2014年 06月 22日
われはラザロ |
強制的な昏睡、恐怖に満ちた記憶、ロンドンに轟く爆撃音、敵機のサーチライト・・・。アンナ・カヴァンが第二次世界大戦中に執筆した、『アサイラム・ピース』につぐ二作目の短編集。表題作ほか14編収録。
最初に本を見たとき、思っていたより厚いのでびっくりした。中身を見て納得。文字が大きい! 私にはありがたいけど、若い読書家には腹立たしいほどの大きさかも。(若い頃は文字が小さくて二段組みでぎっしり詰まっているのがうれしかった)
そんなことはともかく、中身の話。『アサイラム・ピース』でのように宿命的に精神を病んでいる人たちに、戦争で病んでしまった人たちが加わり、相変わらず暗い穴に追い込まれて逃げ場がないような世界が繰り広げられる。でも、『アサイラム・ピース』にあった硬質なエッジが鈍く柔らかくなっているような気もする。説明をつけようとすると狂気は純粋でなくなるのかも。
「われらの都市」は連作短編のような形になっていて、戦時下のロンドンを描いているが、どこまでもポジティヴなアメリカ人コニー・ウィリスが『ブラックアウト』『オール・クリア』で描いたロンドンとわずかに重なる部分があることはあるものの、こちらはどこまでも影の街路が重なり合い、生きた人間の気配が見当たらない。このあたりはとても興味深かった。
われはラザロ
原題:I am Lazarus
作者:アンナ・カヴァン
訳者:細美遙子
出版社:文遊社
ISBN:4892571059
最初に本を見たとき、思っていたより厚いのでびっくりした。中身を見て納得。文字が大きい! 私にはありがたいけど、若い読書家には腹立たしいほどの大きさかも。(若い頃は文字が小さくて二段組みでぎっしり詰まっているのがうれしかった)
そんなことはともかく、中身の話。『アサイラム・ピース』でのように宿命的に精神を病んでいる人たちに、戦争で病んでしまった人たちが加わり、相変わらず暗い穴に追い込まれて逃げ場がないような世界が繰り広げられる。でも、『アサイラム・ピース』にあった硬質なエッジが鈍く柔らかくなっているような気もする。説明をつけようとすると狂気は純粋でなくなるのかも。
われはラザロ『アサイラム・ピース』にもあった、どことも知れぬ当局との果てしない攻防を描く作品もいくつかある。こちらのほうがより詳しく描かれているにもかかわらず、いや、だからなのか、あのせきたてられるような焦燥感が伝わってこない。病弱で心もねじまがった兄と何もかも理想的な弟の関係を描いた「弟」はありがちな話に思えてしまう。「カツオドリ」はすごく怖かったけど、最後の4行はカヴァンらしくない気がする。
眠りの宮殿
誰か海を想はざる
度忘れ
輝かしき若者たち
わが同胞の顔
天の敵
弟
カツオドリ
写真
あらゆる悲しみがやってくる
ある経験
ベンホー
わたしの居場所
われらの都市
「われらの都市」は連作短編のような形になっていて、戦時下のロンドンを描いているが、どこまでもポジティヴなアメリカ人コニー・ウィリスが『ブラックアウト』『オール・クリア』で描いたロンドンとわずかに重なる部分があることはあるものの、こちらはどこまでも影の街路が重なり合い、生きた人間の気配が見当たらない。このあたりはとても興味深かった。
われはラザロ
原題:I am Lazarus
作者:アンナ・カヴァン
訳者:細美遙子
出版社:文遊社
ISBN:4892571059
by timeturner
| 2014-06-22 22:39
| 和書
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