いたとおぼしき作文が出てきました。(2Dというクラス名しか書いてないので、ひょっとしたら高2かもしれませんが、高2でこんなものを書いていたとは思いたくない)民話を書くというテーマだったのでしょうか。赤鉛筆でb+と書いてあります。甘すぎるくらいの評価ですね。
ある日、木こりが言いました。「よお、娘、この家には貧乏神でもひっついとるらしく、いくら働いてもちいとも楽にならん。だからこの家を出て町に行き、運だめしをしておいで」
娘はたいそう親孝行でしたので、父親と別れるのをひどく悲しがりましたが、父親の言うことももっともだと、泣く泣く山をおりていきました。ふもとへ着くと、町はたいへんなにぎわいで、山だしの娘はひどくまごついて神社の境内で泣いていました。するとそこへ身なりの立派な若者が通りかかり、なぜ泣いているのかと尋ねました。娘がわけを話しますと、その若者はひどく同情して、女中を求めている家へ紹介してくれることとなりました。
その家はたいそうな士族の家で、若者の頼みを聞き入れ、すぐに娘を雇ってくれました。娘もたいへんよく働きましたので、ご主人にも目をかけられ、家じゅうの人から可愛がられました。
けれどもただ一人、その家のお嬢さんはあの若者の許嫁でしたが、怪物も驚くくらい器量が悪く、おまけに意地悪でした。娘はそのお嬢さんにひどく苛められましたが、愚痴ひとつ言わずに耐えていました。そうこうしているうちに一年あまりがたちました。
お正月の日、娘が門前を掃除していますと、その前をぼろぼろの袈裟を着て、腰が海老のように曲がった坊さんが通りかかり、食べ物を乞いました。正月でもあり、みんなの食べ残しの餅がたくさんあったので、七つばかり包んでもたせました。
ちょうどそこへ若者とお嬢さんが通りかかり、若者は娘の親切な行いをとても褒めました。お嬢さんはそれがくやしくて、若者がいないところへ娘をひっぱっていくと、坊さんから餅をとりかえしてくるように命じました。娘がしかたなく坊さんの後を追い、わけを話すと、「おまえはとても心のきれいな娘だ。わしは以前、おまえの山の家に住みついとった貧乏神じゃ。おまえがどうしているかと見にきたが、あいかわらず心がけがよいので、わしは感心した。それにくらべ、あっちの娘はなんという根性曲がりだ。わしはもう、おまえの父親のところへは寄りつかないよ。そして、おまえにはこの手ぬぐいをやろう。朝晩これに水をつけて顔を拭いてごらん。いいことがあるよ」と言って、すたすたと歩いていってしまいました。
娘はそれから毎日、その手ぬぐいで顔を拭きました。すると、なにしろそれまで煤だらけで顔を洗ったことのない娘ですので、みるみるうちに元の顔になり、眼もさめるような美人になりました。ところが、お嬢さんはそれを手ぬぐいのせいだと思い、くやしくてなりません。
ある日、娘がいない時にそっとその手ぬぐいで顔を拭いてみました。けれども、もともと醜いのですから、変わるわけがありません。くやしがって手ぬぐいを引き裂いてしまいました。けれども、娘はそれからも毎日顔を洗うようになりましたので、ますます美しくなりました。
そうこうするうちに秋になり冬になり、また正月がやってきました。そしてまたあの坊さんがやってきました。お嬢さんはその姿が見えるやいなや餅をもって外にとびだし、坊さんに渡すと、今度は何をくれるのかと催促しました。
坊さんはしばらくお嬢さんの顔を見ていましたが、にたっと笑うとたもとからたわしを出し、「お前さんにはこれがぴったりじゃ」と言って渡すと、ぽおんと高く高くとびあがり、雲のかげに消えてしまいました。
喜んだお嬢さんがさっそくそのたわしで顔を拭きますと、やはりたわしのほうが顔の皮より硬いので、顔の皮がべろべろとむけて、のっぺらぼうになってしまいました。のっぺらぼうでは目が見えないので、お嬢さんはふらふらとどこかへ行ってしまいました。
お嬢さんの意地の悪さと不器量さにうんざりしていた若者はおおいに喜んで娘と結婚し、娘は山の小屋にいる父親をよんで、親子三人、何不自由なく幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
(参考:たからてぬぐい、貧乏神)
※部屋の整理をしていたら箱の底から中学2年のときに書いたとおぼしき作文が出てきました。(2Dというクラス名しか書いてないので、ひょっとしたら高2かもしれませんが、高2でこんなものを書いていたとは思いたくない)民話を書くというテーマだったのでしょうか。赤鉛筆でb+と書いてあります。甘すぎるくらいの評価ですね。
by timeturner
| 2014-09-23 12:29
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