2014年 08月 06日
《ハウルの動く城》1~3 |

魔法が存在する国インガリーで、三人姉妹の長女に生まれたソフィーは「長女は何をやってもうまくいかない」という思いこみにとらわれ、何も期待せずに帽子屋の下働きとして継母にこきつかわれていた。だが、ある日《荒地の魔女》の呪いで老婆に姿を変えられたことから家を出たソフィーは、悪い魔法使いハウルの空中の城に家政婦として住み込むことになった・・・。
うわああ、これはまたなんて面白い! ジブリのアニメ映画の原作だというのでなんとなく敬遠していたのですが、もっと早く読めばよかった。これ、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品の中でいちばん好きかも。
魔法がそこらじゅうにあふれているようなハイ・ファンタジーは嘘くさくてどちらかというと苦手です。この作品の世界はまさにそのハイ・ファンタジーではあるんだけど、ソフィーという地に足のついた、血の通ったキャラクターのおかげで嘘くささが消えて、どんなに摩訶不思議なことが起こっても平気でこの世界に浸っていられる。ハウルの出身地が魔法とはなんの関係もない(いや、ケルト的なルーツから言えばあるのかもしれないけど)ウェールズだというのも現実世界との接点になっていて、巧いなあと思う。
アニメは見ていないのでソフィーがどういうふうに描かれているのかわかりませんが、この本でいちばん凄いと思うのはソフィーの外見が老婆だということですね。若い男の前に出ても恥ずかしがったりかっこつけたりする気はなくなるから、相手の本質が見えるし、18歳だったときにはわからなかった自分より年上の人間の悩みや苦しみも理解できるようになります。まあ、実際にはそううまくいくとは思えないけど、書き方が上手なので違和感なく受け入れられます。
これまでの魔法使いや魔女の話では猫やヒキガエルがつとめることが多い使い魔役を暖炉の炎(火の悪魔と呼ばれているけど)カルシファーがつとめるというのも新鮮だったし、このキャラも小憎らしいかと思うと可愛いところもあって実に魅力的。
魔法使いハウルと火の悪魔―ハウルの動く城〈1〉
原題:Howl's Moving Castle
作者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
訳者:西村醇子
出版社:徳間書店
ISBN:4198607095

若い絨毯商人のアブダラは、ある日本物の空飛ぶ絨毯を手に入れ、絨毯に連れて行かれた夜の庭で、謎の姫君と恋に落ちた。だが二人が駆け落ちしようとしたその瞬間、巨大なジン(魔神)が現れ、姫をさらっていってしまった。傷心のアダブラはスルタンに王女誘拐の容疑をかけられ投獄されたが・・・。
『魔法使いハウルと火の悪魔』の続編、ではなくて姉妹編。どうして姉妹編かというと、あちらの続きではなく、主要登場人物も違うから。でも、ちゃんとファンの気持ちを汲んでソフィーやハウル、それにカルシファーも出てくるのがうれしいです。
初めのうちは「アラビア風の話かあ、あんまり興味ないなあ」と思って読み始めたのですが、あくまでも「アラビア風」であって「アラビア物」ではないのがミソ。しっかりダイアナ・ウィン・ジョーンズ流のファンタジーになっています。
賢くて行動力に富んだ女の子主人公が好みなのに、メインキャラクターは頼りないアブダラなので、これまた退屈するかなあと心配していたら、退屈する間もないほど次から次へと面白いことがおこります。おまけにこの作家のユーモア感覚ときたら! ほとんど毎ページごとにくすっとくる笑いを仕込んであるのです。それも子ども向きの他愛ないものではなく、ちゃんと大人でも笑えるウィットに富んだユーモアです。
アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城〈2〉
原題:Castle in The Air
作者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
イラスト:佐竹美保
訳者:西村醇子
出版社:徳間書店
ISBN:4198607516

ハイ・ノーランド国の首都で暮らすチャーメインは、上品な娘にしたいという両親に育てられたため家事はいっさい教えられたことがなく、本ばかり読んでいる少女だった。だが、大おじさんの王室づき魔法使いウィリアムが病気で不在にする留守番をすることになってしまう・・・。
『アブダラと空飛ぶ絨毯』に続く《ハウルの動く城》第三弾。とはいっても第二弾同様、まったく新しい主人公を立て、話の中身も独立していて、それにハウルやソフィーといったシリーズ共通のキャラクターがからんでくるという形です。ハイ・ノーランドは前作でジンに誘拐された王女たちのひとり、ヒルダ王女の国なので、前作に出てきた料理人ジャマールとその狂暴な犬が登場するのが楽しい。というか、前作を書いているときに続きはハイ・ノーランドでという心づもりがもうあったんだろうな。
相変わらず奇想天外な生き物や出来事が目白押しで、息つく間もなく話が展開するのですが、今回はちょっと失速気味というか、これまではさまざまなアイディアが互いに絡み合い、関連し合って、最後には気持ちよく収束していったんですが、今回はアイディアそれぞれが孤立していて、うまくまとめきれていない印象がありました。
ソフィー⇒アブダラ⇒チャーメインと、メインキャラの性別が入れ替わり、今回は私好みの元気な女の子キャラだったのに、いまいち好感がもてなかったというこちら側の要因もあるのかもしれない。本好きの女の子なんてもろに私のツボなのになあ。初めのほうでチャーメインがミートパイを食べながら本を読むシーンが出てきたのがよくなかったのかも。あんな脂っぽいもので汚れた指でページをめくるなんて、考えただけでぞっとします。しかも、ページに落ちたパイくずをミートパイ本体で払い落したりするんですよ。「やめろーっ!」と叫びそうになりました。本を汚すことに抵抗を感じない作家もいるんですね。
ハウルやソフィー、それに大好きなカルシファーのキャラも今回はなんだか表面だけなぞったようで、わざわざ出てきたわりに面白くない気がする。まあ、前二作がよすぎたから期待するものが大きすぎるんでしょう。世間一般の児童向けファンタジーの基準はらくらくクリアしていると思います。
チャーメインと魔法の家 (ハウルの動く城3)
原題:House of Many Ways
作者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
訳者:市田 泉
出版社:徳間書店
ISBN:4198636141
by timeturner
| 2014-08-06 20:26
| 和書
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