2014年 09月 16日
猫は跳ぶ イギリス怪奇傑作集 |
1980年に旺文社文庫で刊行された怪奇短編集『夜光死体』を再編集し、収録作品の一部を差し替えたもの。『夜光死体』に収録されていて『猫は跳ぶ』に収録されなかったのは「獣の印」「死体盗人」「夜光死体」の3編。『夜光死体』には収録されておらず、新たに加えられたのは「猫は跳ぶ」と「蠅」の2編です。『夜光死体』は未読なので、探して読まなくては。
ドイルのは読んだことがあるような気がして調べたら『北極星号の船長〔ドイル傑作集2〕』に収録されていた。歴史上に実在した悪女が登場するあたりに強い印象を覚えたのかもしれない。
「故エルヴィシャム氏の物語」は、いわゆる乗っ取り話ですが、皮肉な結末が効いているし、ちょっと科学の匂いがするところがウェルズらしい。「ある古衣の物語」は、実の姉妹のあいだの仁義なき戦いで、いかにもありそうなのが怖い。
ボウエンの「猫は跳ぶ」は、残虐な殺人事件があった屋敷を格安で手に入れた合理主義者の夫婦が、引っ越し祝いを兼ねて週末に客を招いた夜の話。合理主義者連中の中にひとりだけ混じったゴシップ好きで超常現象を信奉する女の存在によって、場の空気はどんどん不穏になっていき・・・読んでるこちらもどうなってしまうんだろうと怖くなってきたら、思いがけなくもユーモラスなエンディング。これ、素直に笑っていていいのか、それとも何か本当に怖がるべきものを見落としているのか。それより猫はどこに出てたというんだ?と思いながらあとがきを読んだら、(wait to) see which way the cat jumps(旗色を見る)という慣用句があるんだそうで、うーん、だったらそれがわかる邦題にしてほしい。てっきり猫が出てくる怪談だと思って楽しみにしていたのに・・・。
「二人の魔女の宿」は途中まではゴシックホラーですが、後半に向かってゴシック・ミステリーに変身! まあ、現代人にはすっきりする結末ですが、ちょっと肩すかしでもある。
「不吉な渡し船」と「月に撃たれて」はおどろおどろしく大仰な美辞麗句が連ねられ、雰囲気だけは凄いのですが、中身はキリスト教的な説諭みたいで、いまいちピンとこない。まあ、この手のものは雰囲気に酔いしれていればいいのでしょう。
この本の中でいちばん怖かったのは「蠅」ですが、それはテーマであるタイムスリップやペストが画期的に描かれていたからではなくて、蠅という物理的な存在への嫌悪感によるもの。こういう肉体にじかに感じられるもののほうが怖いというのは、私が即物的な人間、想像力の欠如した人間だということなのかなあ。
猫は跳ぶ―イギリス怪奇傑作集 (福武文庫)
訳者:橋本槇矩
出版社:福武書店
ISBN:4828831509
革の漏斗/コナン・ドイル全体に古めかしい雰囲気の怪談が集められている印象。とはいっても決して古臭くは感じない。むしろ、いい感じにゴシック。
故エルヴィシャム氏の物語/H・G・ウエルズ
ある古衣の物語/ヘンリー・ジェイムズ
猫は跳ぶ/エリザベス・ボウエン
二人の魔女の宿/ジョゼフ・コンラッド
マダム・クロウルの幽霊/J・S・レ・ファニュ
蠅/アントニー・ベルコー
不吉な渡し舟/ジョン・ゴルト
月に撃たれて/バーナード・ケイベス
ドイルのは読んだことがあるような気がして調べたら『北極星号の船長〔ドイル傑作集2〕』に収録されていた。歴史上に実在した悪女が登場するあたりに強い印象を覚えたのかもしれない。
「故エルヴィシャム氏の物語」は、いわゆる乗っ取り話ですが、皮肉な結末が効いているし、ちょっと科学の匂いがするところがウェルズらしい。「ある古衣の物語」は、実の姉妹のあいだの仁義なき戦いで、いかにもありそうなのが怖い。
ボウエンの「猫は跳ぶ」は、残虐な殺人事件があった屋敷を格安で手に入れた合理主義者の夫婦が、引っ越し祝いを兼ねて週末に客を招いた夜の話。合理主義者連中の中にひとりだけ混じったゴシップ好きで超常現象を信奉する女の存在によって、場の空気はどんどん不穏になっていき・・・読んでるこちらもどうなってしまうんだろうと怖くなってきたら、思いがけなくもユーモラスなエンディング。これ、素直に笑っていていいのか、それとも何か本当に怖がるべきものを見落としているのか。それより猫はどこに出てたというんだ?と思いながらあとがきを読んだら、(wait to) see which way the cat jumps(旗色を見る)という慣用句があるんだそうで、うーん、だったらそれがわかる邦題にしてほしい。てっきり猫が出てくる怪談だと思って楽しみにしていたのに・・・。
「二人の魔女の宿」は途中まではゴシックホラーですが、後半に向かってゴシック・ミステリーに変身! まあ、現代人にはすっきりする結末ですが、ちょっと肩すかしでもある。
「不吉な渡し船」と「月に撃たれて」はおどろおどろしく大仰な美辞麗句が連ねられ、雰囲気だけは凄いのですが、中身はキリスト教的な説諭みたいで、いまいちピンとこない。まあ、この手のものは雰囲気に酔いしれていればいいのでしょう。
この本の中でいちばん怖かったのは「蠅」ですが、それはテーマであるタイムスリップやペストが画期的に描かれていたからではなくて、蠅という物理的な存在への嫌悪感によるもの。こういう肉体にじかに感じられるもののほうが怖いというのは、私が即物的な人間、想像力の欠如した人間だということなのかなあ。
猫は跳ぶ―イギリス怪奇傑作集 (福武文庫)
訳者:橋本槇矩
出版社:福武書店
ISBN:4828831509
by timeturner
| 2014-09-16 18:29
| 和書
|
Comments(2)
Commented
by
nobara
at 2014-09-18 11:43
x
本が軽くてめくり易いのに9篇も入っていて嬉しい。最近は文庫本でも
ずっしり重くて値段も千円を超えるのが普通になってきて・・・。
エリザベス・ボウエンの話が読みたくて買いました。お騒がせの女友達は新築の家だったとしても何かやらかしそうですね。「ある古衣の物語」
は姉妹の確執が身につまされる。衣装やアクセを娘に遺すのが当時は
当たり前だったのでしょうか。20年以上も仕舞われていた形身なんて樟脳臭がきついし因縁が深すぎて絶対身につけたくありません。
ずっしり重くて値段も千円を超えるのが普通になってきて・・・。
エリザベス・ボウエンの話が読みたくて買いました。お騒がせの女友達は新築の家だったとしても何かやらかしそうですね。「ある古衣の物語」
は姉妹の確執が身につまされる。衣装やアクセを娘に遺すのが当時は
当たり前だったのでしょうか。20年以上も仕舞われていた形身なんて樟脳臭がきついし因縁が深すぎて絶対身につけたくありません。
0
Commented
by
timeturner at 2014-09-18 19:09
薄くてめくりやすい……確かに。最近の文庫が厚くなっていっているのは文字を大きくする分ページ数が増えてしまうためだとも思うので、一概に厚いのはいやとも言えないんですが、ハヤカワポケットミステリーだけは絶対にいや。すご~く読みにくいんですもの。
古着は、それを遺した人によるかなあ。母のものは趣味やサイズが合わなかったのでほとんど処分してしまいましたが、着られたなら着たと思います。アクセサリーは使ってますし。怨念のある人のものだったら、絶対にいやだけど、若い頃はけっこう古着屋さんで買ったりもしていたなあと思い出しました。怖いことは起こりませんでした(^^)。
古着は、それを遺した人によるかなあ。母のものは趣味やサイズが合わなかったのでほとんど処分してしまいましたが、着られたなら着たと思います。アクセサリーは使ってますし。怨念のある人のものだったら、絶対にいやだけど、若い頃はけっこう古着屋さんで買ったりもしていたなあと思い出しました。怖いことは起こりませんでした(^^)。